明治時代に確立した日本の教育で試験が重視されたのは、「日本を守るため」の人材選抜が必要だったからだと語るのは、メルマガ『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』の著者、武田邦彦中部大学教授です。武田先生は、国が置かれている状況が大きく変化した今の時代には、もはや試験は必要ないと持論を展開。人間を育て、個性を伸ばす「教育」の本来の姿へと転換すべきだと訴えています。
明治から変わらない学校の教育。今こそ転換期では?
現在の日本人が考える「明治維新」は、とてものんびりとしたもののように思います。その結果、「日本が戦争をしたのはなぜか?」とか「軍国主義」などを間違って考えているように思います。
西暦1600年。日本はポルトガル、スペイン、オランダの脅威に晒されていました。1494年にスペインとポルトガルの間でトリデシリャス条約が結ばれ、日本では1543年の鉄砲伝来、1550年キリスト教の伝来などとしてヨーロッパの影響が及んできたが、それは偶然の出来事ではありませんでした。
もしその時代、日本が武家政治ではなく戦国時代でなければ、日本の軍備が遅れ、アジアの諸国のようにたちまち日本は植民地となり、大勢の人が殺されたでしょう。
ところが幸いなことに日本は戦国時代でしたから、当時の世界でもほぼ最強の軍隊を持っていました。それを織田信長らの武将が率いていたので、ヨーロッパ勢は日本だけは手がでませんでした。だから「鎖国」ができ、「キリシタン禁止」が可能だったのです。
それから約250年。ポルトガル、スペイン、オランダに代わって新興勢力として台頭していたアメリカ、イギリス、フランスなどが大挙して日本に襲ってきたのが幕末だったのです。アメリカは浦賀に軍艦(黒船)を停泊させて強引に日本を開国させましたが、長州が四国戦争で頑張り、薩摩が薩英戦争で勝利して、一段落したのですが、ヨーロッパ勢の圧力は相当なものでした。
アジアの独立国としてなんとか国力を上げようとした日本は、近代国家になり、富国強兵を唱え、教育に力を入れました。その時の教育の目的は「日本を守るため」だったのです。
日本を守る教育
スポーツならだれでもイチローになれるわけではないことはよくわかりますが、「頭の性能」は目に見えないので理解が難しいのです。もちろん記憶力や考える力は人によって大きく違いますから、もし本当の「教育」なら、「合格点のある試験をする」とか「入学試験を行って学生をふるいにかける」などは必要ないのですが、国家を守る教育となると、優れた人を選抜し、合格点をつけて何が何でも国民を一定レベルにしなければなりません。
それはスポーツで言えば、スポーツが下手でボールを投げれば60キロしかでない女子高校生に無理に筋肉をつけて100キロという合格点まで行くようにすることと同じですから、その苦痛たるやひどいものなのです。当然、落ちこぼれもでるし、かわいそうな子供を大量に作ります。それでも日本の独立のためには必要だったのです。
今の教育
今は全く違います。私たちの先祖が頑張ってくれたおかげで、有色人種では唯一、立派な独立国として続き、今では白人のトップのグループであるサミットにも有色人種で日本だけが参加しています。しかし、日本社会の一部のシステム、たとえば教育などは明治時代のままで変化はしていません。変えなくても良いものもありますが、「本来の姿」に戻る必要のあるものは戻さなければならないのは当然です。
「入試」は必要か?これからは「個性を伸ばす教育」
「教育は何のために誰のためにやるのか」と「教育は本来、何をやるべきなのか」の二つが基本的に決めなければならないことです。
まず、教育は一人の人が幸福になるために行うことで、国家は総合的に良い方向に行きますが、直接的に国家のために教育をする必要はないということです。
人間の大脳は何の知識もなく生まれてきますし、人間が人間たる理由の一つは大脳に知恵が詰まり、それによって野獣のような人生を送らなくてもよいのです。だから、古今東西の哲学や文学、歴史、社会の仕組み、それに科学や地球、宇宙などを知ることによって、喧嘩もしなくなり、人生が豊かになり、判断が正しくなります。それが教育の第一の役割です。
第二に、教育を受けることで知識を増やすことと、自分の中に眠っている才能を開花することです。前者を「伝達(伝えて覚える)」といい、後者を「教育(引き上げる)」といいます。あくまでも教育を受ける本人のためであり、国家の利得は間接的です。
そうなると、「試験の目的」が変わります。これまでは国家のために「このぐらいの知識と能力のある日本人が必要だ」ということで「一律の合格点」がありましたが、これからはその人の「目標値」を先生と生徒で相談して決めて、それに向かって勉強や訓練をすることになります。(メルマガ『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』より一部抜粋)
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