配偶者が死亡した際に残された家族に支払われる遺族年金ですが、その配偶者同士が「事実婚」だった場合は、どのような取り決めがあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、遺族年金の受給を受けるための要件や消滅してしまうケース等について詳しく解説しています。
遺族年金は正式に婚姻しておかないと貰えないわけじゃない
主に配偶者が死亡した時に遺族に支払われるのが遺族年金です。国民年金からの給付である遺族基礎年金は、「子のある配偶者」、または「子」にしか貰う権利は発生しない。つまり、高校卒業するまでの子を持つ親や、高校卒業するまでの子への保障という意味を持つ。
子のある配偶者、または、子に支給されるがこの場合は配偶者が優先する。配偶者に支給されてる間は、子への遺族基礎年金は停止する。
また、遺族厚生年金は貰う事ができる順番は決まっていて、死亡者の配偶者、子(18歳年度末未満の子)、父母、孫(18歳年度末未満)、祖父母の順で最優先順位者と範囲が広い。なお、夫、父母、祖父母が年金貰う場合は死亡時点で55歳以上で実際の支給は60歳からという制限はある。
遺族の順位はそのように決まっていますが、本人死亡時にその遺族が「本人に生計を維持」されていなければならない。生計維持されるというと、死亡者の扶養に入ってて資金の面倒を見てもらってるとかそういうイメージがありますが、年金の場合の生計維持というのはそういう意味を持たない。
年金で言う生計維持というのは、遺族年金請求する遺族の前年の収入が850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)であり、死亡者と死亡当時住民票が同じだったという2つの要件を満たす場合をいう。なお、前年収入に関しては一時的な収入を除いた場合で850万円未満かどうかを見る。
また、住民票が同じではないとか、同居してなかったとしても何か事情があって別居してるとか、資金の援助、定期的な音信や訪問があったとかの理由があれば別居してても問題はない(その別居についての理由は別途書いてもらわないといけませんが)。このように貰える遺族の範囲は決まっていて、貰う側の収入や同居の要件が満たされていれば遺族年金は貰える。
さて、遺族の範囲はこうなってますが、よく見てみると配偶者に関してはキチンと婚姻してなければいけないという条件はありません。つまり事実婚(内縁関係ともいう)でもいいという事です。
現代は籍は入ってないけど、夫婦同然の生活をしているという話もよく聞きますよね。事実婚だったけど、そういう人が死亡した場合も遺族年金は請求して貰う事ができるという事です。まあ…法的に婚姻してないと相続の時に不利にはなるかもしれませんが^^;
ところで事実婚というのは一体どういう状態の事を言うのでしょうか??同棲したらもうそれは事実婚なのか?一応基準があります。
ア.当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実を成立させようとする合意がある事。
イ.当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在する事。
はい、よくわかりませんね(笑)。つまり、お互い入籍しようと思えばできない事もないし、これからも夫婦同然としての生活をしようという合意というか意志があるというような状況。一般的に見て夫婦と変わんないよねって認められるような状況。
まあそんな事は口では何とでも言えるから証明をしてもらうために以下のような証明を出してもらう。
- 健康保険の被扶養者になっているか
- 給与貰う時に扶養手当の対象になってるか
- 葬儀の喪主になってるか
- 2人の名前が書いてる郵便物はあるか
- 配偶者加給年金の対象者となっているか 等
事実婚が認められれば、遺族年金は支給される。とりあえず給付の簡易な一例を。
1.昭和43年8月4日生まれの男性(今は50歳)
18歳年度末の翌月の昭和62年4月から平成29年6月までの363ヶ月は厚生年金に加入。なお、昭和62年4月から平成15年3月までの192ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)は34万円とし、平成15年4月から平成29年6月までの171ヶ月の平均給与(給与と賞与を合計した平均)は51万円とします。平成29年7月から令和元年5月までの23ヶ月は国民年金に加入していたが、滞納中だった。
令和元年5月31日に死去(6月1日に国民年金資格を喪失するので、5月までの年金記録で今までの記録を見る)。国民年金滞納中の死亡ですが、滞納であろうと未納であろうと国民年金強制加入中(20歳から60歳まで)の死亡なので対象の遺族が居れば遺族年金は支給される。民間保険だったらちょっと滞納続いたら契約解除させられてしまいますけどね^^;
なお国民年金加入中の死亡なので本来は遺族基礎年金の給付しかありませんが、厚生年金に300ヶ月以上の期間があるので遺族厚生年金も出る。
平成27年3月から昭和50年6月16日生まれの女性(今は43歳)と事実婚状態で、その子12歳(前夫との子)の子も同居していた(事実上の養子縁組状態だが正式な養子縁組はしてない)。
さて、事実婚だったから遺族年金の支給対象者となった。
ちなみに子は死亡者の夫の実子ではないので遺族年金の遺族の範囲には入らない(実子または養子縁組していたら配偶者と同じ受給権者になれた)。事実上の養子縁組というのは認められない。よって妻は「子のある配偶者」にはならない。支給されるのは363ヶ月分の遺族厚生年金であり、受給権を持ち、支給されるのは事実婚の妻のみ。
- 事実婚の妻に支給される遺族厚生年金(死亡した日の翌月である令和元年6月分から)→(34万円×7.125÷1,000×192ヶ月+51万円×5.481÷1,000×171ヶ月)÷4×3=(465,120円+477,998円)÷4×3=943,118円÷4×3=707,339円
さらに死亡当時、妻は40歳以上なので中高齢寡婦加算585,100円(令和元年度価額)も支給。
- 遺族年金総額は、遺族厚生年金707,339円+中高齢寡婦加算585,100円=1,292,439円(月額107,703円)
というわけで、事実婚でも支給を認めてくれる遺族年金ですが、遺族年金は再婚したら年金がそこで消滅しますよね。覚えてますか?再婚したら再婚相手と新たな生計維持関係が発生するから、遺族年金はもう必要ないよねって事で消滅するのです。
※参考
遺族年金受給者が市役所で氏名を変更した際は、婚姻によるものか復氏(旧姓に戻しただけなのか)の確認の書類を送付します。その確認のために遺族年金失権届と遺族年金受給者氏名変更届の2枚の用紙を送付している。これを2週間以内に提出しなかったら年金が一時停止(差し止め)される。まあ、年金振込通知書等を遺族年金受給者に送る時も年金が消滅(失権する場合)する場合の注意書きが同封されている。
再婚すると遺族年金は消滅してその後離婚したりしても復活する事は絶対ありませんが、事実婚になっても同じく遺族年金は消滅します。事実婚を解消したところで絶対に遺族年金は再復活しない。あんまり「絶対」という言葉は使いたくないですがこの場合は絶対^^;
例えば、令和3年9月に新たな事実婚が始まったとしましょう。事実婚状態なのに、それを申告せずに6年間年金を貰い続けたとします。そうすると事実婚と認められる時まで遡って遺族年金を返還してもらいます(最大でも5年分)。最大5年分だから返済額は約650万円くらいですね。
事実婚でも遺族年金は貰えますが、逆に遺族年金を貰ってる人が事実婚状態になっても遺族年金は消滅するので頭に入れておきましょう。
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