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保守も取り込み始めた山本太郎を襲う、週刊誌沙汰スキャンダル

先日の参院選で「負け」こそしなかったものの、日本全体を覆う「閉塞感」を打ち払えず、もはや賞味期限切れのようにも思われる現政権。そんな思いが後押ししたのか、同選挙で山本太郎氏率いる「れいわ新選組」が大躍進し話題となりました。「政権奪取を狙う」と言って憚らない山本氏ですが、果たして実現可能なのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今後を占います。

日本の閉塞感を打ち破るか、山本太郎「れいわ新選組」の政権奪取戦略

近づく10月の消費増税。日本の景気はどこまで落ちるのか。取り返しがつかないことにならないか。ただでさえ国民の心配が募るなか、日本列島をとりまく国際情勢もまた異常に騒がしい

歴史的経緯を背景とした韓国との深刻な貿易の揉め事をあざ笑うように、北朝鮮は短距離弾道ミサイルなどの発射実験を再び繰り返しはじめた。日韓対立の間隙をぬって、ロシア軍機が竹島周辺に飛来し両国政府を攪乱する一方、メドベージェフ首相は択捉島を訪れてここはロシア領土だ」とアピールした。

そして、いちばん安倍首相が頼りにする米国のトランプ大統領は、日本の昔からの友好国であるイランとの仲を引き裂くつもりなのか、タンカーの安全航行は自国で守るべきだと、ホルムズ海峡の有志連合に参加するよう日本に圧力をかけてきている。さらには、トランプ的強欲度を強める米国との貿易交渉でも安倍政権は守勢に立たされたままだ。

国内では、総理大臣の権力乱用がもとで公文書が改ざんされ、国会ではウソがまかり通り、国の政策決定の指標であるべき統計数字までもが恣意的に操作される。なのに、誰も責任をとることなく時はいたずらに過ぎてゆく

逆に、質問にまともに答えず国会を形骸化する安倍首相が、憲法改正の議論にすら参加しないと野党をなじる始末である。

まずは憲法改正国民投票法を改正しない限り話は進まないのではないか。テレビ・ラジオの有料広告を国民投票法で規制する改正を行わなければ、資金力によりCMの質量に差が出て、偏った印象操作で国民の投票行動が左右されかねない。

それでも安倍自民党はCMの有利性を確保したまま強引に憲法審査会を動かそうとする。つい先日、安倍最側近の一人、自民党の萩生田光一幹事長代行は大島理森衆院議長の交代論にまで言及し、与党内でも顰蹙を買ったが、進まぬ改正議論に苛立つ安倍首相の心中を語ったのであろう。

こうした内外の状況を見て、「政治の安定」といえるのであろうか。安倍官邸への忖度システムは人事の締め付けが効いて安泰であるとしても、国内政治、外交ともに、不安定で欺瞞に満ちているではないか。

『メディア・コントロール─正義なき民主主義と国際社会』を書いた高名な言語学者ノーム・チョムスキーは言う。「政府は政府を守るために市民にウソをつくものだ」。

国民を主権者ではなく観客とし、けっして真実を知らせず、メディアをコントロールして政府に都合のいい国家運営をしていく。これは安倍政権がみごとに実現している、まがいものの議会制民主主義だ。

山本太郎氏の政治活動は、そのアンチテーゼを示すものといえるかもしれない。つまり、国民は観客ではなく政治の参加者なのだ。

8月1日に東京・新宿で行われた山本氏の「れいわ新選組代表街頭記者会見」で、それを象徴する山本氏の発言場面があった。

「4月10日から旗揚げをし、一人一人にご寄付をお願いしました。東京選挙区は入場料だけでも300万円、9人を立てた比例代表は一人600万円の入場料。旗揚げから選挙が終わるまでに4億円の寄付をいただきました。4億円のうち3億円以上、もう使っています。新聞広告、街角の広告ビジョン、新聞折り込み、これだけで1億数千万円飛んでしまいます。大変な金額ですね。そして今残っている金額どれくらいか。約9,000万円です」

まるで、聴衆を株主とした総会で収支報告をしているようではないか。明朗会計そのものである。

「この9,000万円何に使うか。党になりました。そして次期衆院選挙に向け党の体制をつくっていかなくてはなりません。衆院選といえば1議席を争うのが289か所、そして比例もあります。こういうところで山本太郎、100人を立てたいんだ、そして衆議院でしっかりと数を確保していきたいんだ、そしてその先に政権交代をめざしていきたいということをすでに皆さんに宣言させていただいております」

端的な言葉で詳細を説明し、今後の方針も明確に知らせる。そして、100人を衆院で擁立するには10億円が必要だと、さらなる寄付を呼びかける。これほどわかりやすい政治家の演説を聞いたことはない。反原発で立ち上がり俳優から政治家になって6年。すっかり瞬発力がある短文話法の名手になっていた。

聴衆側の心理はどうだろうか。お金の使い方について事細かな説明をし、これからの目標を伝える山本氏の姿は、話を聞く人々の間に仲間意識を生み高揚させる効果を持つのではないか。

山本氏は消費税廃止を唱えながらも、政権交代をめざすために、野党連携を優先し、消費税5%への減税の旗のもとでの結集を呼びかけるつもりのようだ。

消費税5%で共産党を含む野党共闘が実現し、山本氏が選挙の顔となれば、政権交代への世間の熱気は間違いなく高まるに違いない。

立憲民主党の枝野代表、国民民主党の玉木代表、いずれも山本氏と早期に会談したいと発言し、秋波を送っている。山本氏の勢いを取り込みたいのが本音だろう。

しかし、しがらみのない山本氏と、連合などの支持母体に集票を依存している政党とは、事情が違う

10%への消費増税を法律に定めるもととなった3党合意は、民主党野田政権下で交わされたものだけに、立憲民主党、国民民主党ともに、5%への減税は受け入れがたいかもしれない。

とりわけ国民民主党には右派の議員も多く、原発即時禁止を訴える山本氏の主張とは必ずしも相容れない。電力総連など原発推進派労組の支援を受けている議員は山本氏への抵抗感がより強いだろう。

また、国民民主党の憲法改正に前向きな議員を誘い出すように、安倍首相から連携の呼びかけがあり、どこから出た情報か、門外漢であるはずの亀井静香氏がテレビ番組で「大連立が絶対ある」と語るなど、あたかも国民民主党そのものが連立政権入りするかのごとき噂まで飛び交っている。

一方で、「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表が、わけありの無所属議員に入党を呼びかけ、数を増やそうとする動きがメディアに取り上げられている。憲法改正の発議に足りない参院の人数を供給する代わりに、受信料を支払った人だけがNHKを視聴できるスクランブル化を…とバーターをしかける腹づもりらしい。なんとしても参院で3分の2以上の改憲派を確保したい安倍政権のこと、これに乗る可能性が全くないとはいえず、成り行きしだいでは国民民主党を取り巻く状況はまた変わってくる可能性もある。

いずれにせよ、国民民主党が何らかのかたちで安倍改憲に手を貸すようなことがあれば、ただちに自民党の補完勢力であると国民に見なされ、自社さ政権後の社会党のようにますます衰退の道をたどり続けることになろう。

国民民主党入りした小沢一郎氏は今も山本太郎氏と連絡を取り合っているという。いずれ山本氏を野党陣営のリーダーにしたい意向らしいが、国民民主党とれいわ新選組が合流することはまずありえない。フレッシュな印象を維持したまま突っ走るには、山本氏はしがらみのない姿を見せ続ける必要がある。

山本氏は政権奪取をめざし「自分を最大化できる」戦略を進めていきたいと語り、9月から、全国をまわってネットワークづくりに励むという。

山本氏が今後気をつけなければならないのは、週刊誌沙汰のスキャンダルだ。安倍官邸はすでに内調を動かしているかもしれない。もちろん、週刊誌も独自に山本氏の周辺を嗅ぎまわっているだろう。だが、おそらく何も出まい

週刊文春(8月8日号)などは、山本氏についてネガティブな話をあげつらうために、古いネタを蒸し返した。題して「トリックスターの正体 山本太郎の母が語る『あの子は気が弱いから断れない』」である。

何のことかと思って読むと、2013年に、当時19歳の女性と結婚3か月でスピード離婚した件だった。母いわく。「その後も運が悪いんです、太郎は。気が弱いから、言い寄られたら断れない。それで失敗してるんです」。

このネタ以外には今回の参院選の話がほとんどを占め、なぜ「トリック」なのかを語った部分はない。

トリックスターのもともとの意味は、神話や民間伝承において,詐術を駆使して神や王などを愚弄し、秩序を混乱させる一方、英雄としての側面も持つ人や動物のことだ。参院選のやり方そのものがトリックスター的であると見ているのかもしれないが、その言葉には、一時の気まぐれな旋風が起きたくらいに小馬鹿にした響きが感じられる。これなどは序の口で、今後、出る杭を打つ勢力は絶えることなく現れるだろう。

おりしも、立憲民主党が国民民主党に衆院で立憲会派入りを求めるなど、野党共闘の強化をはかる動きが活発になってきた。

山本氏の思いももちろん野党共闘にあるが、その政策は保守層の一部にも受け入れられている。文筆家、古谷経衡氏は、保守票の一部もれいわ新選組に流れたと指摘、その理由として、政策が対米自立、国土強靭化、反グローバリズムなど保守本流の思想に近いものを多く含むからだと言う。

たしかに、山本氏は、小さな政府をめざし民営化路線を進めた小泉・竹中改革を否定している。安倍政権の政策決定にも依然として影響力を持つ竹中平蔵氏の新自由主義的世界観が国民の間にさまざまな格差を生んでいるとして、厳しく批判している。

ただ、山本氏の保守色は、利益誘導ではなく、弱者目線がベースにある。政府支出の拡大により、景気を押し上げて税収を増やし、社会福祉の充実をはかろうというのだ。

これまで法人税の減税や租税特別措置などで優遇されてきた大企業や富裕層からの税収減を補う形で消費増税が行われてきたが、消費税を廃止、あるいは減税し、大企業や富裕層への課税を強化する方向に転換する。法人税率が上がれば企業は海外に逃げるというのは政府の宣伝で、消費税減税によって国内の需要が高まれば企業は儲けるために国内に残るというのが山本氏の主張だ。

国民に観客ではなく参加者として語りかけ、いい格好を見せるのではなく、一緒にやってくれませんかと呼びかけていく今のスタイルを続けるなら、山本太郎氏の巻き起こした旋風は、一過性の現象に終わることなく本物のパワーをつけていくだろう。この新しい潮流を日本の政界は生かすべきである。

image by: MAG2 NEWS

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