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第7回「よみがえる気仙沼線写真展」のテーマを「春」とした理由

3月16日まで、東京・代々木のカフェヌックで「よみがえる気仙沼線写真展」が開催されています。今年の写真展のテーマは「春」。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者で、この写真展にも関わってきたジャーナリストの引地達也さんは、7回目にして「春」という何かが始まる印象のテーマを選んだ理由を語ります。大震災から8年となる3月11日まであと少し。写真展で被災地に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

7回目の「よみがえる気仙沼線写真展」のテーマは「春」

東日本大震災の2年後から始まった東京・代々木のカフェヌックでの「よみがえる気仙沼線写真展」は今年で7回目を迎えた。毎年震災の時期に、鉄路での復旧は見込めないJR気仙沼線の震災前の姿と風景の写真を展示し、震災のことを想い、語り継ぐための催しとして開催している。

震災前に気仙沼線を風光明媚な景色と季節とともに撮影してきたアマチュア写真家、工藤久雄さんから写真の提供を受けて実現しているこの企画だが、気仙沼線の写真は列車だけではなく、一緒に映り込む風景がいい。

空、雲、太陽、雲、海の自然素材ははもちろん、鉄橋、畑、小川とも相性がいい。漁船、大漁旗、波しぶき、かもめ、海水浴場は沿岸部ならではの情景。どれも列車と人の営みが結ばれているようで、温かなぬくもりのある写真ばかり。そして今年の展示テーマは「春」とした。桜と気仙沼線、である。

当初は気仙沼線と風景の写真を「気仙沼線写真展」とし写真だけを展示してきたが、最近では気仙沼線沿岸の方々のコメントなどを添えて展示する「気仙沼線写真展WITHことば」で写真にそれぞれの思いをシンクロさせた。それは、悲劇を共有する、ようなメッセージであったが、今年の「よみがえる気仙沼線写真展~春~」は何か始まる、ような明るい印象もある。

気づけば桜の花との緑色の列車は相性が良いようで、桜と気仙沼線の写真が店内に並べられると、雰囲気がぱっと明るくなる。東日本大震災が背景にある企画であるため、「桜」というテーマを選ばなかったのは、そのような発想がなかったのだろう。先日、被災地を歩いてきて、震災による後遺症はあるものの、誰もが元気に未来に向かって取り組んでいる姿に触れ、自然と私も桜に気持ちが向いたのかもしれない。

その未来に向かっている姿の1つが気仙沼線沿いの気仙沼市本吉地区の知的障がい者の母親のグループ「本吉絆つながりたい」である。

前回のコラムでも紹介したように、現在の母親たちの夢は「子どもたちと一緒に暮らせるグループホームの建設」だ。この気仙沼線写真展の会場にもこの夢を支援するための募金箱を設置している。募金箱の横には、気仙沼線のポストカード三種類を用意し、無料で進呈しているので、是非持ち帰って、写真で気仙沼線にふれ、震災を感じてほしい。

写真展開催中には、歌曲「気仙沼線」を歌っている元関取で歌手の大至さんが自ら作るちゃんこ鍋を食べながら、大至さんの歌を聴く企画もある。私も毎年、その際に来場者とお話させていただいている。毎年、震災のことを考え、しっとりとなる場面もあるが、今年は桜に囲まれながら、未来に向かっての話をしようと考えている。

それでも心中疼くのがこの時期だ。多くの命があっという間に亡くなったのは変わりない。歌曲「気仙沼線」の歌詞の中では、真横を気仙沼線が走っていた気仙沼市の大谷海岸海水浴場で遊ぶ子供がいなくなった風景を書いた。

今、大谷海岸駅はプラットホームと鉄路が一緒に残っている数少ない場所の1つとなっている。海水浴場には黒い袋詰めの土嚢が砂浜を埋め、遊ぶ子供はいない。プラットホームには震災後早くから献花台が設けられ、木彫りの仏像が雨風に打たれながら、手を合わせる人を迎えている。大谷海岸に来る度に、この仏像を拝観しているが、風雨に打たれた年月のせいか、何となく表情が穏やかになっているのは気のせいだろうか。

気仙沼線写真展では、その仏像の写真が出迎えることになっている。この写真でも震災を感じてほしい。

image by: ChiefHira [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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