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心を奮い立たせる一言。黒四ダム建設に命をかけた男・太田垣士郎

現在では観光客で賑わっている黒四(黒部)ダムですが、建設計画が立ち上がったころの現場は、まだ高度な登山技術が無ければたどり着けない秘境の地でした。建設資金を調達し、山間部の奥地までいかにして建築資材を送り込むか、などの難題に取り組んだのが、当時の関西電力社長・太田垣士郎です。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、関西の電力不足を解消した、太田垣社長の先見性に満ちた手腕を紹介しています。

言葉から滲み出る「経営者の格」

北アルプスの奥地にそびえる黒四ダム。その規模の大きさと建設の困難さから、実現不可能とも言われていました。その大事業に果敢に挑んだのが、関西電力初代社長の太田垣士郎でした。

どんなリスクが待ち受けていようとも、信念を持って臨むその姿には、経営者としての格違いを感じさせられます。

志ある者、事竟(ことつい)に成る 北康利(作家)

発足間もない関西電力には難問が山積しており、太田垣の社長就任はまさに飛んで火に入る夏の虫であった。しかし彼は、とりわけ深刻な電力不足に対応するため、戦前に頓挫していた丸山ダムの建設再開や、多奈川火力発電所の建設などの大きな決断をする一方、徹底した経費節減によって、後に九つの電力会社で随一となった経営基盤の実現へ道筋をつけていった。

そうした中で決断に至ったのが、黒四ダムの建設であった。

黒四は人跡未踏の地に一大ダムを建設しようとする試みである。北アルプスにそびえ立つ立山連峰と後立山連峰の間のV字谷が黒部峡谷であり、高度な技術を持つベテラン登山家以外足を踏み入れたことのない秘境。それはまさに想像を絶するほど過酷な現場であった。

戦前にもその構想はあったが、工事の難しさと費用が膨大に上ることから着工の目処が立たなかった。とりわけ懸案になっていたのが、奥地にある建設現場へ大量の建設資材をいかに運び込むかということであった。これに対し、北アルプスの真下に長さ3.5キロのトンネル大町トンネルを掘り、鉄道のある長野県大町市からダム建設現場まで一気に結んでしまおうという提案が上がり、太田垣はそれに懸けることにしたのである。

役員会では様々なリスクが指摘されたが、太田垣は言った。

「経営者が10割の自信をもって取りかかる事業。そんなものは仕事のうちには入らない。7割成功の見通しがあったら勇断をもって実行する。そうでなければ本当の事業はやれるものじゃない。黒部はぜひとも開発しなきゃならん山だ!」

この言葉に心を奮い立たされた役員から、もう消極的な意見は出なかった。

もっとも、失敗すればその影響は関西電力一社に止まらない。事業に参加する日本の名だたる建設会社が総崩れとなる。太田垣にとっては絶対に負けられない戦いであった。ゆえに彼は、松永安左エ門の力も得ながら電力料金の値上げに踏み切って内部留保を充実させ、経費節減を重ねてバランスシートを改善し、外資導入というダイナミックな資金調達にも取り組み、最終的に512億円にも上った総工費を賄い得る財務構築に邁進した。

なおかつ黒四に先駆けて手掛けた別のダムの建設を通じて周到に技術の蓄積も図っていた。

一見無謀でありながら、太田垣の中では勝てる確信をもって臨んだ戦いであり、そうした先見性に満ちた手腕こそは小林一三のもとで培われたものであった。

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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