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安倍首相がイラン訪問でハメネイ師から引き出した言葉の真の価値

アメリカとイランの緊張を和らげるべくイランを訪問した安倍首相。その訪問中に起こったタンカー攻撃事件の影響もあって、メディアは今回の訪問について悲観的な見出しを並べています。しかし、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で、軍事アナリストの小川和久さんは、ハメネイ師の発言のニュアンスを読み取れば、今回の訪問は高く評価できると解説。タンカー攻撃についても、事実確認とともに、狙いは会談とは別のところにある可能性を言及しています。

ちょっと整理しておきたいイラン情勢

安倍首相のイラン訪問と、それと同時に発生した日本関係タンカーへの攻撃事件について、雑多な情報が飛び交っていますので、少し整理しておきたいと思います。

まず、安倍首相の外交的成果ですが、これは昔なら「殊勲甲」といってよいくらい高く評価できるものです。「殊勲甲」というのは旧日本軍の言葉で、抜群の働きをした部隊や将兵に与えられる評価です。テレビ的にいえば、「はなまる」や「あっぱれ」ですね。

安倍首相は、イランの最高指導者ハメネイ師から「核兵器の製造も保有も使用もしない」という言葉を引き出しました。これは、2015年の「核合意」(米英仏独中ロとEUが締結)を守る意志があるということで、米国に2018年の核合意離脱と経済制裁の撤回を求めるものでもあります。これに対しては当然、「イランは前から核合意を守るとしながらも、守ってこなかった。騙されてはならない」と否定的な見方が出ています。

さらにハメネイ師の発言については、「ハメネイ師、安倍首相介した米メッセージに『トランプ氏への返答はない』仲介の難しさ浮き彫りに」(毎日新聞)、「ハメネイ師、米との対話拒否…首相は緊張緩和求める」(読売新聞)といった否定的かつ悲観的な大見出しが躍りました。

しかし、ハメネイ師の発言をよく聞いてほしいのです。ハメネイ師は、トランプ大統領との対話を拒否する一方、安倍首相との対話は歓迎すると、言葉を使い分けているのです。これは、米国にとって死活的な同盟国である日本の首相を通じて、米国との間接的な対話を行おうというもので、それを将来の直接対話につなげていこうというものと受け止めるべきでしょう。

外交とは、このようなニュアンスを正確に読み取り、ひとつひとつの言葉にミスリードされないようにしなければならないのです。ハメネイ師が強硬姿勢を崩すことができないことも、強硬派を抱えるイランの国内事情やイスラム諸国における立場からして、そう簡単にはいかないことを知っておかなければなりません。

整理しておくべき情報の第2は、タンカー攻撃の一件です。
これは、米国が主張するように「イランの仕業」かもしれません。いかに安倍首相とイランの最高指導者が会談している最中だろうと、イランの革命防衛隊の末端までトップの意向が徹底していない可能性もあるからです。

しかし、よほどの証拠を示さないかぎり、イランと決めつけるのは無理があるかもしれません。それというのも、2隻のタンカーともホルムズ海峡からアラビア海に出るところで船腹に攻撃を受けていますが、確かに「コクカ・カレイジャス」(船籍パナマ)は左舷に2発被弾し、これはイラン側からの攻撃に見えます。しかし、「フロント・アルタイル」(船籍マーシャル諸島)は右舷に被害を受けており、対岸はオマーンです。

それに、被害個所を画像で見る限り、大型の火砲や対艦ミサイルなど威力の大きなものではなく、どこの武装勢力も備えている肩打ち式の対戦車ロケットRPG-7のレベルのものではないかという印象です。喫水線から上に被害を受けていることから、魚雷や通常の機雷ではないこともわかります。RPG-7のレベルの火器だと、よほど沿岸近くを航行していないかぎり、射程距離的に無理があります。そう考えると、小型の高速ボートでの接近攻撃が可能性として浮かび上がってきます。

米国のCNNは13日、国防総省当局者の話として、イランのボートが攻撃を受けた船に横付けし、爆発しなかった「リムペットマイン」と呼ばれる遠隔操作可能な機雷を取り除く様子を米国の軍用機が記録していたと報道しました。国防総省が提供した動画は赤外線暗視装置によるもので、強力な船外機2基をつけた漁船改造型の高速艇に2連装の対空機関砲が装備されており、イランの革命防衛隊の可能性を示唆しています。画像で見る「リムペットマイン」は小型で、破壊力はRPG-7と似通っているのではないかと思います。革命防衛隊であったにせよ、どこかの武装勢力であったにせよ、タンカー攻撃によってペルシャ湾の緊張をかき立て、原油価格の高騰を狙う勢力による犯行という可能性まで視野に入れておいたほうがよいでしょう。

第3は、情報の整理というよりも、読売新聞の「特ダネ」についてです。14日付の読売新聞は、薗浦健太郎首相補佐官が6月になってからテヘラン入りし、ハメネイ師の外交顧問を務めるベラヤティ元外相と秘密裏に会談、安倍首相のイラン訪問の下準備をしたと伝えています。安倍首相の父・安倍晋太郎氏は1983年、外相としてイランを訪問し、イラン・イラク戦争でイラクを支持していた米国の冷たい視線を浴びながら当時のハメネイ大統領たちと会談、和平を模索したことで知られています。安倍首相は外相秘書官として同行し、両国の外相会談に立ち会いましたが、そのときのカウンターパートがベラヤティ外相だったのです。

その安倍首相のイラン人脈を使ってお膳立てした「密使」の薗浦首相補佐官読売新聞記者から麻生太郎氏の秘書を経て国会議員になりました。だからこその読売の「特ダネ」だったのかもしれません(笑)。(小川和久)

image by: Drop of Light / Shutterstock.com, Beyt Rahbari [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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