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ダメージ加工はアリでも「不良品」は捨てる日本のアパレル業界の矛盾点

日本でも定着している「ダメージ加工」のジーンズですが、同じ場所に同じような傷をつけることで「不良品」扱いにならず大量生産化できているという事実をご存知でしょうか。こうした繊維業界の「杓子定規」な規定に異を唱えるのが、メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは藍染め木綿のシャツを例にあげながら、江戸の人々が工夫して「持続可能」な服として「野良着」を生み出したことにも触れ、「不良品を個性として認める」という発想の転換を提言しています。

たとえば「訳あり藍染めシャツ」という発想の転換

1.「不良」と「ダメージ加工」

スーパーの店頭で、「訳あり野菜」や「訳あり果物」が販売されている。規格に合わない大きさ、形のゆがみ、キズ、変色等はあるが、「味は美味しいですよ」という商品だ。

実は、工業製品にも訳あり商品は存在する。小さなキズや、汚れ、ヤケがあっても、「性能は変わりません」というものだ。しかし、これらは全て「不良」の烙印を押され、消費者が目にすることはない。

「不良」は世の中に存在してはいけない。人間に対して、こんな恐ろしい掟が存在したら問題だが、工業製品では美徳とされている。

一方で、ジーンズではダメージ加工と称して、生地をグラインダー、サンドペーパーなどでキズをつけ、削り取る加工を行っている。本来は、何年もの時間をかけて経年変化が出てくるのだが、それを販売時点で表現しているのだ。

ダメージ加工はある意味で不良品だが、100本のジーンズがあったとしても、全て寸分たがわず、同じ場所に同じ程度のダメージを出しているので、これは加工と認められている。

米国では、「ショットガン・ジーンズ」と称して、ジーンズにショットガンをぶっ放し、小さな穴が開いたジーンズを販売している。これは再現性がないという意味で、日本では認められないだろう。

しかし、均一な「不良」は認めて、均一ではない「不良」は認めないというのは差別ではないのか。そんな見方もできるかもしれない。

2.傷だらけの織物

私は繊維、ファッション業界で40年近く働いている。その経験の中で、最もキズが多い織物が藍染め木綿だった。通常の衣料用の生地は、A反、B反、C反と分かれていて、基本的にC反は売り物にならない。

しかし、私が見た「野川染織工業」の藍染めの生地はD反と言ってもいいものだった。厳しい目で見れば、染めムラと織りキズが1メートルの中にいくつも発見できるほどだ。

しかし、キズが多いのにも理由がある。まず、糸を「カセ染」で染めている。一般の糸染めはコーン染色といって、樹脂製のメッシュの糸巻(コーン)に糸を巻き付け、内側から染液を吹き出し、温度と圧力をかけて大量に染色する。そのため、ムラも出にくい。

カセ染めとは、糸を自転車のチューブのように大きく丸く巻いた状態(カセ)で染色するものだが、化学染料なので、一定の色や濃度が保てる。また、通常の染色では絞るという作業は入らない。

藍染めは、発酵によって濃度も異なる。その日の気温や湿度によっても発酵が変わり、濃度が変わる。毎回、異なる濃度の染液に30回ほど浸けては絞るを繰り返すのだから、ムラが出ないわけがない。

カセで染めた糸をシャトル織機で織る時には、シャトルの中に入れる木管に糸を巻き直す。その糸を継ぐ時に、糸の結び目が生じる。これも厳しい品質管理基準ではキズにカウントされてしまう。

更に、藍染めした糸はコーティングされたような状態になっており、非常に織りにくい。糸同士がくっつけば、木管からスムーズに糸が出てこないので、織りキズが生じる。

こんなに不良品の出やすい工程を維持する必要があるのだろうか。化学染料でコーン染色すれば、染めムラもなくなる。シャトル織機で織ってもキズが出にくいし、レピアやエアジェットで織ることもできる。

しかし、天然発酵建ての藍染め木綿は世の中から消える。それにはあまりにも惜しい。それほどの魅力が藍染めにはあるのだ。

3.サステナブルな野良着

サステナブルとは「持続可能」なこと。本気で持続可能な服を追求するなら、一着の服をボロボロになるまでツギハギして着ることではないだろうか。

これを実践していたのが、江戸時代の野良着である。藍染め木綿のきものは、当時の物価に換算すると10万円程度だったようだ。決して安くはない。

なぜ、藍染め木綿を使ったのか。それは、丈夫であり、虫避けになり、紫外線を防ぎ、けがをした時にも化膿しにくく、皮膚病になりにくかったためである。農民だけに留まらず、あらゆる職業の労働着として藍染め木綿が使われていた。

洗剤のなかった時代、抗菌性は非常に重要な機能だった。麻も絹もウールも天然の抗菌性を持っているが、コットンは持っていない。しかし、藍染めにすることで抗菌性を獲得したのである。そのため、水洗いだけでも、臭いも出にくいのだ。

最初は丈の長いきもの(長着)に仕立てても、やがて、半着になり、何度も仕立て直しを繰り返し、破れた部分にはツギをあてたり、あるいは別の布に替えて、究極のパッチワークのような野良着になっていった。

藍染め木綿の野良着は、昭和まで続いたが、やがて合繊ジャージーに代わっていった。その段階で、全国の藍染め産業は淘汰された。

藍染め木綿は高級な剣道着として生き残ったが、最近は剣道着にも合繊ジャージーが進出してきた。

サステイナブルと言いながら、世の中は安い商品を求め、結果的に化石資源に依存している。合繊の服を合成染料で染色した服を、合成洗剤で洗い、合成香料のタップリ入った合成柔軟剤で仕上げている。

4.キズ、ムラを個性として許容する

そもそも、合繊や合成洗剤が普及した後で決められた品質管理基準を、江戸時代から続く藍染め木綿が守る必要はあるのか。というより、守れるはずがないのだ。

そこで提案。藍染め木綿に関しては、キズやムラを個性として認めてしまうのはどうか。不良を排除しようとせずに、製品にしてしまう。すると、キズだらけ、ムラだらけの「不良」製品が出来上がる。一般の人は、そんな「不良」製品を見たことがないはずである。ここで考えてもらう。なぜ、ムラができるのか。なぜ、織りキズができるのか。

そして、不良ではなく、個性として認めてもらう。このときに、製造工程の動画を見てもらうのも良いかもしれない。

そして、必要に応じて修理を行う。修理用の端切れ、藍染めの糸をつけて、自分で修理を行ってもらうのも良いし、ワークショップのような形で集合して修理してもいい。

ここまで行うことで、江戸時代から続くサステイナブル文化を体感できるのではないか。

■編集後記「締めの都々逸」

不良と呼ばれた 悪ガキだけど 凄い個性と 認めてく

アパレル業界で働いてきた身にとって、「不良品を認める」ことは、凄い発想の転換です。でも、考えてみれば、貴重な材料を使って不良が出たから捨ててしまうというのは、あまりにも勿体ない。そもそも、不良が出るような工程なんですから。

ダメージ加工と称して、わざわざキズをつけるならば、ついてしまったキズを認めることもできるはずです。一点もののダメージ加工の方が面白いじゃないですか。ダメなところを楽しんでしまう。どこか、アフターコロナの生き方にも通じるかもしれません。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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