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城を攻め、城を築いて天下を取った日本史上最強の「城武将」秀吉

日常生活において不思議に思ったり、ちょっと気になったあれこれについて考察するメルマガ『8人ばなし』。著者の山崎勝義さんが今回取り上げ論じるのは、「秀吉の城攻め」です。山崎さんは、秀吉による中国毛利の支城攻略について「面白い」と好奇心をかき立てられているようで、鳥取城の兵糧攻め時に用いた戦術について詳しく紹介しています。

秀吉の城攻めのこと

信長は奇襲で名を挙げ、家康は野戦を得意とした。そして秀吉は何と言っても城攻めである。特に主君信長の訃報で終わることとなる、備中高松城水攻めまでの中国毛利の支城攻略は実に面白い。

秀吉の城攻めは、極力正面突破を避けるというところに真骨頂がある。鬼上司信長の下で働く以上は、なるべく早く、できるだけ多くの成果を上げなければならない。そのためには将兵は失いたくないし、城もできるなら無傷で手に入れたい。一番リスクが少ないのは直感的に包囲戦である。しかし、包囲籠城となれば長期化というリスクがどうやっても生じてしまう。となれば、このリスクを如何に抑えるかが包囲戦の鍵となる。

一方、籠城側からしてみれば勝利の方法は二通りである。包囲側の兵糧が尽きての撤退か、後詰めの援軍と城内からの挟撃による撃退である。故に包囲側はこの二つの問題をまずクリアしなければならない。このため補給路の確保と背後の防衛戦の構築が重要となるのである。秀吉の軍団はまずこれが抜群に上手い

一般的に包囲戦は兵糧攻めと同義になる場合が多い。つまり、包囲側は籠城側の兵糧を如何に早く消費させるかが第一の戦略ということになる。

中世以来、定石としてはまず周囲の村々から包囲網を小さくして行く。村を追われた領民は城内に避難する。これで籠城側の兵糧消費率が上昇する。次に包囲を厳とし、降伏して来る者があれば、これを城内に追い返す。こうすることで忠誠心の高い者だけに食糧が行き渡らないようにするのである。最初の内から降伏する者は言うまでもなく忠誠心は低い。彼らにできるだけ兵糧を消費してもらおうという考えである。そうして士気が下がり切ったところで降伏交渉に入るというシナリオである。

ここで視点を少し変えてみると、もう一つ有効な手段があることが分かる。それは元々の備蓄米を減らしておくという方法である。しかし、これは常識的に考えて難しい。そもそもいつ戦争になってもおかしくないから戦国時代なのであって、敵方の軍団が間近に迫れば猶のこと、備蓄米は増えるのが当たり前である。

ところが近世になり米の相場が立つようになると、兵糧米には単なる有事のための食糧備蓄としてだけではなく、今の株式のような資産としての側面も出て来た。しかも米は古くなる。その前にできるだけ高く売って、銭に換え、武器等を購入してからできるだけ安く(あるいは収穫期に年貢米として)再調達したい筈である。

秀吉はこのことをよく理解していた。現在でもニューヨーク株式市場などで有名仕手筋が時折実行する「リフト」と呼ばれるような相場の意図的なつり上げをこの時代に既にやっていたのである。

一例を挙げると、因幡国鳥取城攻めの際、秀吉は予め若狭商人を送り込んで米の買い占めをやらせた。それに応じてしまった鳥取城の米蔵はほとんど空同然になったのである。随分迂闊なことをしたものだと思うかもしれないが、当時にあってはこれは無理からぬことであった。

大船で乗り付けた若狭の商人たちが「とにかく米がいる。金に糸目は付けない」などと口々に言いながら競うようにして大量の米を買い漁り始めると領内の景気は俄かに活気づいたであろう。兵糧を売るなら最高値の今をおいて他にないと判断するのは至極当然のことであった。

実際この後、吉川元春(毛利元就の二男)の命を受け、鳥取城防衛の将として着任して来た毛利吉川一門の吉川経家もこの事態にあきれはしたものの責めることはしなかった。戦には確かに米もいるが、それ以上に金がいるのもまた事実であるからだ。

これにより秀吉の兵糧攻め(所謂「かつえ殺し」)は一気に成功した。この間、鳥取城包囲の最前線と、秀吉軍背後の防衛線に挟まれた領域にちょっとした安全地帯ができたために米価急騰バブルに沸く新しい町ができたと言う。この城下の活況を飢えに苦しむ城内の兵はどのように見たであろうか。その心理的ショックは計り知れない。

そして既にここに、後の小田原攻めで完結する秀吉の攻城戦必勝法の原型があるように思うのである。秀吉は城を落とし、城を築いて天下を取った。まさしく日本史上最強の「城武将」だったのである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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