以前掲載の「4千年の歴史は伊達じゃない。中国古典の知恵をビジネスに活かす」では、朱子学や孫子の兵法から、経営者のありかたや経営戦略のヒントとなる文言を紹介してくださった、経営コンサルタントの梅本泰則さん。今回梅本さんは自身の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』で、荀子や司馬遷が遺した経営や人材育成の範となる6つの言葉を挙げ、それぞれについて解説しています。
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中国古典から経営を学ぶ
経営者に関する言葉3つ
勝に急にして敗を忘るるなかれ
「荀子」の言葉です。荀子は孟子の性善説に対し性悪説をとなえました。あまりいいイメージを持たれていないようですが、良い言葉をたくさん残しています。今回の言葉もそうで、リーダーの心得について語ったものです。
「勝とうとするあまり、敗れることを忘れてはいけない」
と言っています。スポーツでも逆転負けやロスタイムに点が入ってしまうことがよくあります。リーダーはその点をよく心得て事をすすめなくてはならないという戒めですね。
荀子は、さらにリーダーの心得をあげています。
「解任をおそれてポストにしがみついてはいけない」
「内部での威信を高めることばかりに腐心して、肝心の外部への対応をおろそかにしてはいけない」
どれも含蓄のある指摘ですね。誰かの顔が浮かんでは来ませんか?
小恵を私して大体を傷(やぶ)るなかれ
中国、明の時代の洪自誠による『菜根譚』にある言葉です。小さな私恩を売ることばかりに一生懸命になって、全体の利益を犠牲にしてはいけない、という意味です。こうしたことは、政治家や経営者にもよくあることですね。
少し前のことで言えば、加計学園の問題などは、まさにそうではないかと思います。自分の近しい人や組織を優遇してばかりいて、国の大きな利益を考えない政治家がいれば、決して良くありません。
また、レオパレスの施工不良問題における経営者の対応もひどいものでした。どうも自社の利益ばかりを優先して、社会利益に考えが及んでいないように思えます。日本の大企業にこのような経営者がいることは、とても残念です。
政治家のあり方が国のあり方を表すように、経営者のあり方が、会社のあり方を決めます。ぜひ、この『菜根譚』の言葉をかみしめてほしいものです。
傲りは長ずべからず、欲は従(はしいまま)にすべからず
この言葉は、中国周末時代の礼に関する記録書、『礼記(らいき)』にあります。
「傲慢な心は育ててはいけない、そして欲のままに生きてはいけない」
という意味です。近頃の政府や企業、組織のリーダーによる事件や事象をみていると、つくづくそう思います。権力の座につくと傲慢になってしまう輩が多いのは、人間の業なのでしょうか。中国の古典には「傲慢」をいさめる言葉が数多く残っています。権力者が「傲慢」によって失政を繰り返してきた歴史があるからでしょう。
そして、「欲」も多くの問題を引き起こします。「食欲」や「睡眠欲」は生きるために必要。「名誉欲」や「出世欲」は、持ちすぎたら問題。持ったら禍を招くのが「物欲」「金銭欲」「権力欲」。その「金銭欲」と「権力欲」が一緒になると最悪。そこから組織の崩壊が始まります。「傲り」と「欲」にはご注意を。
人材に関する言葉3つ
泰山は土壌を譲らず、故にその大を成す
司馬遷の著した『史記』の中に出てくる言葉です。秦の始皇帝の部下、李斯(りし)が言ったとされています。泰山とは中国山東省にある代表的な名山です。そしてこの言葉の意味は
「泰山はわずかな土くれさえも捨てないからこそ、あれほどの雄大な姿を保っているのだ」
ということです。これだけではよくわかりませんね。これは、秦の重臣が「他国出身の人間は追放してしまえ」という意見を述べた時のことです。
李斯は「他国の出身であれ、積極的に人材を受け入れてこそ、国を強大に出来るのだ」と、泰山をたとえて説きました。この意見を始皇帝は取り入れたわけです。だからこそ、短い期間で中国を統一できたのでしょう。
排外主義では国は栄えないのです。グローバルな現代に通じるところがありますね。トランプ前大統領にも聞かせてあげたい言葉です。
蓬(よもぎ)も麻中に生ずれば、扶(たす)けずして直(なお)し
またまた「荀子」からの言葉です。これは、ふつう土にへばりついて生えている蓬の草でも、麻の中に生えればまっすぐに育つのだ、という意味です。つまり、人間は、環境を選び良い交友関係に恵まれれば、それに感化されて立派な人間に育つということを言っています。
企業でも同じことが言えますね。優れた社員の多い企業で働けば、お互いが刺激をしあって、より成長します。問題は、その企業の経営者が一流かどうかですね。ですから、自らそんな企業を探し出すことも必要です。さらには、優れた人と交われば、おのずと成長します。皆さんはいかがでしょう。
善く問いを待つ者は、鐘を撞(つ)くが如(ごと)し
これも『礼記』にある言葉です。この言葉は、教師と生徒の関係を語ったものですが、上司と部下と読み替えても当てはまります。
「立派な教師は生徒の良い質問を待っていて、生徒にとっては鐘のようなものだ」
という意味です。つまり、生徒が小さく鐘をたたけば小さく鳴り、大きくたたけば大きく鳴るのが良い先生なのだと言っています。そのためには、良い質問が出来る生徒に育てなさいということです。
確かに、仕事でも上司に良い質問をする部下は、成長が速いです。したがって、上司が聞き上手になることも必要でしょう。
勝海舟の『氷川清話』の中に、坂本龍馬が西郷隆盛のことを、小さくたたけば小さく響き、大きくたたけば大きく響く人物だと言っていることが書かれています。とはいえ、なかなかそんな人はいませんね。
いかがでしょうか。中国の古典から、6つの言葉をご紹介しました。
■今日のツボ■
- リーダーは、勝を急いで失敗をすることを忘れてはいけない
- 経営者は私恩ばかりを売らないで、全体の利益を考える
- 指導者は、傲慢ではいけないし、悪い欲を持ってもいけない
- 他国からの人材を受け入れることで、国は栄える
- 人は環境を選び、優れた交友関係を築くことで成長する
- 上司は、良い質問が出来るように部下を育てることが必要
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