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日本人が知らない、銃撃テロ避難で「両手を上げる」本当のメリット

日本人ほど地震が起こった際の避難の仕方が身についている国民はいないのではないでしょうか。では、テロに遭遇した際の避難の仕方についてはどうでしょうか。『アメリカ式銃撃テロ対策ハンドブック』を日本に紹介した危機管理の専門家で軍事アナリストの小川和久さんは、テロ避難の際に両手を上げて逃げる姿の意味を正しく理解している人は少ないのではと指摘します。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、その意味を解説するとともに、オリンピック・パラリンピックに備え、テロからの避難訓練の定着を提言しています。

テロ避難で両手を上げる意味

荒れに荒れた米国大統領選、そして新型コロナウイルス感染症のニュースが幅を利かせるなかで、国際テロ事件はすっかり影が薄くなっている印象ですが、こちらもヒタヒタと平和な暮らしに忍び寄っています。なんと、この2週間ほどの間に4件が発生し、報道のあとの死者を加えると30人以上が犠牲になっているのです。まずはニュースから。

「オーストリア・ウィーン中心部で2日午後8時(日本時間3日午前4時)ごろ、少なくとも6カ所で銃撃があり、報道によると2人が死亡、14人が負傷した。また、容疑者1人が警察官に射殺され、少なくとももう1人が逃走中という。クルツ首相は公共放送ORFで、『明白なテロだ』と断言した」(11月3日付時事通信)

「アフガニスタンの首都にあるカブール大学で2日、武装集団が学生らを銃撃した事件で、AFP通信は死者が22人に達したと報じた。内務省報道官は、死者の大半が学生で、少なくとも10人が女性だったと明らかにした。過激派組織『イスラム国』(IS)が系列メディアを通じ、犯行を主張した」(11月2日付AFP通信)

「フランス南部ニースのノートルダム教会で29日、刃物による襲撃があり、少なくとも男女3人が死亡した。同国メディアが伝えた。対テロ検察がテロ殺人の容疑で捜査を始めた。ニースのエストロジ市長は記者団にイスラム過激派のテロだとの見方を示した」(10月29日付共同通信)

「パリ近郊コンフランサントノリーヌの路上で16日、地元公立中学校の男性教員が刃物で襲われ、首を切断されて死亡した。通報で緊急態勢を敷いた警官が現場近くで容疑者とみられる男を見つけ、抵抗したため射殺。フランスの対テロ検察がテロ殺人の容疑で捜査を始めた。地元メディアが報じた」(10月17日付共同通信)

そうした欧米での事件のニュースをTVで見ていて、日本との落差を感じさせられる場面にハッとさせられることが少なくないのですが、なんだとお思いですか。先進国ほど、逃げてくる人々が両手を高く上げ、掌を開いて走ってくるシーンです。

これは、私が監訳し、西恭之氏(静岡県立大学特任准教授)が翻訳した『アメリカ式銃撃テロ対策ハンドブック』(近代消防社)でも繰り返し述べてきたことですが、これが銃器や刃物を使ったテロの時の避難者の基本的な姿勢で、みんなが同じように手を上げている都市では、当局による訓練が行われていることを意味しているのです。

両手を上げて走れば、テロリストと間違えられて撃たれることを避けられますし、警察当局からすれば、両手を上げて走ってくる人間がテロリストだったとしても、掌を開いていますから、その分、テロリストが自爆テロ用の超小型ワイヤレス送信機や隠し持っている銃器を使おうとしても、待ち構えている警察部隊のほうが早く発砲できます。何の意味もなく両手を挙げ、掌を開いている訳ではないのです。

私たちが出したハンドブックは日本で初めての試みで、それを見ただけでも日本のテロ対策の遅れがわかると思います。日本の場合、まず報道するマスコミの側に基礎知識がありませんから、偶然の場合を除いて、逃げる市民の姿を克明に追うことはありませんし、まして避難の在り方や訓練について報じることは皆無です。

来年夏の東京オリンピック・パラリンピックについて、日本の警察当局の中から「警備面で開催は無理」という声が出始めていると聞きます。銃撃テロ対策ハンドブックを紹介した立場としては、そんな弱気なことを言わないで、オリンピック・パラリンピックを機会に訓練を始め、定着させてはどうか、と背中を押したい気持ちです。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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