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お粗末GoToイート。“お友達”グルメサイトの儲けを優先する政権の愚

10月1日にスタートするや否や問題が頻出し、飲食の現場からも多くの批判の声が上がっている「Go To イート」。政府は早くも制度を見直す方針を示しましたが、支援の手は、本当に必要としている方々に届くようになるのでしょうか。今回のメルマガ『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、「同キャンペーンで儲けているのは指定されたグルメサイト」という現状を記すとともに、消費者にポイントや割引券をバラ撒くだけの「Go To イート」は不完全であると厳しく批判しています。

Go To キャンペーンという税金の無駄遣い

安倍晋三前首相が今年4月に「緊急経済対策の目玉」として打ち出した「Go To キャンペーン」ですが、安倍政権下の7月22日に強行スタートした第1弾「Go To トラベル」は、開始早々からトラブル続出で「Go To トラブルか!」などと批判されてしまいました。そして、現在の菅政権下でスタートした第2弾「Go To イート」も、10月1日の開始から1週間を待たずして次々と問題が発生しています。

まず初めの問題は、スタート直後にネット上で拡散された「錬金術」です。これは、指定されたグルメサイトを通じて予約した飲食店で夕食をすると「1,000円分のポイントが付与される」という今回の制度の穴を突いたもので、予約した店で1,000円以下の食事をして差額をいただくという手法です。この「錬金術」に関しては、すべてのメニューが税抜き298円で、1品だけの注文でもいい居酒屋チェーンの「鳥貴族」がターゲットになりました。

近くの「鳥貴族」に予約を入れ、その店で1品だけ食べれば税込み327円なので、1円も払わずに673円のポイントが手に入ります。「鳥貴族」はあちこちにありますから、複数の店に時間差で予約を入れて、1日に何店舗も回る人が次々と現われました。ネット上では「トリキ錬金術」などと呼ばれて拡散され、多くの店舗が被害を受けました。どうして「被害」なのかと言うと、その店が登録しているグルメサイトを通じて予約した客が来ると、その店はグルメサイトに「送客手数料」を支払わなければならず、300円ほどの利用額では利益が出ないからです。

対応を急がれた「鳥貴族」は、8日付でポイント対象を「1,000円以上のコース料理」などに限定しました。もちろん「鳥貴族」の他にも利用料金の下限を設けずにポイントを付与していた店はたくさんあるので、「Go To イート」を所管する農林水産省も8日、「ポイント以下の金額の飲食ができないように」と各グルメサイトに求めました。そして、この「錬金術」は収まったのですが、ポイント以下の飲食ができなくなったのであればと、すぐに登場したのが「無限ループ」です。

指定されたグルメサイトを通じて予約した飲食店で1,000円ちょうどの食事をすると1,000円分のポイントが付与されるので、翌日も予約して1,000円ちょうどの食事をして、前日の貰ったポイントで支払う。そうすると、その日の分のポイントが付与されるので、その翌日も予約して同じことを繰り返す。こうすれば、自分が支払うのは最初の1,000円だけで、後は永久に夕食がタダで食べられるという手法です。

これらの話を聞いて「セコイなあ」と思った人もいるかもしれませんが、「錬金術」にしても「無限ループ」にしても、どちらも合法的な手法です。問題なのは、あらゆる利用パターンを想定したシミュレーションも行なわずに、ユルユルの制度設計のまま見切り発車した農林水産省なのです。それに、終わりの見えない新型コロナ禍の今は、生活に困窮している人がたくさんいます。こうした裏技に飛びつく人が出て来るのは当然でしょう。

あたしがネットで見た大学生は、実家の商店が新型コロナの打撃を受けて仕送りが途絶え、自分も新型コロナでバイトを解雇されたため、単発のバイトで何とか食い繋いでいたそうです。そんな時に「トリキ錬金術」を知ったので、毎日5~6店舗を自転車で回っていると書いていました。この大学生を「セコイ!」と非難することができるでしょうか?

一方、飲食店のほうも大変です。東京商工リサーチの最新のデータによると、今年2月から10月7日までの「新型コロナが原因の倒産」がとうとう600件を超えてしまったのですが、ダントツのワースト1位が飲食業なのです。以下、事業別の倒産件数です。

飲食業 90件
ホテル・旅館 50件
建設業 33件
食品卸 31件
アパレル小売 30件
食品製造 27件
アパレル卸 20件
アパレル製造 13件
食品小売 9件

 

※ 2020年10月7日付

2位と3位以外は、すべて飲食関連とアパレル関連です。注目すべき的は、飲食業が数多く倒産したことによって、食品卸や食品製造が連鎖倒産している点です。同様に、アパレル小売が数多く倒産したことによって、アパレル卸やアパレル製造も連鎖倒産しています。ようするに、飲食店だけを見れば倒産件数は90件ですが、連鎖倒産した食品卸や食品製造も加えると148件、食品小売まで加えると150件を超えるということです。

新型コロナが原因で倒産した飲食店の中では、客単価が低く回転率で稼いでいるラーメン店が多く、今年のラーメン店の倒産件数は、9月末の時点で過去20年の最多件数と並んでしまいました。このまま行けば、過去最多を更新するのは時間の問題です。ここで気になるのは、横浜家系ラーメン「六角家本店」や豚骨ラーメン「長浜将軍」など、根強いファンを持っていた人気ラーメン店までもが複数倒産していることです。

行列ができる人気ラーメン店でも、新型コロナ対策で使用できるカウンターの座席が1つおきにされれば、それだけで売り上げは半減します。ポイントなど付与されなくても、多くのファンが行列を作る人気ラーメン店。こうした店舗までもが倒産しているのですから、消費者にポイントや割引券をバラ撒くだけの「Go To イート」は完全に片手落ちだと思います。

毎日新聞の9月30日付の「『Go To イート』開始も不安消えぬ飲食業界 重い「送客手数料」負担、広がる困惑」という記事によると、指定されたグルメサイトを通じて予約した客が来店しても「グルメサイト側に『送客手数料』を支払わないといけないので儲けの大半が持って行かれてしまう」(東京築地の海鮮丼店の店長)とのこと。ようするに、儲かるのは指定されたグルメサイトなのです。

「Go To トラベル」しかり「Go To イート」しかり、恩恵を受けられるのは大手ばかりで、中小・零細の旅館や個人経営の飲食店には、ほとんど支援が届かないシステム。こんなものに1兆3,500億円もの莫大な予算が投じられているなんて、あたしは真面目な納税者の1人として、溜め息しか出てきません。こうしたキャンペーンを行なうのであれば、政権に近しい企業や人物を優遇することなく、本当に困っている人たちに支援が届くようにしてほしいと思います。

そんな最中(さなか)、この原稿を書いている12日、「台風19号による記録的大雨から今日12日で1年」というニュースが配信されました。キーボードを叩く指を止めて読んでみると、1年前の台風19号で甚大な被害を受けた宮城、福島、長野の3県では、今も7,000人を超える被災者が仮設住宅などで不便な避難生活を続けているとのこと。こうした人たちは、莫大な予算を投じて「旅行だ!」「外食だ!」と大々的にキャンペーンを張る今の政府を見て、一体、どんな思いをしているのでしょうか?

(『きっこのメルマガ』2020年10月14日号より一部抜粋)

image by: Koshiro K / Shutterstock.com

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