問題発覚当初の強気な態度が一変、衆院予算委員会で長男の総務省幹部への接待攻勢を謝罪した菅首相。そもそも総務省幹部らは、なぜ接待を断るという選択をしなかったのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、「文化心理学」と「絶対感」をキーワードに、当問題の本質に迫っています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
罪悪感なき接待漬けの正体
総務省幹部が「東北新社」に勤める菅義偉首相の長男から接待を受けていた問題は、日を追うごとに「ズブズブの関係」が明らかにされています。
課長から局長まで総勢13人。内閣広報官を務める山田真貴子氏も接待を受けていました。
いったいいつの時代なのでしょうか?一晩、7万円?「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」と同じじゃないですか。
39回という接待の多さや、出席者の顔ぶれから想像すると「え?何が悪いわけ?」くらいにしか思っていなかったのでしょう。
「心は習慣で動かされる」と説いたのは、1990年に文化心理学という新しい学問を提唱したブルナー博士ですが、接待漬けになっていた官僚たちにとって、接待を受けるのは習慣だった。階層社会の階段を昇ると高い知識やモラルが育まれる一方で、怠惰、愚考、堕落などのマイナス面も同時に生じ、習慣に適応します。
習慣に適応した心は、「おかしいことをおかしい」と知覚できなくなり、「アレはアレで意味あること」という信心に変化します。
おまけに、人はしばしば自分でも気がつかないうちに権力の影響を受け、権力で生じる「絶対感」に酔いしれ、堕落し、幼稚化し、無礼で、倫理的にもとる行動をとり、リスクの高いおバカな行動を平気でするようになってしまうのです。
どんなに「別人格」であっても、元秘書官だった長男の後ろには菅首相の影が見え隠れしたでしょうし、当時官房長官だった菅氏は官僚の人事権を握っていました。権力と接待漬けを切り離すことは無理です。
興味深い心理実験があります。「約束の時間に遅れそうだからスピード違反でクルマを走らせる」という行為について、「絶対感の高い」グループと「絶対感が高くない」グループに分けて考え方を調べたところ、絶対感の高いグループに属する人たちの多くが「自分がスピード違反する行為」を「仕方がない」と回答。その一方で、同じ行為を他者がやったときには「法律に違反するなど許せない行為だ」と厳しく非難しました。
つまり、絶対感は「自分に甘く、他人厳しい」という実に身勝手な知覚を強化させてしまうのです。
いずれにせよ、今回の総務省の問題は、森友問題などにも通じるゆゆしき権力の構造が背後にあることは否定できません。
権力という人を惑わす魔物を、どうやって制御するのか?とかげの尻尾切りに終わらせることなく、構造そのものを見直す議論を進めて欲しいものです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
image by: 首相官邸