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日本の幹細胞再生医療「エビデンスが脆弱」な理由とは?

日本国内で増える幹細胞再生医療施設。その多くが、厚生労働省に計画書を提出し認可を受けた施設で、認可された医療行為を行っています。しかし、この日本の再生医療の認可の状況について、『ネイチャー』誌が3度目となる批判記事を掲載したそうです。いったいどういうことなのでしょうか?メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で現役医師の徳田先生が、ネイチャーが指摘する問題点を解説し、日本の医学教育の課題を指摘しています。

もっとエビデンスが必要な再生医療。――増える幹細胞再生医療クリニック

日本の幹細胞再生医療はエビデンスが脆弱。これは、ネイチャー誌の最新情報欄によって指摘されたことです。日本には多数の幹細胞再生医療施設があります。そこで行われている治療のほとんどがエビデンスに乏しく、患者安全への配慮も不足している、という指摘です。

実際、幹細胞再生医療という用語でネット検索をしてみると、国内で多くのクリニックが、美容や病気の症状改善の目的で、さまざまな治療メニューを提示していることがわかります。欧米諸国でもそのようなクリニックは多数ありますので、その存在自体は珍しくありません。欧米のクリニックは、非科学的で非倫理的な医療行為とされ、医学会から批判されています。

しかし、日本の幹細胞再生医療クリニックのサイトを覗いてみると、その多くで、厚生労働省に計画書を提出し計画番号を取得した医療施設です、と記載されています。さらには、そこでの医療行為は、厚生労働省が認めた委員会で、その妥当性・安全性・医師体制・管理体制が審査されている、とあります。

脆弱なエビデンス

日本の幹細胞再生医療クリニックの場合、欧米の非科学的・非倫理的な存在と決定的に違うのは、厚生労働省が認可した施設で、厚生労働省が認めた医療行為が為されている、とされていることです。現行の審査制度が導入されて以降の過去5年間に、3700以上もの再生医療の行為が、審査され認可されています。

しかし、そうであっても、エビデンスが脆弱である、とネイチャー誌は指摘しています。しかもネイチャー誌の日本の再生医療承認への批判は、今回が3回目です。では、そのエビデンスのどこが脆弱なのでしょうか? それは、無作為対照臨床試験がほとんど無いこと、あったとしても対象患者数が少なすぎることです。

ハートシート療法という幹細胞再生医療があります。慢性心不全治療目的のヒト自己骨格筋由来細胞シート療法で、かなり高額な医療です。この治療を評価するために行われた、ある臨床試験の対象人数は7人でした。これでは、科学的な検証はできません。しかも、副作用ケースが出ていると報告されています。対照群が無い、あるいは少ないと、副作用なのか、病気そのものの進行なのかが区別困難となります。

厚生労働省は、脊髄損傷治療への再生医療であるステミラック(ヒト自己骨髄由来間葉系幹細胞療法)を販売承認しています。しかし、承認時点での有効性の根拠は13人の少数患者でのデータでした。また、比較対照群は無く、試験結果も論文として公表されていませんでした。

疫学研究を軽視する日本

私は、再生医療の否定論者ではありません。脊髄損傷や筋萎縮性側索硬化症、拡張型心筋症などの難病で苦しむ患者さんたちの症状が良くなる治療が開発されることを心から望んでいます。ノーベル賞を受けた山中伸弥先生をリーダーとして、国を挙げてこの分野のトップを走りたい気持ちも理解できます。

しかし、すべての医療行為には副作用のリスクがあります。それを検証するためには臨床試験をきちんと行わなければなりません。それをきちんとやればよいのです。もともと、臨床試験の考え方は疫学から来ていますが、伝統的に日本の医学は疫学を軽視している、と私はみています。

脚気の原因はビタミンB1不足であることを証明したのは疫学でした。しかし、森鴎外を始めとする、当時の医学会の実力者は細菌説を唱えていました。また、森永ヒ素ミルク事件の原因も当初は細菌混入が疑われていましたが、疫学研究によりミルクに混入したヒ素であることがわかりました。

エビデンスに基づく医療が日本でなかなか浸透しない理由はここにあると私は見ています。どんなに最新の技術による医療であっても、疫学をベースにした臨床試験でその評価を行わければならないのです。医学教育の基本的な科学として疫学教育を導入するべきです。
文献:David Cyranoski. The potent effects of Japan’s stem-cell policies. Nature. Sep 25, 2019.

image by: Shutterstock.com

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