先日掲載の「プーチンに狙われている『親日国』を救え。いま日本が“できること”は」でもお伝えしたとおり、いつウクライナに侵攻してもおかしくないと言われるロシア軍ですが、ここに来てにわかにその動きが加速しているようです。軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』では今回、共著者である静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授の西恭之さんが、ロシアによるサイバー攻撃の激化を伝える米大手紙の記事を紹介。さらにプーチン政権がアメリカに送った、「およそ交渉の土台にならない」という安全保障の合意案の内容等も鑑み、ロシアによるウクライナ侵攻の兆候が高まっていると分析しています。
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※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年12月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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増加するロシアのウクライナ侵攻の兆候
ロシアがウクライナに侵攻する兆候が増えている。
12月21日付ニューヨークタイムズは、侵攻の準備と考えられるサイバー攻撃について報じている。ウクライナ国境付近へのロシア軍の本格的な展開が注目を集める一方で、この1か月は警察をはじめウクライナの政府機関と電力網に対するロシアのサイバー攻撃が激化しており、米国と英国は、全面的なサイバー攻撃に備えて専門家をウクライナへ派遣したという。
米情報機関は、ウクライナのゼレンスキー大統領が無能で無防備だという印象を与えて親露政権への交代を促し、場合によっては武力侵攻の口実を作ることが、ロシア側の目的だとみているという。
サイバーセキュリティ起業家のドミトリー・アルペロヴィチ氏(モスクワ出身の米国人)によると、ロシアのプーチン大統領は、このサイバー攻撃を侵攻前の「戦場準備」として行っているという。戦場情報準備(IPB)という米軍用語は、「特定地域の脅威と環境を分析する系統的・継続的なプロセス」と定義されている。
なお、ニューヨークタイムズの記事の筆者の一人は、『サイバー完全兵器』(朝日新聞出版)の著者のデビッド・サンガー記者だが、記事はウクライナに対する現在の「サイバー攻撃」が、IPBに相当する情報収集目的の不正アクセスなのか、それとも狭義のサイバー攻撃である破壊工作なのか明記していない。
記事によると、米国はウクライナのサイバーセキュリティへの支援を拡大することを検討しているが、「パッチ(修正)が必要なプログラムが多すぎる」ので、米サイバー軍の専門家を追加して派遣しても間に合わないという。ウクライナの電力網など重要インフラは、旧ソ連時代にロシアと一体的に構築されたものが多く、ロシア製のハードウェアとソフトウェアで更新されているので、ロシア側が細かく把握している。
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ロシア外務省は12月15日、「ロシア連邦と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の相互の安全を保障する措置に関する合意(案)」を米国側に手交したが、交渉の土台となる内容ではない。武力行使を正当化するため、拒否されることを前提に出されたおそれが強い。
ロシア側の合意案は、東欧のNATO加盟国やウクライナの主権を制限するだけにとどまらない。第5条には、ロシアも加盟国も「地上発射型の中距離・短距離ミサイルを、相手の領土に届く地域に配備しない」とあるが、ロシア自身が履行するとは考えられない内容だ。
仮にNATOが受け入れた場合、ロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイルは、バルト海沿岸の飛び地のカリーニングラード州にも、バルト三国、ノルウェー、トルコから500キロ以内のロシア領土にも配備できなくなる。また、ロシアは米トランプ政権が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を破棄すると警告したにもかかわらず、9M729巡航ミサイル(NATO呼称SSC-8)を地上に配備し、米国は破棄を実行したが、その9M729も、今回の合意案によればヨーロッパロシアに配備できなくなる。
さらに、ロシアの宣伝は、ショイグ国防相が12月21日、「米国の民間軍事会社がドンバス(ウクライナ南東部)で化学兵器を用いた挑発行為を準備している」と主張するなど、ウクライナに侵攻した場合に口実としうるものが増えている。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
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