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戦犯は菅・二階。GoTo効果は再度の「緊急事態宣言」で吹っ飛ぶ

遅きに失した感のある、菅首相によるGoToキャンペーン見直しの表明。そもそも「コロナ収束後」の開始が予定されていながら前倒しで実施された裏には、いかなる思惑があったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、元全国紙社会部記者の新 恭さんがそのウラ事情を探るとともに、菅政権の現実を看破しています。

「Go To」の旗を振った菅首相はますます無口になった

誰が考えてもおかしいことだった。新型コロナの感染が収束しないなかでの、行け行けキャンペーン。税金で補助してくれるんなら行かなきゃソンと心が動くヒトの弱みにつけ込んで、一時的に経済立て直しに寄与したのは確かなようではあるが、やっぱりそう甘くはなかった。

具体的な方策を明示しないまま、菅首相は「Go To キャンペーン」を見直すと言い捨て、官邸のぶら下がりの場を去っていった。しかも、地域の事情を知っているからと、自治体に判断を押しつけ、いままでに決まったことといえば、札幌市と大阪市への旅行が「Go To Travel」の対象から一時的に外されるというだけ。東京都はどうなるのかは、国と都の責任の押しつけあいで定まらない。

札幌や大阪に行くのは、現地の医療事情がひっ迫しているからご遠慮願いたい。だけど、そこから旅行に出かけるのはOK。なんともチグハグな菅政権の対応ぶりにはあきれるばかりである。

そもそも「Go To キャンペーン」をやれば、冬場にさしかかるとともに感染者が増えていくことくらい、誰しも予想できた。それを承知のうえ、コロナ自粛で落ち込んだ経済の巻き返しを優先して強行したのだから、現下の感染急拡大は覚悟のうえだったはず。

事実、つい最近まで、菅首相は頑なに態度を変えようとはしなかった。GoTo事業の見直しについて記者団に聞かれても「専門家が現時点ではそのような状況にはないとの認識を示している」(11月13日)と、素っ気なかった。

実際には、コロナ重症者用のベッドが急ピッチで埋まり、医療現場からは悲鳴があがっていた。専門家の間に、コロナ対策と経済の両立どころか、共倒れになると危機感が募った。テレビ番組でも、一部の医師や感染症専門家から、政府の姿勢を訝る声がもれていた。

とはいえ、人の好き嫌いが激しく、それを人事に反映させるのを信条とする首相の首にスズをつける役目は気が重い。なにしろ、「Go To キャンペーン」をやめるべきだと正面切って進言し、「それなら経済はどうする。自殺者が増えたら責任をとれるのか」と凄まれでもしたら、身が縮む思いがするだろう。

ここはやはり、立場上、紳士然としたコロナ対策分科会の尾身茂会長がやんわりと、間接的に説得するほか手がなかったのである。

11月20日の夜、尾身会長は分科会としての提言を発表した。「Go To キャンペーン」にかかわる概略は以下の通りだ。

Go To Travel事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しないが、同時期に他の提言との整合性のとれた施策を行うことで、人々の納得と協力が得られ、感染の早期の鎮静化につながり、結果的には経済的なダメージも少なくなると考えられる。…感染拡大地域においては、国としてGo To Travel事業の運用のあり方について、早急に検討していただきたい。人々の健康のための政府の英断を心からお願い申し上げる。

表現に気を配ってはいるが、中身は手厳しい。国民に“三密”回避などを求める一方で、「Go To Travel」を推進するという、政策の整合性のなさを指摘している。

言い方を変えれば、「Go To」をこのまま続けたなら、感染の急拡大に歯止めがかからず、医療は崩壊し、結果として経済も破綻する恐れがあると諭しているのだ。

分科会の提言を受け、菅首相は一夜にして方針を転換した。「それ見たことか」という人もいれば、「Go Toは成功した。ヤバくなったら撤退するのは当然だ」という人もいるだろう。

だが、筆者は変わらず思うのだ。「Go To」をやるなら、PCR検査の拡大などにより、安心して人々が動き回れる状況をつくるべきで、そのためであれば、いくら予算をつぎ込んでもかまわないではないかと。なによりの経済対策はそれであろうと。

ところが、政府は「Go To」がもたらす負の側面をあえて無視し、突っ走った。あたかも建設すれど核廃棄物の捨て場所を考えず「トイレなきマンション」と称される日本の原子力発電所のように。

アベ・スガ政権が頼りにしたのは、科学的知見にもとづいた政策ではなく、まじめな日本人の国民性である。菅首相が提唱する「静かなマスク会食」はその象徴といえる。

会食はマスクをして、食べるときに外し、しゃべるときにつける。それなら「Go To」で旅に出ようが、食事に行こうが、イベントに集おうが、大丈夫だ。日本人にはそれができるのだと訴える。

もちろん、マスクをして会話することが感染防止に有効であるのは証明されている。だが、それは対策のごく一部だ。人が移動し、接触し、会話する場面が増えれば増えるほど、どれだけ気をつけていても、感染は拡大してゆく。

「Go To」を呼びかけたツケとして自粛ムードが極端に緩み、世に“三密”がはびこった。経済のためにこれを容認するため、マスクで防御できると言い募っているようにも見えるのだ。

「Go To Travel」の見直しは、誰よりも、菅首相、そして全国旅行業協会会長でもある二階幹事長にとって、痛恨事であろう。

今年10月23日に開かれた、二階氏の派閥「志帥会」の政治資金パーティーは、JTBの田川相談役の講演があり、菅首相が挨拶をするなど、さながら「Go To Travel」促進大会の感があった。

週刊文春の取材にJTBの“ドン”田川相談役はこう語っている。

「政治の力がないと、いろんなことができないですから。インバウンドをやるときのビザの緩和とか。二階さんとは(関係が)深いですよ。観光について造詣が深いしANTA(全国旅行業協会)の会長をずっとやっているので、現場をよくご存じです。菅さんも、新しいツーリズムのあり方を考えていらっしゃる。2人に共通するのは、地方の活性化のために観光が大事だと理解してくださっている点です」

JTBが日本最大の旅行会社で、最も「Go To Travel」の恩恵に浴していることは言うまでもない。

菅首相は官房長官だった2018年1月、旅行業界の「新春講演会」で講演し、観光立国に向けた政策をさらに進める姿勢を強調した。同年10月にも「北海道を観光で盛り上げる会」に二階幹事長らとともに出席して、観光関連企業の面々に存在感をアピールしている。

これだけ観光・旅行業界に食い込み、支持を受けている菅首相、二階幹事長のこと。新型コロナウイルスが突如として出現し、ばったり人の姿が途絶えた新幹線の駅や空港の風景などは、見るに耐えなかっただろう。外出自粛ムードがいつまでも続くのはどうしても避けねばならなかった。

そこに浮上したのが安倍政権の今井尚哉・首相補佐官と新原浩朗・経産省経済産業政策局長が発案したとされる「Go To キャンペーン」だ。

具体的な絵は内閣官房に電通から出向している職員に描かせたのだろうが、持続化給付金事業にまつわるダミー法人疑惑を端緒に、電通への巧妙な事業丸投げシステムが露呈し、今井・新原コンビは動きがとれなくなった。

それに乗じて、「Go To キャンペーン」の主導権を握ったのが菅・二階コンビだった。もともとこのキャンペーンはコロナ感染がおさまったあとの景気対策として浮上したもので、当初は8月中旬のスタートを予定していた。

しかし旅行業界の窮状を見た菅・二階コンビは強引に「Go To Travel」の開始日を7月22日に前倒しさせ、その後はみごとなまでの旗振り役をつとめてきたのである。

「Go To」の4事業。トラベル、イート、イベント、商店街。予算総額は約1兆7,000億円だが、トラベルが1兆3,000億円を占める。このド派手な観光振興策が、人々の恐怖感を緩め、高揚感と欲望を刺激したのは明らかだ。

ウイルスを甘く見て、希望的な算段をめぐらせ、経産省と電通のアイデアに飛びついた菅首相と二階幹事長。膨大な予算を注ぎ込んで何千万という人を動かせば、当然、「Go To」副作用の大波として跳ね返ってくる。

そして心配が現実になりつつある今、小出しの“対症療法”的政策、予算の逐次投入でなんとかやりくりしようとしているのが菅政権の現実だ。感染の暴走が止まらず、再び緊急事態宣言を発して、外出自粛が長引く事態に陥った場合、これまでの「Go To」の成果さえ吹っ飛びかねない。

無口政権のトップは、いま何を考えているのか。国民は何も聞かされないまま怯えている。

image by: 首相官邸

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