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のび太の特技「早撃ち、あやとり、昼寝」が示す青天井の潜在能力

国民的な漫画・アニメの1つ『ドラえもん』。ドラえもんは、ダメ人間であるのび太を一人前にするため、人並みの大人にするために未来からやってきたというのが定説ですが、メルマガ『8人ばなし』の著者の山崎勝義さんは、少し違った見方を示します。山崎さんが注目したのは、未来から持ってきた物が「おもちゃ」である点、そして、のび太の超人的な3つの特技でした。

『ドラえもん』のこと

私はあまり漫画を読まない。これは同世代(ことに男性)にあっては珍しいことのような気がする。別に漫画が嫌いという訳ではないから、おそらく幼少期にたまたま周囲に漫画がなかったためにそれを読む習慣が醸成されることなくそのまま成長してしまっただけのことであろう。

そんな自分が子供時代に唯一例外的に触れた作品が『ドラえもん』である。もちろん例外には事情がある。私は小学1年の時に大怪我をして半年以上学校を休むことになった。しかもそのうちの3ヵ月は入院である。これではあまりに可哀相だ、というのを名目にして弟が自身で読みたい『ドラえもん』を親に買ってもらっては病室に持って来てくれたのである。故に新品が届けられたことは一度もなく、どの本も散々に読み込まれた後のお古ばかりであった。

この弟チョイスは結果としては正しかった。漫画初心者の自分にはショートエピソード式の『ドラえもん』は大変読み易かったのである。私は暇に飽かして初めての漫画を読み込んだ。

今回はこの『ドラえもん』についての話である。『ドラえもん』にはのび太という所謂ダメ人間が出て来る。その性質は、

といった始末である。

仮にこの辺のところを症状としてそのまま現代の小児精神医療的観点から再評価したなら、ほとんどの医師がADD(注意欠陥障害)と診断するのではないだろうか。その場合、第一選択薬は中枢神経刺激剤である。

ただドラえもんは未来の治療薬を持っては来なかった。その代わりに多くの「楽しい道具」を持って来たのである。「楽しい」と付したのはこれらの道具が全ておもちゃの類と言えるものだからである。現代のテクノロジーレベルからすれば極めて実用性の高い物でも敢えておもちゃと断じるにはもちろんそれなりの作品論的根拠がある。

あるエピソードにこういう場面があった。それは、

ドラえもんが大の苦手とするネズミに襲われた際にそのあまりの恐怖から正気を失い、四次元ポケットから地球破壊爆弾を取り出し起爆させようとしたところをのび太がすんでのところで制止する

というものである。

個人レベルで地球破壊爆弾を持っているということは未来の世界においては既にそれがおもちゃ程度の物であり兵器としての価値は全くないということでなければ世界の存続は危うい。地球破壊爆弾でさえそうなのだから他はまずもっておもちゃである。ドラえもんはこれらのおもちゃを持って何をしに来たのだろうか。

のび太には特技がある。銃の早撃ち、あやとり、昼寝の3つである。ここで改めてそれらを再評価してみる。銃の早撃ちには外部刺激に対して瞬間的に反応する能力、つまりは優れた反射神経が必要となる。因みに、のび太は西部開拓時代なら伝説的英雄クラスである。

あやとりには手先の器用さはもちろん、高度な技には創造力が必要である。プロあやとりの世界があれば、のび太は世界チャンピオンクラスである。「イチ、ニ、サン。グウー」と瞬時に寝られるということは、眠りに相応しいリラックスと集中を自在にコントロールできるということである。ここまで来るとどんな鍛練を以てしても到達できるレベルではない。

のび太はダメ人間どころではない。超人レベルの才能を3つも有しているのである。この能力だけでも恐るべき存在だが、そういったことを可能とする周辺潜在能力は計り知れない。ドラえもんは、のび太の潜在した能力を顕在化させるために未来からやって来たのである。それにはおもちゃの如き「楽しい道具」こそが必要であり、またそれだけで十分なのである。

思えばドラえもんは未来からやって来ている訳だから、のび太にとっての最適ルートを常に提示している筈である。その最適である筈のルートがおよそ最短とは程遠いような回り道ばかりというのが、この漫画のどうしようもない魅力なのかもしれない。そんなふうに考える時『ドラえもん』の面白さが何十層倍にも感じられるのは自分だけだろうか。

image by: small1 / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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