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笑った上に勉強にもなる。落語「時そば」に学ぶ商売の基本とお金の知恵

落語ファンの誰もが知る演目といえば、「時そば」と「片棒」。しかしこの名作を「ビジネス視点」を持って聞いてみると、全く新しい発見があるようです。そんなユニークな読み解きを試みているのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』で今回、上記2つの噺の内容を紹介しつつ、そこから得られるビジネスヒントを記しています。

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ビジネス視点で「落語」を聞くと見えてくるもの

1.時そばと商売

時そばという落語があります。登場人物は、二人の男と二軒の屋台のそば屋の親父。

最初の男は、お世辞を使いながら、油断させて、一文かすめるという遊びをします。

細かいのしかねぇんだ。悪いけど、手出してくんな。いいかい、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、今何時だい、へぇ、九つで。九つか、十、十一、十二、十三、十四、十五、十六だ。

と言って、スーと帰る。これを見ていた男が真似をするけど、上手くいかないという噺です。

その会話の中で、最初のそば屋の様子が分かります。

屋号は当たり屋、丼が良い、割り箸、蕎麦は細い、鰹節の出汁がきいている。竹輪が本物で厚く切ってある。しかも、すぐに蕎麦が出てくる。仕事も早いんですな。

景気はどうだい、と聞くと、いやあ、不景気で困りますと答える。美味しい蕎麦を出しているのに、売上が悪いようです。

次に出てくるそば屋の屋号は外れ屋。食べ物が当たってはいけないので、外れ屋にしました、なんて言うんですね。

景気はどうだい、と聞くと、お得意様に恵まれて上手くいっています、と答える。

ところが、丼はキズだらけ、箸は使い回し、蕎麦は太く、つゆは塩辛い。蕎麦がなかなか出てこない。火を落としたんで、これから湯を沸かします、とのこと。

当時のそばの値段は十六文と決まっていますから、どちらのそば屋も同じ価格なのに、美味しい方が儲かっていない。まずい方が儲かっている。これは不思議な話ですね。

当たり屋は良い仕事をしています。良い器に美味い蕎麦を出す。職人気質にも見えますが、もしかすると素人なのかもしれません。そば屋に憧れて、趣味で蕎麦を打っている。現代にもそういう人は少なくありません。

ですから、妥協せずに、良い器、割り箸、良い鰹節で出汁を取ったりしています。素人でポーッとしているから、一文損したのも気づかない。

そう考えてみると、当たり屋という屋号も陳腐です。ひねりも何もない。逆に博打打ちを引きつけているのかもしれません。

一方の外れ屋という屋号は洒落が効いてます。記憶に残る屋号です。もしかすると、やくざ者が来ないように、そんな縁起の悪い名前にしているのかもしれません。

丼がキズだらけということは、長年商売をしているということですね。だから、お得意様に恵まれて、と答えています。

もうひとつ大事なポイントがあります。それは時刻です。当たり屋さんが店を出していたのは、夜中の12時です。町木戸は締められ、木戸番の夜警が回る時刻です。真っ当な人はいません。当たり屋さんは、素人か新参者のそば屋なので、早い時刻には店が出せなかったのでしょう。

外れ屋さんに客が来たのは四つの前、午後9時半頃でしょう。町木戸が閉まる時刻が10時ですからですから、火を落として店じまいしていたところに、第二の男が来ました。

外れ屋さんは、この客を怪しいと思ったに違いありません。この時刻に来るのは固定客にはならない一見の客です。固定客が多い外れ屋さんにとって、どうでもいい客です。

これは私の想像ですが、蕎麦は全て売り切れで、たまたま残っていた渇ききった切り落としを出したのではないでしょうか。出汁もなくなっていたので、生の醤油を湯で溶いて出した。

そんなこんなで、今、何時だい、と聞かれて、四つと答えた、というわけです。

そう考えると、当たり屋は生真面目で素人っぽい性格、外れ屋は悪い客を撃退できる人の裏をかくような性格です。それぞれをどのように演じ分けるのかも面白いですね。

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2.落語「片棒」に見る経済効果

片棒という落語に登場するのは、赤螺屋吝兵衛というケチで有名な大店の主人と金太郎、銀次郎、鉄三郎の三人の息子です。

吝兵衛が三人の息子に、自分が死んだら、どんな葬式を出すのかと聞くところから噺は始まります。

金太郎は、付き合いが多いので通夜を二晩やると言い出します。会場は増上寺、本願寺クラス。本漆塗り三段重の豪華なお土産を用意して丹後縮緬の風呂敷でくるみ、お車代もつける。

銀次郎は、破天荒で歴史に残る色っぽい弔いを出したいようです。紅白の幕を張り、行列の先頭は鳶の頭の木遣り、次が芸者衆の手古舞、続いて山車が出ます。山車の上には吝兵衛のからくり人形。その次にお骨を仕込んだ御輿を出す。

鉄三郎は、吝兵衛に似たケチな性格。通夜ではお茶やお菓子も出さず、翌日の本葬も時間を偽って参列者が来る前に出棺させれば、何も出さなくてすむ。棺桶も勿体ないから菜漬けの樽を転用。担ぐのも人足を頼むと金がかかるから、鉄三郎が担ぐ。もう片方をどうしようと言うと、吝兵衛が片棒は俺が担ぐ、と落とす、という噺。

事業継承を昔から難しいようですが、この三人の内、誰が後継者にふさわしいのでしょうか。

赤螺屋の身代を考えれば、鉄三郎が良いのかもしれませんが、社会的に考えると最低です。金を回さずに、ため込むだけ。経済効果がありません。

金太郎と銀次郎の葬式は、準備が大変です。生前から準備しない限り実現しません。

金太郎の計画の大きな寺を押さえるのも大変だし、器や料理を揃えるのも大変です。江戸中の職人を総動員しなければ無理でしょうね。

この二人には人脈があります。だてに金を使っているのではない。それでも何千人もの人を動員するのも大変です。器量がないとできないことです。

銀次郎は、祭りを仕切れる人であり、これまで祭りに金をばら蒔いてきたに違いありません。鳶の頭、芸者衆、囃子連中を揃えるのも大変なこと。山車や御輿を誂えるとなると、これは何年もかかります。

二人のプロジェクトは、ピラミッドのように生前から準備しなければできません。しかし、これが実現すれば、日本中で評判になります。仮に、全財産を使ったとしてもこれだけのことができれば、仕事には不自由しませんし、投資してくれる人も出てくるに違いありません。

散財というのは案外クリエイティブなことです。この落語をシリコンバレーのベンチャー成金に聞かせたいですね。どうせ使うなら、金太郎、銀次郎のように使いなさい。そうすれば、職人に仕事が回り、世の中の景気が良くなります。

ということで、私は長男の金太郎に跡を継がせるのが良いかなと思います。銀次郎も財産を分けて暖簾分けで独立させたいところですね。鉄三郎には財産は渡さず、冷たく家から追い出し、裸一貫からスタートさせるのが良いでしょう。そうすれば、兄弟三人がそれぞれ成長していくかもしれません。

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編集後記「締めの都々逸」

「江戸の噺をしっかり聞いて 今の時代に落としたい」

落語の噺というのは良くできてます。落ちばかりでなく、細部まで練りに練られています。ですから、下手に時代を置き換えたりすると、分からなくなります。

でも、江戸の暮らしの基礎知識や常識が身についてないと理解不能なことも多いんですね。最も典型的なのが廓噺でしょう。そもそも廓という概念、吉原という概念が理解できない。だから、廓噺を聞く前に3時間ほど、講義が必要になります。これを落語の中でやると時間がなくなる。ネットでやるのも一つの方法でしょう。

古典落語を聞かせるために、ネットで落語に必要な基礎教養講座をやるのもいいかもしれません。

考えてみれば、能も狂言、人形浄瑠璃や歌舞伎も同じですね。理解するための講座が必要です。

これも新事業になるかもしれませんね。(坂口昌章)

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image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

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