「炎のマエストロ」の異名を取り、80歳を超えてなお指揮台に立ちオーケストラを率い続ける小林研一郎氏。世界的指揮者と称される小林氏ですが、その支えとなっているのは強烈なまでのプロ意識でした。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、そんな小林氏自身が語った「指揮者としての信条」が紹介されています。
指揮者は楽譜を見てはいけない 小林研一郎
僕はいろいろなオーケストラで指揮をしていますが、一人ひとりの顔をじっと見ていなくては指揮ができないんです。指揮者の中にはメンバーを見なくても指揮ができるという人がいるかもしれませんが、僕にはできません。
となると、楽譜を見ることができないわけですから、全楽器の楽譜を全部覚えなきゃいけない。
先日もある地方の交響楽団の演奏会があったのですが、地方ですから何となくほのぼのとした空気が漂っている。そういう雰囲気を覆すためにも、僕は事前にメンバーのネームリストをいただき、楽譜をすべて覚えた上で練習に臨むんです。
演奏の途中、僕は指揮を止めることがあります。しかし、そこで一人ひとりを注意することはしません。そういうことをするとその人が受けるショックが周りにも伝わって、決していい演奏にはならないからです。ただ、止める時には全員がハッとするような、炎になれるような、そんな言葉を発しなくてはいけません。
そして、その時、指揮者は決して楽譜を見ちゃいけないんです。
楽譜をめくる僅か0.1秒という時間が彼らの意識を大きく後退させてしまうことがある。団員の顔を見ながら
「すみません。では594小節からお願いできませんか」
これって効くんですね。
そのようなニュアンスで僕はこの年齢になっても「失敗しても皆が許してくれるだろう」という甘えを一切はねのけて、まさに太平洋の真っ只中に一人でボートを漕ぎ出しているわけです。後戻りもできない、前に進むこともできない。そこにはただ死が待っている。そういう世界で生きているわけです。
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