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これが日本の現実。ワクチン「1日100万回」の裏で見捨てられる人たち

関係者の懸命な努力で達成された「ワクチン接種1日100万回」という目標値ですが、その裏でないがしろにされている存在も多数あるようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、ワクチン難民の窮状を訴える新聞投書を紹介。さらに厚労省による「高齢者切り捨て政策」の例を挙げ、弱者を淘汰するかのような日本の現状を強く批判しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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ワクチン接種100万回と、カウントされない人たち

「1日100万回!」の掛け声の元、急速に進められたワクチン接種が、想定を上回っているとし、自治体などに接種スピードを調整してもらうことがわかりました。

思い起こせば春先には「ワクチンないない、全く来ない!」という悲鳴が日本中の自治体から上がっていたのに、あれよあれよという間に、「7月中に高齢者は終わらせろ!」だの、「自衛隊を動員して大規模接種だ!」だの、「やれ職域だ!」「それ大学だ!」と、“接種率爆増計画”が進められました。

もっとも、この積極的姿勢は悪い事ではありません。しかし、自治体関係者から、「7月中に終わらせろ!」と官僚から“圧”をかけという声があがったり、「自治体ワクチン接種率ランキング」なるものを報じているメディアには、違和感をいだかざるをえませんでした。

そんな中、朝日新聞の朝刊に在宅介護者が置き去りにされているという読者の投稿が掲載されていたので、紹介したいと思います(29日朝刊)。

「寝たきりの父 遠い高齢者接種」と題された投稿は、50代後半の女性からのものです。女性は要介護5の父親を在宅介護。重症化リスクが高いのでいち早くワクチンを打ちたいのだが、寝たきりの状態のためワクチン接種会場に出向くことができません。

そこで自治体に問い合わせたところ、「町が実施するのは集団接種のみで訪問接種の予定はない」と返された。また、かかりつけ医院の接種は実施するが、「今はとにかく接種率をあげることが先決」と言われたとも記されていました。

国もメディアも毎日摂取率は報道するけど、ワクチンを打ちたくても打てない人には全く注目しない。町は接種率を上げるために地域商品券を接種した人に配り、3,000万超の税金を注ぎ込んでいる。それをメディアは“良いニュース”として報じている、と。

「弱者がないがしろにされている」「父も納税者だ。そして、1人の人間だ」という静かな怒りが書かれていました。

実は、私のもとにもSNSで「在宅介護の母がワクチン難民になっている」という声が寄せられています。訪問診療の医師がワクチン接種するにはさまざまな制約からほぼ不可能に近い。「全体を見ればマイノリティかもしれませんが、大量接種でこんなに成果を上げた!というだけの弱者切り捨てのような報道はどうなんだろうか?と思ってしまいます」(男性からのメッセージ)

繰り返しますが、ワクチンの接種率を上げる試みそのものには問題はありません。しかし、いわずもがな日本は超高齢社会です。

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コロナ感染拡大が深刻化した1年前から、介護施設などへのサポートは決して満足いくものではなかった。意思疎通が難しいの高齢者のワクチン接種の意思確認も現場まかせで(抗議の声が上がってから変更)何から何まで「ひとつよろしく!」政策を続けてきました。

密を避けることができない介護士や、訪問介護士さんに優先的にワクチン摂取を進めなかったことも問題だし、「行くことができない」「自分で予約することができない」高齢者への対応は後手後手でした。

しかも、接種券の文字が小さい!あんな小さな文字をいったい誰が「見える」というのでしょうか。

高齢者切り捨ては、それだけではありません。

コロナ禍で、介護現場の窮状が連日伝えられていた昨年、6月1日。厚労省は「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取り扱いについて(第12報)」を都道府県に出した。これは平たく言えば、「介護施設にずっと通いたければ、アンタたち利用者が、施設が潰れないようにお金を負担しなさいよ!」という通達でした。

「3時間しか通所サービスを利用していないのに、5時間の利用料を払わなければならない」

「利用者は事業所の大変さを理解して利用時間を減らしているのにさらに負担増まで強いられるのか」

などなど、「利用者の同意」を前提としながらも、利用者に「使ってもないサービスを使ったことにする」制度に、現場では戸惑いと怒りが広がったのです。

新型コロナ感染拡大による介護事業の減収分を安易に利用者に負担させ、「ひとつよろしく!」と、現場=事業所に責任を丸投げしたのです。

繰り返しますが、日本は超高齢社会です。年をとれば、見えない、聞こえない、歩けないなど、「何かの、誰かのサポート」なしには生活するのは極めて難しい。「自立」は無理です。

共助、公助なくして生活できないのに、「え?無理?だったら仕方がないよね~」という社会が、今の日本社会です。

ワクチン接種1日100万回は多いに結構。ですが、人口構成が変わるということは、スタンダードを変えなきゃいけないのです。この国のスタンダードは、果たして超高齢社会になっているでしょうか。バリバリ元気で動ける人のまま…なのではないでしょうか。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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