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尖閣周辺で続く中国の領海侵犯。海保の規模と予算は適正なのか?

報道によれば、3月2日、尖閣諸島周辺で中国公船が領海に侵入。領海侵犯は今年に入って既に7回目とのことです。これを受け、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんが、侵入している中国公船の陣容について確認し、一部で報道される「強力な武装」には当たらないと解説します。しかし、中国海警局の戦力が着々と補強されていることにも触れ、海上保安庁の適正規模を問い、すみやかな対応が必要だと訴えています。

尖閣の現場でみる中国公船と海保巡視船

今年になって、尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵犯が続いたので、どんな顔ぶれになっているのかチェックしてみました。例えば、2月26日に領海侵犯し、28日に公海に出たのは次の4隻です。

そして、それと入れ替わるように次の4隻が領海に侵入しました。

これを見てお気づきと思いますが、公船の編成には一定のパターンがあり、4隻の場合は武装しているのは1隻だけに限定しています。

しばしば、「強力な武装をした中国公船が領海侵犯した」と報道されることがあったりしますが、「強力」かどうかは彼我の比較、つまり海上保安庁と比べて語られる必要があります。

主に中国公船に対応しているのは第11管区海上保安本部(那覇)の尖閣領海警備専従部隊の「くにがみ」型巡視船(満載排水量1700トン)10隻と、場合によって専従部隊に加わる宮古島海上保安部の「とから」型(満載排水量350トン)1隻、「しもじ」型(満載排水量200トン)9隻、「かがゆき」型(満載排水量100トン)1隻の計11隻です。

こちらは、「くにがみ」型が20ミリバルカン砲(6銃身)と30ミリ機関砲、「とから」型と「しもじ」型が20ミリバルカン砲、「かがゆき」型が12.7ミリガトリング砲(3銃身)を搭載しています。この顔ぶれの中で、非武装の巡視船は1隻もありません

これを見れば、武装において勝っているのは海上保安庁の巡視船のほうだということがわかります。安心してはならないと言っても、海保の陣容を見れば心強いかぎりです。

報道の中には、「機関砲のようなものを搭載している」というものもありましたが、写真で確認するとカバーを掛けた放水銃でした。

中国メディアが「第2海軍」と呼ぶ海警局は、もともと国務院に所属していましたが、2018年7月、共産党中央軍事委員会の統制を受けることになりました。

そこで、「海警局は組織面だけでなく、公船の大型化と武器の充実も顕著で、『海軍との一体化』が進む」「海警局は退役した海軍艦艇などから大型砲を除去して再利用しているとされる」といったセンセーショナルな報道が出ることになります。

しかし、「武器の充実」は顕著ではなく、むしろ抑制的でさえあります。海軍艦艇を再利用した巡視船は6隻にとどまっています。

着々と増強される中国海警局の公船に対して、海上保安庁の巡視船艇は435隻です。海保によると、2012年に海保は1000トン以上の巡視船を51隻、中国側は40隻を保有していましたが、現在では中国が倍以上と逆転し、2019年は日本67隻、中国145隻になる見通しとのことです。

しかし、さらに増強が計画されている一方、中国の公船は東シナ海だけに投入されるのではありません。南シナ海など広大な海域に展開するためのものです。それを考えると、比較においても違った評価が出てくるはずです。

あたかも、全ての公船が日本に向けられるかのおどろおどろしい議論は、木を見て森を見ずの議論に陥りがちで、そこから生まれる泥縄式の海保増強論は、かえって地道な海洋権益保全の政策を歪めかねません。海保の定員を大幅に増やし、育成しなければ、いくら船と武器を増強しても、望むべき機能を発揮できません。

日本の領海と排他的経済水域を含めると世界第6位です。安倍首相には、中国より広い海域を抱えている海洋国家として、海洋権益の屋台骨である海上保安庁の適正規模を国民に問いかけることを始めて欲しい。そして、すみやかに予算的には現在の3倍、規模的にも現在の2倍を実現してもらいたいものです。(小川和久)

image by: Igor Grochev, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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