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元朝日新聞の校閲センター長が考える「本当に上手い文章」の定義

巷でよく聞かれる、「もっと上手い文章を書けるようになりたい」という声。しかしそこで肝心となる文章の上手下手は、どのような基準で判断されるべきなのでしょうか。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では著者で朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田さんが、文章のプロとしてその判断基準を提示。自身が考える「文章の超絶技巧」を紹介しています。

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誰でも書けるが、誰もが書けない

文章は誰でも書けます。まったく何も書けない、ということはまずありません。それなのに、「文章が書ける」という人は極めて少ないのです。

これがピアノなら「弾けません」「バイエルまでは習いました」などと答えるでしょうし、野球なら「やったことがない」「キャッチボール程度ならできる」「中学・高校の部活で、サードで4番を打っていました」という答えもあるでしょう。バレエなら「できるわけないじゃないですか」という答えも多いでしょうね。

ピアノや野球やバレエなどは、その技術に触れているかどうか、つまり経験に依るところが大きいので、できる・できないの答えは比較的、明確に示されます。

ピアノや野球やバレエは、その技術を高める先にあるものは「プロ」かもしれません。プロになることで得られる名声などはあるかもしれませんが、表現方法・パフォーマンスも含めて、技術を追い求めることが中心になります。技術がない人は、決してプロにはなれないのですから。そして、その技術の差は圧倒的で、直線的に見たり聞いたりする者に伝えることができます。

違いが見えづらい文章の技術

文章は、誰でも書けます。しかし、技術的な差が見えにくく、比較することが難しい。ピアノには楽譜があります。バレエも台本があります。それを元に演奏し、踊ります。同じ演目で奏者や演者の技術的違いを比較することができます。

野球も一つとして同じシチュエーションはないものの、ホームランを打つ、三振を取るといった技術を数字で表すことができます。

文章は論文試験などのように、同じテーマで書くことはありますが、そこで文章技術を競っているわけではなく、内容や視点が勝負になるのです。ある程度の技術は必要だとしても、そこで何を伝えたいのか、が求められるのです。

文章を書くということは、何かをするための手段としての役割が大きいのです。企画書を書く場合なら、多少文章が下手でも、その内容が卓越していれば、それは企画として認められます。文章によって切り開かれる「未来」が求められるのです。文章はそれ自体が、作家や記者にとっての主食にはなるけれど、一般的には、何かをするための、副菜としての役割が大きいのです。

だから、すらすら読めるわかりやすい文章が「いい文章だ」とほめられることは、まずないのです。結局、文章は書いた内容が求められるのです。しかし、すらすら読める文章が書けるというのは、高い技術がなくてはできません。

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スーッとわかる文章は、上手いのか

新聞記事は、淀みなく読めて内容がスーッと頭に入ってくるように書かれています。アレッと思い、読み返さなくてはならない記事は、失格です。しかし、事件・事故の記事を読んで「上手いなあ」と思うことはないでしょう。

新聞のコラムはもちろん内容や視点が重要で、読み手の期待もそこにあります。しかしそのベースは、淀みなく読めて内容がスーッとわかりやすく書けることなのです。コラムは、それが身に備わった「上手い」記者が担当しているのです。

ちょっと嫌味な言い方をすると、わかりやすい文章が「上手い」と評価できるのは、文章が上手く書ける人なのです。一般的に、文章の良し悪しをわかりやすいかどうかという評価軸で、考えることはありません。

ピアノやバレエ、野球などに「わかりやすい」という評価は存在しません。「基本に忠実」という言い方はあるものの、やはり「超絶技巧」という誰にも真似できない圧倒的な技術のうえに、表現という評価が加わるのです。

基本こそが超絶技巧

文章においては「わかりやすい文章」こそが、超絶技巧であると僕は考えています。一般的には、わかりやすさが高度な技術だとは理解されません。それは基本のことだと思っているので、評価軸に載せることがないのです。

誰もが文章を書くことができます。文章が書けるからといって、必ずしも基本をマスターしていることにはなりません。しかし、文章が上手くなりたいと思う人は、そこに注目せず、修辞とか比喩とかを使いこなせるようになりたいと思うのです。

上手く書くには主語と述語を明確にしましょう、と言っても「そんな基本中の基本をいまさら教えてもらわなくていい」「それで文章が上手くなるわけではないではないか」という反応が少なからずあるのです。基本に立ち返るのに、わざわざお金を払う必要もないですものね。

ところが僕たちのほとんどは、わかりやすく文章を書く基本すら、学んでこなかったのです。そして、その基本こそが文章の超絶技巧なのです。そこに気づくかどうか。

文章は誰でも書けるが、誰もが書けない。

とは、そういうことなのです。

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image by: Shutterstock.com

前田安正この著者の記事一覧

未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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