映画制作団体「映画工房カルフのように」を主宰するオリカワシュウイチさんが、超初心者に向け映画の作り方をレクチャーする『映画が作れるようになるメールマガジン』。今回オリカワさんは、YouTubeやネットで必要かつ有用な情報を収集するノウハウと、先日依頼を受けたという「短編映画」を作り上げてゆくプロセスを公開しています。
映画を作るための情報はすべてYouTubeにある!?
このメールマガジンを発行するにあたり、僕が徹底していることがあります。それは、「一次情報を届ける」というもの。つまり、僕の体験談、実際に見たり試したものだけをお伝えするということ。誰かから聞いただけの話とか、読んだ本の受け売り、ネットで仕入れただけの情報は、書かない。
ただ、これにも欠点があります。自分の体験談だけだと偏ったり十分でなかったり、間違ってる可能性だってある。そこで、体験談を検証する意味も込めて、僕自身はせっせといろんなところから情報収集も合わせて行なっています。僕の情報源は大きく4種類です。
【1】YouTube
【2】ネット記事
【3】現役の業界人
【4】書籍や教材
このうち、
【1】YouTube
【2】ネット記事
について、僕がどんなものを見ているか、どう読むか、についてご紹介したいと思います。
【1】YouTube
正直、2年くらい前まで僕は嫌っていました。単に有名人、芸能人のオススメだったり、「最新のカメラを買ってみた!使ってみた!」みたいなマーケティング寄りだったり。
しかしやがて、「自分はこんな用途にこう使ってる」「ちょっと古いけどこの目的にはこれがいい」といった、個人的な経験やこだわりを伝えるチャンネルを見つけてハマっていきました。そう、このメルマガみたいな語り口!
例えばこの人のチャンネルはよく見ます。
※ 余談ながら、僕を外国人にするとこんな感じなんじゃないか、という容姿です(笑)
日本だと、ギュイーンさんのは好きですね。
さて、僕が言いたいのは、どのYouTubeチャンネルがいいか、ということではありません。自分の好みに合ったものを見つけることが大事で、例えば、他には
- とにかくアートな映像を目指す
- いろんな面白機材を紹介するだけ
- 一眼レフのレンズの違いをえんえん紹介
- 編集テクニックに特化
など、特色がいろいろあります。
ユーチューバーの多くは新しい機材の紹介に偏ってる気がしています。「新しいカメラを使ってみた」とか「最近発売されたこれ、すごくいいよ」とかそういうのがどうしても目につく。
一方で、海外に目を向けると、「自分はこれをずっと愛用してます」とか「いろいろ試したけどやっぱりこれ」とかそういうのが見つかりやすい、と感じています。裾野が広いんでしょうね。
というわけで、僕の情報収集先は、英語圏にまで広げています。
※ 先日も、買ったbluetoothマイクの情報がなく、とあるアフリカの誰かが触ってる動画を見て分かりました
「自分は英語なんて…」と拒否感を抱かなくてもいいでしょう。最近は自動翻訳機能もついているので、多少日本語は変ですが、ざっと概要を知るくらいなら問題ない。
また、カメラも編集ソフトも、世界中で似たようなものを使っています。外国のユーチューバーも、キャノンやソニーを手にして話している。自分が使っている機種と同じなら、ボタンの表示が英語になってるだけで見たら分かります。
それに、言葉の問題は遅かれ早かれ、かなり解決していくはず、と思っています。なので今から癖づけといても悪くないと思います。
次の問題は、「どうやってそういった英語の情報にアクセスするか」ですね。検索窓に入れるキーワードを英語にする必要があります。ここだけ、コツがいる。映画っぽく撮りたいなら、
- camera Cinematic setting
- movie lighting kit
とかこのあたりのキーワードを組み合わせるといいでしょう。
【2】ネット記事
これもまた、検索キーワードが決まればいろいろアクセスできますね。例えば、ちょっと面白いなと思った記事を紹介したいと思います。
トレンド1:マイクロ予算の映画制作の衰退
トレンド4:女性向け映画の需要の増加
トレンド5:映画を見る層の高齢化
トレンド6:ポストプロダクション業務の需要拡大
1:最低1年くらいの映画制作コースで学ぶ
2:短編映画を作る(そして認められる)
3:テレビ局で働く
4:他の人の映画プロジェクトにスタッフとして関わる
GASという言葉を見つけて笑いました(執筆者の造語?)。
- G.A.S.(Gear Acquisition Syndrome)=もっともっと新しい機材が欲しい!症候群
僕もこれにかかってますね ^^;
ただ、海外の情報にも、やや文句があるというならあるんです。それは、「住んでいる場所が広すぎて参考になりにくい」こと。部屋の中でミニドローンを飛ばしたり、庭の森で撮影テストをしていたり。
「書籍ははずせない」と思うわけ
【1】YouTube
【2】ネット記事
これらと、
【4】書籍や教材
の違いは何だと思いますか?パッと見ると、
- YouTube・ネット記事=最新の情報
- 書籍・教材=ちょっと前の情報
という感じがしませんか?正直、そういう側面はあると思います。が、こう考えるといかがでしょうか。
- YouTube・ネット記事=レベルがバラバラの情報
- 書籍・教材=統一された情報
ネットで情報を集めると、それらは断片的であり、目的も方法論もバラバラなんです。つまり、それらのバラバラの情報を、一つに組み立てることが、見る側に要求されます。
…僕これ、大変だと思っています。それなりの経験値がないと難しい。今回ご紹介したYouTubeやネットの情報も、「この部分だけ参考にしよう」「これは自分には関係ない」と取捨選択しながら見たり聞いたりしてるんです。
確かに、YouTube・ネット記事は新しい。ただし!検索に引っかかって目にする情報が、「いつの段階のものなのか」もチェックしないといけませんね。
それに、「最新」がほんとうにそんなに重要??と僕はいつも思っています。最新が常に正しいなら、
■歴史上、毎年毎年、映画の面白さは更新されていく
はずです。
やっぱり僕は、「書籍ははずせない」と思います。書籍や教材は、同じ著者が書いているため、情報のレベルや方向性が統一されているんです。
iPhoneで撮影するなら、こちらがいいですね ^^
企画から公開まで、一貫した同じレベル・同じ目線で情報をまとめています。どこを切り取っても、レベルがピタリと揃っています。「ここだけ急にレベルが上がったな…」ということがないんですね。
4日間で30分の映画を撮り切るために絵コンテを描く
お仕事で、ドラマ映像制作の依頼が来ました。2、30分ほどの短編作品で、僕は、監督と編集を担当。まあ、こういった話は途中で立ち消えになる可能性もありますが、作っていく工程が参考になると思うので、ご紹介していこうと思います。
自主映画と、頼まれた制作の大きな違いは、「依頼主の存在」です。自主映画は、すべてを監督の頭の中にとどめ、好きに進めればいい。しかし、依頼主がいる以上、監督は「頭の中を常に共有」することが求められます。監督(ディレクター)という職業は、「自分がやっていることを分かりやすく解説するスキル」も求められるんですね。
さて今回のプロジェクトは、シナリオはできあがっていて、予算がほぼ決まった状態。依頼主としては、気になることがいっぱいあるわけですね。
「どんな作品になるのか」
「どんな風に進めるのか」
「こちらの希望を言えるのか」
「どこで撮るのか」
「いつ撮るのか」
…何もかも分からない。
僕はこれらの疑問をすべて、バシッと答える準備に入りました。
★絵コンテを描くわけです。
絵コンテというのは本当に使い勝手のいい存在で、用途によっていろんな描き方ができます。この段階では、「撮影計画のための絵コンテ」を描いていくわけです。
これを描く前に、少し考えるべきことがあります。
※ ちなみに、大きなプロジェクトであれば、プロデューサーと演出、制作とか助監督とか、スタッフも細かく役割が分かれます。しかし、今回のような小さなプロジェクトだと、監督のすべき範囲はすごく広い。このあたりは、自主映画のノリと一緒、と言えます。僕も、いろんな仕事を兼務しながら準備します。だからこそ、この内容は皆さんにも役立つと思います。
■シナリオを<現実的に>読み解く
シナリオは目の前にあります。出演者リストも載っています。撮影場所の候補地も書かれています。依頼主としては、「じゃあその通りにやってよ」と考えるかもしれません。シナリオライターもそう考える傾向にありますね。
でも、監督としては、「それが実現可能か?」を検討しなければいけません。
シナリオは大事ですが、所詮、文字の表現です。監督は、文字表現を<映像表現>に変換する役目があります。例えばシナリオに、
「3人が喫茶店で会話している」と書いてあれば、監督は、
- 3人はどう並んで座っているか
- 3人それぞれ何を注文しているか
などといったことを考えるのです。シナリオでは、「そんなに大事なシーンじゃないから細かく詰めてない」なんてところでも、監督は、目に見える形で表現しなきゃいけない。
- 店内はどの程度混んでいるか
- どんな店内か
そんなことにも思いを馳せます。仮に、本当に大事なシーンじゃない場合、
- 喫茶店という設定を変える
- 喫茶店じゃない場所で撮る検討
なども検討する必要があるでしょう。シナリオライターと監督の見る世界は異なるんです。「喫茶店」というのはシナリオを書くのにとても便利な設定。でもね、実際に撮るとなるとかなり面倒な設定なんです。
■撮影スケジュールを見積もる
予算をもとに<撮影日数は最大5日間>と試算しました。シナリオを読んで何日かかる…ではありません。予算が撮影スケジュールを決めます。
- 役者の人数
- スタッフの人数
そこから予算との兼ね合いで、撮影スケジュールが割り出されます。つまり、その撮影スケジュールでどうやって撮り切るか?を考えるのが次のステップになります。
撮影は5日間、と試算しました。その段階で、「じゃあ4日間しか使えない」と考えます。1日は、何かあった時のための予備日です。しかしこの4日間がフルに使えるかというとこれまたとんでもない。
- 屋外の撮影は、想定の1.5倍かかる
- 室内の撮影は、想定の2倍かかる
そんな気持ちでいます。
屋外の撮影がなぜ1.5倍か。通行人や車などで映像的な邪魔が入り、電車やサイレンなどで録音的な邪魔が入るからです。そのため、屋外の撮影では、「もうこれでいいや」と妥協せざるをえないことも多い。
続いて、室内。これは屋外のように邪魔なものがありません。でも実は、屋外よりも時間がかかるのです。…なぜだと思いますか?
邪魔が入らない分、監督が「余計なことにこだわり出す」ためです。屋外では気にもしてなかったような、光の当たり方とか構図といったものに、
すごくこだわるようになります。
「これもやってみたい」
「これも試してみたい」
その結果、時間がかかってしまう。人は、制限がないとどこまででもやっちゃう生き物なんですね。
さて、ということは、ですよ。撮影が4日間あると言っても、4日間分は撮影できないんです。それを見越して、絵コンテを描いていく。
★与えられた時間をフルに使うような絵コンテは描いてはいけない。
かつ、撮影当日は、無駄なやりとりを一切排除し、事前準備を周到にし、気心知れた少人数のチームで挑みます。これにより、1日の使い方が濃くできますね。
…そんなことを考えていたら、とんでもないことを言われます。
「素人さんをエキストラ出演させたい」
「この場所で撮って欲しい」
今後もあれこれ言われるんでしょうね。
4日間のスケジュールのうち、その6割くらいで撮り切れるような演出。…こんな目標ができました。
クリント・イーストウッドは早撮りで有名だそうです。その秘訣は、ほとんどが1テイクか2テイクでOKを出すこと。僕もこれを目指していきたいと思います。
ここでようやく、僕は絵コンテノートを広げ、シナリオを読みながら、ガシガシ絵コンテに落とし込んでいきました。自分のためだから、きれいになんて描かない。ただのメモでいい。
<今日の教訓>
- 情報はいろんなところにあるのでうまく選んで吸収しよう
- シナリオは文字通り撮らない
- 予算が撮影スケジュールを決める
- 与えられた時間がフルに使えるわけじゃない
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