正しい判断を下す際、その妨げとなるのがバイアス。そんな「考えの偏り」に陥らないためには、常日頃からどのような思考訓練が必要となってくるのでしょうか。今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』では、Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さんが、バイアスに抗うために有効な「知的作法」をレクチャー。必要なのは、「間違っているかもしれない」側への意識的な支援であると論じています。
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「偏って見えてしまう偏り」
毎度お馴染み、人間の思考の偏りについて考えていくコーナーです(今回が初めてです)。某書籍をオマージュすると「偏見の発想法」と呼べるかもしれません。
まずは2つのエピソードから。
カレーが人気
フードコートのカレー屋さんに行きました。ごく普通のカレーを注文し、お店の近くの席でカレーを食べはじめます。
一通り食べ切ったあと、周りを見渡すと右の人も左の人もカレーを食べています。そのとき私はこう思いました。「へぇ~、今カレーブームなのかな」
もちろん違います。カレー屋さんの近くだからカレーを食べている人が多く座っているだけです。すべての席で平均をとれば、カレー食者はそれほど多くないどころか、その3人だけです。ぜんぜん人気はありません。
座る場所によって偏りがあり、その偏りが周りの風景を構成してしまうので、誤った印象を抱いてしまうことがあるわけです。
「倉下」の集中
「倉下」でよくエゴサーチしています。レアな名字なので、名字だけで検索してもだいたい問題ありません。しかし、Twitterをする人が増えてきたおかげで、「倉下」の名を持つアカウントも増えてきました。私のエゴサーチでは、そうした人たちも検索結果に出てきます。
すると、不思議なことに気がつきました。どうやら「倉下」の名を持つアカウントの人たちは、関西に住んでいることが多いのです。そのとき私はこう思いました。「へぇ~、そんな偶然もあるんだな」
もちろん違います。それが偶然だとするには、「名字は日本全国にランダムに割り振られる」という前提が必要です。そんなはずはありません。たいていの名字は地域性があり、しかも集合性があります。たまたま地域を超えて同じ名字がつけられたり、あるいはその名字を持った人が別の地域に移り住み、名字を受け継いでいくようなことはあるでしょうが、基本的にはある集中した集団に対して名字は与えられます。ランダムに割り振られるものではないのです。
だから、関西に集中していても何もおかしくありません。むしろ、47の倉下家庭があり、それが各都道府県に一家庭ずつ散らばっていたほうが、はるかに「偶然」度が高いといえるでしょう。
しかし、「似通ったpropertyを持つ人たちがその意図なく近しい地域に住んでいる」という現象だけを見て、私はそこに「たまたま性」があると勘違いしてしまいました。言い換えれば、もともとの分布を誤って想定していたのです。
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視点を上げてみる
私たちは、こういうバイアスを日常的に発生させています。目に入る一部だけをみて、それを全体のモデルだと捉えてしまったり(かき混ぜていないみそ汁の味見をするようなものです)、もともとの分布を無視して、目の前の出来事が稀な出来事だと判断してしまうのです。
では、そのようなバイアスに抗うにはどうすればいいでしょうか。
一つは、即断しないことです。バイアスは印象なのですが、印象をそのまま決断につなげるのではなく「決断準備中」のものとして捉えることです。そのような空白期間を設けない限り、バイアスの影響をもろに受けることになります。
また、そうして設けた空白期間において、俯瞰の視点を上げてみることも大切です。自分の目に入る部分を意識的に広げてみる、あるいはその分布を遡って考えてみる。そのような知的作法が有効です。
この際に注意すべきなのは、「自分の結論を正当化することを主題にしない」という点です。人間の脳は極めて有能なので、結論を正当化しようと思えばいくらでもできてしまいます。正しくても、間違っていても、正しいように「仕立て上げる」ことができるのです。
そして、すでに最初の印象で「これは正しい」という感覚が立ち上がっています。「正しい」側にはそれ以上の支援は必要ありません。必要なのは、「間違っているかもしれない」側に、意識的な支援をしてあげることです。
そうした支援を惜しみなく行えば、印象がバイアスから解放されることはないものの(脳を改造しない限りは無理でしょう)、「何をどう考え、どんな決断を下すのか」については、バイアスの影響を緩和できます。理性にできる最大限の反抗です。
がんばって、抗っていきましょう。
Be a rebel.(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』より一部抜粋)
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