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パナ早期退職の募集に1000人殺到。優秀人材の大量離職は「誤算」か必然か

今年7月、家電大手パナソニックが早期退職者を募集した結果、1000人超の応募があったと報じられました。中には優秀な人材からも手が挙がったと明かしたパナですが、この事態は予測できなかった「誤算」だったのでしょうか? 「謝罪のプロ」として知られ、さらに「危機管理のプロ」としてコンプライアンス研修の講師も務める増沢隆太さんは、まぐまぐのコンテンツプラットフォーム「mine」内で、実際に再就職支援プログラムに関わったことのある立場から、今回の「パナ大量退職応募」騒動を論じています。

1千人早期退職募集のパナ、優秀人材応募は誤算だったのか?

パナソニックは今年7月に早期退職者募集を実施したところ、1千人を超える応募があったと発表しました。同社の楠見社長は「活躍して欲しい人からも応募があった」と複雑な思いを表しました。パナソニックにとって優秀人材の早期退職は誤算だったのでしょうか? 再就職支援プログラムに実際に関わった立場でにらみます。

リストラは進む

アベノミクスの効果が下々の者まで及んでいるのかどうか、企業は業績に関係なくリストラを進めています。かつて企業のリストラといえば経営危機、倒産の恐れからくる鬼気迫ったものが普通でしたが、いまバンバン行われているリストラは少し違います。

パナソニックについても、全社連結業績で、売上高前年同期比28.8%増の1兆7924億円、営業利益は前年同期から大きく改善して1044億円(1000億円を突破したのは、リーマンショック直前の2008年度第1四半期以来、13年ぶり)過去最高益のバブル真っ盛り1985年度並の水準といわれます。

経営は絶好調なのでしょう。ではなぜリストラなのでしょうか。

同社の早期退職制度「特別キャリアデザインプログラム」は期間限定ですが割増退職金が加算され、その上限額は4000万円だそうです。破格といえる待遇です。

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リストラの実態

同社の「特別キャリアデザイン」の内容を正確に知っている訳ではありませんが、多くの企業で導入されている再就職支援。私の会社も2000年代に金融業界クライアント中心に、リストラプログラム導入に関与しました。

当時多くのリストラは「割増退職金か再就職支援か」の択一で、自ら進路を選び、まだ退職金を割増しで払える今の内に辞めておいた方が得、という説得が主でした。現状のまま多くは業績改善もない場合、割増しどころか、倒産すれば退職金も支払えなくなるかも知れないのであれば、早期退職は会社にも社員にもメリットはあった訳です。

残念ながら割増し退職金無し、再就職支援すら無しという中小企業も少なくありません。大企業でも倒産が見えてくる状況であれば同じでした。退職金すら払えないということもあります。

難破船から逃げるネズミ

難破する船から真っ先に逃げるのは人ではなくネズミと言われます。リストラを行うと、元来リストラで排除したいとされる社員より、将来を嘱望される人から応募があるのも常なのです。

なぜでしょう。

ネズミが野生の勘なのかどうかわかりませんが、目端の利く人は自社の経営状況についても油断せず日頃から客観的に理解しているのだと思います。逆に早期退職ではなく、会社からの退職勧奨でリストラ宣告されるようなタイプの人は、そもそも自社の社内政治などには詳しくとも、業績や業界状況などほとんど無頓着な場合が多いのです。まして新卒で自社一筋しか職場を知らないため、そもそも転職ということ自体、具体的に考えたり行動したことが無いという例が圧倒的です。

将来を期待される社員はプロパーであっても常時自社と他社、業界や景気など外にも目を配り、くだらない社内政治などではなく常に自分の勝負が外だということをわかっているので、結果として人材バリューの高い、「他社でも売れる人材」となることが多いのです。

パナ社長の誤算???

そうした優秀な社員から早期退職応募があったと嘆くパナ社長は誤算だったのでしょうか?

私は、すべてお見通し、想定の範囲内だったと見ています。天下のパナソニックで社長にまでなる方が、そんなことを想像していなかったとすれば、同社は直ちに潰れるのではないかと思います。

そうではなく、せっかく自ら退職という政策に賛同してくれた人に、いかにトラブルなくスムーズに退出していただくかと考えた時、「辞める人は無能では無く、貴重な人材」というメッセージを送ることは、優れた経営者なら必然な態度だと感じます。

真相を知っている訳ではありません。ただリストラ計画というものは人間心理を考え抜いて作られます。本当の意味で事業・組織の再構築を図るパナソニックは、少なくとも企業としてはさすがにやるな、という印象を持ちました。

(この記事は、増沢隆太さんの「mine」内の無料公開分です。「もしあなたがリストラの勧奨を受けたらどうすべきか」について書かれた続きをお読みになりたい方は、¥100(税込)でご購入の上お楽しみください)

 

image by : JHVEPhoto / Shutterstock.com

増沢隆太

増沢隆太

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「謝罪のプロ」として著名人記者会見のたびにテレビ、ラジオ、新聞でコメントしまくるコミュニケーションのプロ。ロンドン大学大学院では戦争研究を行い、帰国後外資系企業数社でブランドマーケティングを担当した。その後、人事コンサル会社勤務を最後に独立し、人事・経営コンサルタントとして活躍。現在は講演、企業研修、大学生向け講座などで全国を回るほか、東京工業大学の特任教授も務めた。

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