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経済失政をコロナで正当化する北朝鮮。金正恩「核」連呼の思惑とは

5年ぶりに開催された朝鮮労働党大会で、金正恩氏は「核戦争抑止力を強化し、最強の軍事力を育てることに全力を挙げる」など、「核」を連呼。経済計画の未達を認めながらも17日には軍事パレードを強行し、国防予算は前年と同水準を維持しています。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんが、金正恩氏が核と中国にすがらざるを得ない状況について解説。国境封鎖しか手がない「コロナ防疫」により対中貿易額の激減で困窮する人民を慮ります。

核連呼で「非核化の仮面」を脱いだ金正恩

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、1月5日から12日まで開催した5年ぶりとなる第8回党大会で、核武装路線を強調し、米国や韓国に対する強硬路線を鮮明にした。経済計画の未達成を認める一方で、核兵器能力を繰り返し強調した。

金正恩委員長は3日間で9時間におよんだという演説で、「核」という単語を36回、「核武力」という表現を11回繰り返したという。

北朝鮮は昨年来、経済制裁や新型コロナ禍にともなう中国との国境封鎖、それに加えて台風など水害による農作物被害のいわゆる「経済三重苦」に見舞われてきた。

金正恩委員長は、「国家経済発展五か年戦略遂行目標がほぼすべての部門で途方もなく未達」と経済政策の失敗を認めたが、その理由として、国際社会からの対北制裁に加え、中国・武漢発の新型コロナ防疫対策のため国境を閉鎖した措置が「途方もない未達」を招いたと、自ら計画した経済政策の失敗を正当化し、人民には「自力更生 自給自足」の経済計画を掲げて推進していくことを強要した。

金正恩委員長としては、「自ら立てた経済の失敗を核武力で覆い隠し、その過程で民心離れに歯止めをかけなければならない」立場に追い込まれていた。

そのため、金正恩委員長は5日から7日の報告で、対外政治活動について、「最大の主敵である米国を制圧・屈服させることに焦点を合わせる」と、「米国は最大の敵」呼ばわりし、米国との対決姿勢を鮮明にさせ、「我々の国家防衛力は、敵対勢力の威嚇を領土外から先制的に制圧できる水準に上り詰めた」と強調した。

このような核兵器による先制攻撃の脅しとも受け止めることができるが、金正恩委員長は戦術核兵器や、固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBМ)の開発、「超大型核弾頭」の持続的生産を図るとし、すでにICBМの多弾頭技術開発は最終段階にあると表明し、極超音速滑空弾道の早期導入や原子力潜水艦や偵察衛星保有の方針も掲げた。

これらはバイデン新政権発足をにらみ、原子力潜水艦の建造などの新たな脅威を振りかざすことで揺さぶりをかけた格好だが、バイデン新大統領がこのような北朝鮮の揺さぶりにどのような対応を見せるのかである。

北朝鮮としてみれば、制裁緩和を一刻でも早く引き出したいのだが、新兵器を振りかざして武力挑発をさせようとするならば、さらなる制裁強化を招くことは必至である。

にもかかわらず、金正恩政権がそのような事態をもたらすことを想定した上での決定だとしたら…、北朝鮮の人民はたまったものではない。

党大会中に中国の習近平国家主席が祝電を寄せ、中朝両国の関係発展は「党・政府の確固不動な方針」と述べ、今後とも北朝鮮への支援を続けることを示唆した。金正恩政権は中国の力に頼り、当面の経済難を乗り切る魂胆なのか。

1月18日に中国税関総署は北朝鮮との昨年の貿易総額は前年比80.7パーセント減の5億3906万ドルだったと発表した。

この貿易額は過去20年間で最低の数字であるが、北朝鮮が新型コロナ対策で国境を封鎖した結果によるもので、昨年12月の貿易総額は500万ドルであった。

これは中朝貿易総額が公表され始めた1988年以来、最低だった昨年11月よりは増加したものの、前年同月比では98.2パーセント減という有様であった。

北朝鮮では中朝国境貿易が遮断され、農民市場での生活用品の不足と生活難によって住民の不平不満が膨らんでいるという。

中朝国境で密輸を生業としている朝鮮族の業者は「北朝鮮から調味料類の依頼が多い」とのことだが、この寒空の下で軍事パレードを強行したり、1月17日に開催された最高人民会議では厳しい経済難の中でも、今年の国防予算に歳出の15.9パーセントを充てるなど、昨年と同水準を維持。昨年の国防事業に関し「核戦略を軸とする自衛的国防力を質・量的に強化した」と評価したとのこと。

金正恩政権からは「非核化」の言葉は消えてしまった。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by:Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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