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一生忘れない。ハンディキャップを持って生まれた兄が遺したもの

近年の日本は社会福祉の幅も広がり、ハンディキャップのある子どもたちへの通学支援なども拡充され始めた観もあります。今回の無料メルマガ『いじめから子どもを守ろう!ネットワーク』では、「障害を持つ子どもとともに生きた家族の体験談」として、今から半世紀前、すでに障害児教育に尽力していたある学園の教育内容から学んだ「人生の意義」について記しています。

ありがとう

私には、6才年上の知的障がいを持つ兄がいました。ダウン症という名の知的障がいです。

もう半世紀以上もの昔の話です。昔はまだ、学齢期になっても、障がい児には教育を受ける場がありませんでした。家庭の事情もありましたが、兄は、寄宿制の学園にお世話になっていました。今ならば、福祉も教育も充実していますから、自宅から学校に通えたかもしれません。しかし当時は、家から離れるしか、障がい児に、教育の機会はありませんでした。

本人にしてみたら、それはなんといっても、自宅で家族と一緒にいるのが一番いいでしょう。ですから、寄宿制の学園に行くのが、嫌で嫌でたまらなかったようです。しかし家にいたままではテレビを見るだけで毎日が終わってしまいます。学園で19歳までお世話になったからこそ、多くを学べ、また色々な経験をすることもできたと思います。本人にとっては大変だったでしょうが、結果的には非常にありがたかったことだと思っております。

お世話になった学園の、園長先生ご夫婦は、キリスト教の信仰を持たれた、まことに立派な人格者でした。そして、ご自身もダウン症のお子さんをお持ちでした。お子さんの教育の機会がないことを憂えてでしょうか、私財をなげうたれて学園を始められ多くの知的障がい児を受け入れていらっしゃいました。子供心にも、立派さが肌で感じられる、見事な信仰者だったと思います。

そこで、園長先生が、子供たちや保護者の皆さんに教えていらっしゃったことで、今でも覚えていることがあります。それは「ありがとうという言葉を覚えなさいという教えでした。人は、誰でも他の人のお世話になって生きています。特にあなた方は、おとうさん、おかあさんや、兄弟たち、そして多くの人の、お世話になります。だから「ありがとう」という言葉を覚えて、いつも言うようにしなさい

兄は40年で、その短く少し悲しい生涯を終えました。最後は、白血病という病を得て、病院で両親に見守られて帰天しました。お世話になった園長先生の教え通りに、「ありがとうと最後まで言い続けて息を引き取りました。不自由な肉体に、しかも病を得て、かなり苦しかったようです。しかしその苦しい中でも、看護師の皆さんにお世話になると、ニッコリと笑って「ありがとう」と言い続けたそうです。

不思議なことですが、亡くなる少し前に、何かに驚いたように、まん丸に眼を見開いて、天井の方をキョロキョロと見ていたそうです。心清いままの生涯でしたから、お迎えに来た、天使たちを見ることができたのでしょう。

一生涯の間、一度も声を荒げることもなく、友人に暴力を振るわれても「だめよ」と言うだけで抵抗もせず、なぜか不思議に国会中継を食い入るように見ていた、そんな兄でした。

役に立つか立たないか、そうした有用性の物差しだけで見たならば、何の役にも立たなかった生涯です。しかし、人は死んでも、何度も生まれ変わってくる「生き通しの魂」だと聞きます。色々な時代に様々な境涯で生まれ多くの経験を得るために生まれてくる。そうならば、どんな人生にも意味はあります

障がい者として生まれ、不自由な人生の中で、感謝の心を学び、とは何か、感謝とは何か、それを家族や周囲の多くの人々に学びとして与えた人生。どんな人生にも意味はあります。笑顔と「ありがとう」の感謝の心。それしか兄にはできませんでしたが、それでも多くの仕事をこの地上で成し遂げたと思います。

少なくとも我が家族は、兄がいなかったら、鼻持ちならない、そんな人間ばかりだったでしょう。ある意味、身を捨てての生涯愛の生涯を、障がい者の方々は担っているのでしょう。

自分には何もできないそう思う人も多いかもしれません。しかし、笑顔は浮かべられます。ありがとうと感謝することも可能です。誰であっても愛に生きることは可能なのです。それを身を挺して示す魂たちが、不自由な肉体に宿って、たった今も奮戦している。そんな風に思っているのです。

こしがやじろう

image by: Shutterstock.com

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