2月1日、ミャンマー国軍がアウンサンスーチー氏やウィン・ミン大統領など政権指導者を拘束し、国家の権力を掌握しました。この事態に、日本国内でもミャンマー人やその支援者が抗議の声を上げ、国際社会に訴えかけています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、今回のクーデターがイスラム系少数民族ロヒンギャに及ぼす影響を憂慮。この1年の朝日新聞に掲載されたロヒンギャに関わる記事を検証し、大きな懸念を伝えています。
クーデタで揺れるミャンマーの「ロヒンギャ問題」を新聞はどう報じてきたか?
きょうは《朝日》から。3面にミャンマーのクーデタに関する記事があり、その記事の後半で、ロヒンギャ迫害にも触れています。コロナ禍にあるこの1年、「ロヒンギャ」を巡るどんな記事が出ていたのか、見てみたいと思います。
単純に検索を掛けると紙面掲載記事で50件出てくるのですが、そのうち、タイトルに「ロヒンギャ」を含むのは10件。これらを対象にしたいと思います。まずは《朝日》3面。見出しから。
国軍 弱体化に危機感
総選挙惨敗■不正主張通らず
ロヒンギャ迫害 悪化の恐れ
クーデタの報を受け、国連の報道官は、ロヒンギャを巡る状況を「悪化させるのを恐れている」と述べたという。2017年にロヒンギャの武装組織に対する国軍の掃討作戦があり、その機に70万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃げ込むこととなった。ミャンマー政府は「ジェノサイド」として国際司法裁判所に訴えられ、国際刑事裁判所も「人道に対する罪」の容疑で捜査を始めているという。
これまで、こうした国際的な動きについて「決して受け入れられない」と反発してきた国軍トップのミンアウンフライン最高司令官はクーデタによる全権掌握で、さらに強硬な対応を貫くのではないかと見られているという。
●uttiiの眼
ロヒンギャを巡るアウンサンスーチー国家顧問の対応については批判が多かった。記事には、国際司法裁判所の法廷でジェノサイドは否定しつつ、「行きすぎた武力行使」の可能性を認め、バランスに苦慮した形跡があるとしている。皮肉なことだが、このクーデタと今後のミャンマー国軍によるロヒンギャ対応によって、国軍とアウンサンスーチー氏との違いがハッキリするのかもしれない。
【サーチ&リサーチ】
2020年5月4日付
タイトルは「迫害の不気味さ、ロヒンギャの姿 立命大生・鶴さん、ウェブで記録公開 /京都府」。ロヒンギャに興味を持った学生が80日間掛けて現地を訪ね歩いた記録。「国籍をもらえず、憲法に基づく権利も持たないとはどういうことなのか。現地で感じた「不気味さ」を伝えたい」と。
2020年5月11日付
迫害を恐れて日本に逃れてきたロヒンギャの一家。コロナ禍で過ごす寂しいラマダンの様子についてのルポ。例年のようにモスクに集まることができないため。
2020年5月16日付
ロヒンギャが暮らすバングラデシュの難民キャンプと新型コロナ。初の感染者が確認されたキャンプでは「100万人以上が密集して暮らしており、感染の拡大が懸念されている。一方で、新天地を目指した船が着岸を拒否されて漂流するなど、ロヒンギャをめぐる状況は厳しさを増している」と。
2020年5月21日付
ミャンマー政府が国際司法裁判所に提出する報告書についての記事。日本がその中身作りに協力していて、「ミャンマー政府は日本の支援を受け、警察官や軍人への研修などの方策を盛り込んだ報告書を提出し、問題解決に取り組む姿勢をアピールする見通しだ」と。
*8月。ロヒンギャが難民化する事件から3年ということで、日本国内にいる難民の窮状や、なかなかミャンマーに帰還できないバングラデシュの難民キャンプの状況、新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけている状況についての記事。キャンプ内の感染者は8月19日時点で79人、死者6人となっていた。
*新型コロナ感染の話はその後、逆転する。12月になっても感染者は363人しか出ておらず、爆発的な感染を危惧していたWHOは逆に「なぜ感染者が少ないのか」、大掛かりな調査に乗り出す。もっとも、感染が分かれば離島に移送されるとの危惧から、感染が適切に報告されていない可能性も指摘されているが…。
2020年11月4日付
今回のクーデタのきっかけとなった総選挙についての記事。「アウンサンスーチー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟(NLD)を含め、大多数の政党はロヒンギャ問題に触れず、争点にもなっていない。根強く残る差別意識のもと、迫害から逃れて隣国バングラデシュで暮らす約70万人の難民は帰還への希望を見いだせずにいる」という。
さらに、選挙の公正性についての批判も。「国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「ロヒンギャが参加を拒まれている限り、この選挙は自由で公正なものではない」と批判している」と。
*国軍が不満を持ったのとは全く違う意味での総選挙の問題。
2020年12月6日付
今度は、バングラデシュ政府による新たな迫害とも執れる措置。「バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプで生活するイスラム教徒ロヒンギャについて、バングラデシュ政府が、ベンガル湾の島へ移送を始めた。島は豪雨や高潮に見舞われることがあり、国連やNGOなどからは「水没する懸念がある」との声が上がっていた」
*コックスバザールのロヒンギャ難民は約100万人。過密となっていることに加え、ロヒンギャが定住することに対して地元住民の反発があったというが…。
*最後は、群馬県内の小学生4人が、クラウドファンディングで300万円を集め、ロヒンギャ支援のために難民キャンプの学校に送ったとの記事。
●uttiiの眼
日本国内に一定数のロヒンギャ難民が暮らしていること、ロヒンギャに関心を持つ若い人たちがいることが分かる。また、ロヒンギャ自身の状況は極めて劣悪な状態のままミャンマーとバングラデシュの狭間で正当な権利を奪われたままだ。
もともと、ロヒンギャ迫害が始まったのは1962年の軍事クーデタ以降とされている。決して3年前の出来事ではない。今また軍政が復活することで、ロヒンギャにとって一層厳しい状況となることが懸念される。
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