東京マラソン初開催以降、ランニングブームと言われるようになって10年以上経ちますが、設定した目標を達成するため栄養やエネルギー面で試行錯誤を続ける市民ランナーが増えているようです。メルマガ『届け!ボディメイクのプロ「桑原塾」からの熱きメッセージ』の著者、桑原弘樹さんは、どんなスポーツも競技特性に則した栄養・エネルギー摂取が大切だとして解説。ランナーが陥りやすい糖質不足について注意するよう促しています。
競技特性を理解し専門的な取り組みを
Q.趣味としてランニングをしています。以前、ランナー向けのセミナーを実施されていたかと思うのですが、その時のお話にあったランニングの競技特性とその対応の仕方を教えてください。(44歳、男性)
桑原塾長からの回答 ~ゴルフの競技特性とは~
競技特性とはその競技ならではの特徴です。極端な話かもしれませんが、お相撲さんがランニングをしても決して速くは走れませんし、逆にトップランナーでムキムキマッチョの人はあまり見かけないでしょう。
また、ボディビルダーが野球をやってもどこか投球フォームがぎこちなかったりもしますが、だからといってボディビルダーの運動神経が鈍いというわけではありません。
あくまでも身を置いている競技の特性の違いによって、その競技に特化すればするほど他の競技のパフォーマンスからはかけ離れていく側面があるからです。つまり、競技特性を理解しておくことは、その競技をより専門的に取り組みやすくなることでもあります。
エイジシュートという言葉を聞いたことがありますでしょうか?ゴルフ用語の1つなのですが、自身の年齢以下のスコアで回ることを指します。例えば70歳の人が69でラウンドしたような場合がエイジシュートです。
これはゴルフという競技がかなりの高齢になっても、高いパフォーマンスを発揮できるから成し得る業であるともいえますが、それはゴルフの競技特性のひとつが、運動強度が低いということだからです。
そしてもう1つゴルフの競技特性をあげるならば、競技時間が長いということです。プロがスルーで回っても5時間ほどはかかりますから相当な長時間といえます。
この二つの競技特性を持ちあわすことで、ゴルフという競技独特の特徴が見えてきます。それは、いつ疲れたのかに気が付かないということです。多くの競技は疲れる瞬間が分かります。30kmの壁とか90分の壁とか、ランニングなどもまさにその疲れる瞬間との戦いでもあります。
ゴルフはそこに気がつきにくいので、気が付けばずるずるとスコアを落としてしまうという事が起きがちであり、裏返せばその手前での疲労対策がゴルフの競技特性に鑑みたパフォーマンスアップ対策でもあります。
桑原塾長からの回答 ~ランニングの競技特性とは~
さて、ご質問のランニングの競技特性ですが、まず1つ目は体重とパフォーマンスが相関関係にあるということでしょう。WHOの肥満度の判定基準ではBMI(体重kg÷身長mの二乗)は18.5~25が普通体重とされ22が理想とされていますが、恐らくトップランナーでBMI22という選手はほとんどいないのではないでしょうか。
つまり、ランナーにとってのBMIはより低い数値となります。ランニングを始めたばかりの頃はまだランナー体型にありませんから、少しでも体重を落としてBMIの数値を下げていくことと連動してタイムもよくなっていきます。
そして、ランニングの競技特性のもう1つは、練習量とタイムが連動しやすいということです。距離を踏めば踏むほどタイムが良くなるということは、多くのランナーが経験していることでもあります。
もちろん、どんな競技においても練習は大切であり、すればするほど上達するのは当たり前ですが、例えば、ゴルフのような場合は、下手なフォームでひたすら練習を重ねても、一向に上達していかないというケースはままあります。
つまり、間違ったフォームをひたすら体に覚え込ませていることになるわけです。ところが、ランニングの場合は、多少我流のぎこちないフォームであっても、距離を踏めば踏むほどタイムは向上していく傾向にあります。
つまり、走れば走るほど速くなるという、至って分かりやすい構図が成り立っているのです。体重を落としつつ走行距離を伸ばす。 このランニングにおける競技特性に鑑みて、まずは少しスリムな体型を目指しながら練習量を増やしていくということが、とりあえずランニングのパフォーマンス向上への効率的な方法といえるでしょう。
ランニングを始めるとカロリー消費量が増えますから、一般的には体重は減っていく傾向にあります。そして、それと連動するかのように、少しずつタイムが向上していきます。明らかに膝や腰への負担感も軽減され、体重減=タイムの向上の構図が間違いないのだと確信するはずです。
しかし、気を付けなくてはいけないのは、その構図は永遠には続かないということです。これもすべての競技に言えることですが、必ず停滞期は訪れます。その停滞期を脱するために色々な工夫や努力をしなくてはなりませんが、ともするとランニングの場合には体重減=タイムの向上という構図に頼り過ぎてしまい、ひたすら減量をしてしまうというケースが多いように感じます。
そして、それはビギナーのみならず、上級者レベルのランナーにおいても陥りがちな落とし穴なのです。確かにランナーは一般人よりもBMIが低めです。それは膝や腰への負担の軽減にもつながりますし、そもそも体重という重りを背負って走るわけですから、体重が軽い方の負担が少ないのは当然です。しかし、これはあくまでもランニングにおける適正体重が一般人よりも低いというだけの話であって、軽ければ軽いほど有利になるわけではありません。(メルマガより一部抜粋)
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