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軍事アナリストが暴く「ボーッとしすぎ」なマスコミの取材姿勢

沖縄県による独自の地位協定調査に関する朝日新聞の報道について、発表されたものを伝えるだけではなく、独自取材による続報が必要だと厳しく指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主催する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは地位協定に関しては、これまでにも深く斬り込んで、他国との相違点、説明の矛盾点を突く機会はあったと、マスコミの取材姿勢の怠慢を明らかにしています。

地位協定調査で明らかになったマスコミの怠慢

今回も朝日新聞の記事(4月13日付)を取り上げます。

「沖縄県の玉城デニー知事は12日会見し、米軍が駐留する欧州4カ国について、米国と結ぶ地位協定の内容などの報告書を発表した。いずれも米軍の活動に原則国内法が適用されており、日米地位協定とは大きな差異があった。玉城知事は今後、日米両政府に協定の改定を求める考えだ。

4カ国は英国、ベルギー、ドイツ、イタリア。いずれも米軍が参加する北大西洋条約機構(NATO)軍と地位協定を結んでいる。昨年から県幹部や職員を派遣して調査した。

報告書は、4カ国の駐留米軍への対応について『自国の法律や規則を適用させることで、自国の主権を確立させ、活動をコントロールしている』と指摘した。

具体的には、ベルギーでは領空内の飛行は国防省の許可が必要で、飛行高度や時間も自国軍より厳しい規制を設ける。英国では、国防省が米軍機の飛行禁止や制限を判断でき、米軍基地には英空軍司令官が常駐。独伊両国では、訓練に事前の承認が必要だ。

また、米軍機事故の際、英国警察は現場を規制・捜索できると指摘。米軍人を基地に送り返した事例を紹介している。これに対し、日本には米軍機事故の調査権がない。日米両政府が合意した飛行制限も守られず、基地への立ち入り権もないなど、4カ国とは大きな違いがあると結論づけた。(後略)」(4月13日付 朝日新聞)

沖縄県が米国の同盟国に職員を派遣し、地位協定の実際を調査したことは大いに評価できることです。私も沖縄県に調査すべきだと提案してきましたが、なかなか実現しませんでした。しかし、この記事には朝日新聞独自の取材に基づく詳しい続報が必要です。

続報すべき点は、まず、沖縄県が行った調査で「宿題」になっている部分を指摘し、沖縄県に調査続行を促すこと、次に、本来は日本政府が把握していなければならない各国の地位協定について、なぜ政府は把握しようとしなかったかを追及すること、そして、マスコミ自身の取材の在り方について検証すること、といったところでしょうか。

特に、マスコミ自身の取材の在り方については、「ボーッと生きてんじゃねえよ」と言われそうなくらい、大きな問題があります。

私自身、1984年に在日米軍を調査した際、在日米軍報道部に申請し、その許可のもとに基地司令官の聞き取りを行い、資料の提供を受けましたが、当時はそのことを不思議ともなんとも思っていなかったからです。

しかし、1990年5月にTBS『筑紫哲也ニュース23』で東西ドイツ軍、ソ連軍とともに西ドイツ駐留の米軍基地を取材したとき、核弾頭装備のランスミサイル部隊の取材だったのに米軍側の許可が不要で、西ドイツ国防省の女性担当官が同行しただけでした。そこから疑問がむくむくと頭をもたげてきたのです。

そして、それに対する回答、つまり日本側の無知をよいことに米国側もいい加減な受け答えをしてきた様子は、2009年7月1日に那覇市で開かれた日本 JC 主催の「日米地位協定を考えるJCフォーラム」で明らかになりました。

私が基調講演を行ったあと、沖縄総領事のケビン・メア氏とディスカッションをしたのですが、私が西ドイツの例を挙げると、メア氏は「米軍側の許可が不要だったのは、米国と西ドイツの共同使用施設だからです」と答えたのです。

私は疑問をぶつけました。

「しかし、日米共同使用施設になっている青森県三沢基地を取材や調査するとき、米軍側の許可がなければ入れませんが、日本側の許可は必要ありません。それはなぜですか?」

メア氏から答えはありませんでした。

ここでマスコミは突っ込まなければなりません。その問題意識すらない結果、那覇でのフォーラムの記事にしても、900人の聴衆が集まったにもかかわらず、各社とも行事が行われたことを報じる平板なものでしかありませんでした。

そんなことだから、「日米地位協定は他の国の地位協定よりマシ」だと外務省や米国側に言われると、それをそのまま垂れ流すことになってきたのです。

朝日新聞の続報を期待しています。(小川和久)

image by: dotshock, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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