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SNS誹謗中傷問題をメディアリテラシー教育の出発点とすべき理由

人気女子プロレスラーの木村花さんが、SNSでの誹謗中傷の書き込みにより死に追い込まれた事件を受け、法規制の検討をすべきという声とともにメディア教育の必要性が叫ばれています。しかし、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんは、教育現場がコロナ対応に忙殺され、この件に意識が向いていないと問題視。コロナ禍で「大切な人の命を守ろう」とのメッセージがSNS上で広がるいまだからこそ、人の命を奪いかねない誹謗中傷行為が同じSNS上で起こっていることをメディアリテラシー教育に生かすべきと伝えています。

SNS中傷で動くべき「教育」出発点のメディアリテラシー

SNS(交流サイト)の誹謗中傷の書き込みにより自死に追い込まれた22歳の女子プロレスラーの心境を思い量ると言葉がない。誰もが言葉に「生き生かされている」コミュニケーション世界を生きる私たちにとって、SNS上のコミュニケーションはもはや情報伝達だけの手段ではなく、心を動かし生死をも左右する重要かつ日常的な存在であるのは誰もが知っているはずだ。

なのに、傷つけてしまう行為が「日常的に」行われている現実があることが、この事件で気づかされる。政府はプロバイダー責任制限法の枠組みでネット上に匿名で権利侵害情報が投稿された場合に接続事業者(プロバイダー)が削除などの措置を取れる仕組みの強化を表明しているが、プライバシー保護の問題と整合性を付けつつの議論を望みつつも、私としては、メディアリテラシー教育の転換点と考え、コロナ禍を踏まえての新しいコミュニケーション行為を考える機会として捉えたいと思う。

高市早苗総務相は5月末にインターネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を「スピード感を持って対応したい」と明言し、武田良太・国家公安委員会委員長も治安維持の観点からの対応を表明しているが、これらの議論はそれとして、誹謗中傷の行為に至らせない教育領域での動きは聞こえてこない。目下、新型コロナウイルスの休校解除に追われているようで、メディアリテラシー教育への対応など眼中になさそうだ。

私自身、今年も昨年に引き続き文部科学省所管の障がい者の生涯学習の委託研究を行う立場で、市民と障がい者が学ぶ場を地域で作り、さらにコロナ禍の対応としてウェブでも広く結ぶ方向で事業を考えているものの、開催予定の県の教育担当者は休校解除やコロナ対策に追われ、手が回らない状況だと嘆く。そんな状況の中で、追い打ちをかけるような対応を求めるのは酷かもしれない。

スマートフォンの普及等でほとんどの人が手元にメディアを持つことによる便利さとともに、トラブルも発生しているのは、私が全国の特別支援学校高等部の教員向けにアンケート調査をしたことでも明らかになっている。

各学校でのスマートフォン等のコミュニケーションによるトラブル回避に向けた教育は、地域の警察署から担当者を呼んだレクチャーや携帯電話会社から派遣された社員による使い方講座だったりと工夫もみられるが、それらの講座が治安維持のためであり、産業の活性化のための目的で、「誹謗中傷をしない」というコミュニケーション行為の基本を深く考えるまでには至らないのが現実である。

やはり、それは教育者がやるべき領域だが、学校からは「教育上のガイドラインがない」との嘆きもみられた。コロナ禍の中で自分や大切な人の命を守るために呼び掛けたメッセージが社会に広がることで、発する言葉の効果への関心が高まっている時期だからこそあたらしいメディアリテラシー教育の好機でもある。

亡くなった女子プロレスラーはフジテレビで放送の人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、この番組内での言動に対するSNS上での非難が問題になった。テレビという虚像の世界への反応として、一般社会に普通の顔をした方がSNSの中で架空の自分となり、下劣な誹謗中傷を可能にしている事象は今に始まったことではない。

多感な時に、自分が発信者になれるメディアに触れ、それを正しく活用するために、教育現場や家庭がどれだけの教育をしてきたのだろうか。おそらく大人になってからSNSを使い始めた世代が親の場合、教えるまでの見識も持ち得ないままそのコミュニケーション行為が「そこにあった」状態で、術がないのではないかと思う。

5月29日の毎日新聞社説では「他人を傷つけるような行為は、実社会ではもちろん、ネット空間でも許されない。投稿する前に手を止めて考えてほしい」と結ぶが、手を止めて考える材料を社会が提供しなければならない。教育現場にも家庭でも、真のコミュニケーションを語れる、それを共有化する確固たる社会の意志が必要なのである。

image by: shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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