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沖縄県民が、普天間の代替施設は県内以外でも良いと信じ込む理由

沖縄県が2月24日に実施する県民投票について、前回の記事『なぜ沖縄の県民投票は「辺野古埋め立ての賛否」のみ問うのか?』で沖縄で確認されてこなかった根本問題について指摘した軍事アナリストの小川和久さん。今回もメルマガ『NEWSを疑え!』で、沖縄が抱える問題に言及しています。沖縄に存在し、問題解決を遅らせているという「情報格差」の実態とは、どのようなものなのでしょうか?

「情報格差」が生み出す沖縄の議論

Wikipediaには「情報格差」について、次のような説明がでています。

「国内の都市と地方などの地域間の格差を指す地域間デジタル・ディバイド、身体的・社会的条件から情報通信技術(ICT)を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる格差を指す個人間・集団間デジタル・ディバイド、インターネット等の利用可能性から国際間に生じる国際間デジタル・ディバイドがある」

これはITに関する「情報格差」の説明ですが、PCを使いこなせるかどうかといったこと以前に「情報格差」の問題を痛感させられたのが、2月24日に沖縄県が実施する県民投票についての動きです。

私は2月7日夜、那覇市の沖縄タイムスホールで行われた沖縄県主催の「県民投票フォーラム」で講演し、パネルディスカッションにも参加してきました。そこで、相も変わらず続いている「情報格差」を目の当たりにしたのです。誰がどのように発言したのかは申し上げませんが、古くから知っている人のこと、その人の発言を聞きながら、沖縄県における「情報格差」は東京との「距離」の面と「イデオロギー」の面から生じているように感じました。

距離の面では、東京の新聞が午後にならないと届かなかったり、テレビの放送内容が限られていたりすることから生じていると思われます。この問題は、地方のオピニオンリーダーが備えるべき知識などを低い水準のものにしている点で、深刻です。

同じニュースを報じていても、関西や九州、東北、北海道の新聞紙面と東京の紙面が扱いの大小や詳しさにおいて大きな違いがあり、それを読んでいる大学の研究者やジャーナリストに知識における「情報格差」が生じているのは沖縄だけではありません。これは、研究者やジャーナリストがその現実を自覚し、格差を乗り越えるために東京の新聞などを手に入れることだけでも克服できないわけではありません。しかし、そこにイデオロギーが関わってくると客観的な議論が不可能なほど、バイアスがかかることになります。

イデオロギー面の「情報格差」は、沖縄の新聞が共同通信のニュースで紙面を作っている結果、共同通信の報道姿勢に影響された知識や考え方が広がっていくことがひとつの原因です。さらに、人間には同じ考え方の者だけが群れる性質があり、自分たちの耳に心地よい話、都合のよい情報だけを共有し、固まる傾向が生まれます。

そこで沖縄の基地問題ですが、ここで述べてきたような「情報格差」の結果、県内の議論が問題解決を遅らせているように思われてなりません。

例えば米国海兵隊の作戦概念についてですが、2002年の段階で「シー・ベーシング」(強襲揚陸艦などの海上基地からの直接行動)という考え方に変わり、必要のないところではノルマンディー型の上陸作戦はしなくなっています。海兵隊地上部隊の長距離機動も、湾岸危機で初めて使われたCRAF(民間予備航空隊)制度によるチャーター機で行われます。わざわざ強襲揚陸艦に乗って敵前上陸する場面は限られているのです。

ところが、沖縄県内で著名な大学教授などは「長崎県佐世保を拠点とする強襲揚陸艦を沖縄に回航して海兵隊地上部隊を乗船させなければ、朝鮮半島での上陸作戦は不可能。それを考えると、海兵隊地上部隊の基地と演習場は佐世保に近い長崎県内に置くのが合理的で、飛行場も海上自衛隊大村基地や佐賀空港を使うべきだ」などと、いまだに口にしているのです。

朝鮮半島有事に限れば、確かに朝鮮半島の東西海岸から上陸作戦を行う必要性があり、佐世保の4隻の揚陸艦には中規模以下の上陸作戦の司令部機能が備わっています。これは、少なくとも4カ所から上陸作戦を行うという北朝鮮に対するメッセージで、これによって北朝鮮の軍事的暴走を抑止してきた面があるのです。

朝鮮半島有事に海兵隊が動く場合、沖縄の海兵隊地上部隊はCRAFのチャーター機で韓国に直行します。そして、上陸作戦を行う場合は佐世保から釜山に直行した揚陸艦や米本国から合流してくる揚陸艦艇に乗船するのです。海兵隊地上部隊が、そのまま韓国駐留の米陸軍第2師団と合流して地上戦闘に投入される場合もあります。

しかし、沖縄の有識者の無知と誤解に基づく説明を聞くと、沖縄県民は普天間基地の代替施設は沖縄県内ではなくてもよい、と信じ込んでしまうのです。これでは、米軍基地問題の解決について地に足のついた議論はできません。

沖縄県は、辺野古埋め立ての是非を問う前に、「情報格差」に関する県民投票を実施する必要があるかもしれませんね。(小川和久)

image by: roibu, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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