MAG2 NEWS MENU

貴乃花光司「死ぬことの方がずっと楽だった」苦悩に満ちた言葉から得た未来

現役時代から圧倒的な強さを誇っていた元横綱・貴乃花こと貴乃花光司氏。戦う男の代表ともいえる彼の人生についてメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』著者でニューヨークの邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんが、独占インタビューしました。誰よりも“濃い”人生を歩んできた男が抱えた苦悩、そしてこれから突き進もうとする未来とは?

マンハッタンの最前線からニューヨークの今がわかるメルマガ詳細はコチラ

 

“感謝”の心こそが最強の武器・貴乃花光司

一昨年夏、元貴乃花親方、貴乃花光司さんにインタビューした。マンハッタンのニューヨーク大学で中高生向けの特別講演「稽古と心」で来米された時のことだ。

貴乃花さんは僕の1歳年上。僕たちの世代の戦う男の代表はICHIRO選手と貴乃花関の2トップ。もちろん現役時代の取り組みも進行形で見てきた特別な存在。

日本中が次の取り組みに注目したあの経験があるからこそ、今、子供達に伝えたい何かが貴乃花さんにはあった。

「15(歳)で入門して、30年間やり切って、部屋も持って、後進を育成して…、あと自分に何が残されているかと考えた時、優しい言い方をすれば、もう天国に行ってもいいんじゃないかなって気持ちにもなったんです。もうやり残したことはないなって。その時に、自分が生い立ってきたモノを今度は子供たちに伝えようと。それしかないと思ったんですね。血縁とか身内だけじゃなく、お子さんたちに返す。自分がもらってきた幸せを返して、その親御さんたちに喜んでもらう。これからは、ご縁のある方々にことごとくお返ししていくスタンスで生きようと思っています」

スルっと飲み込んでしまい、その場ではこの話は流れてしまったが、翌日、シャワーを浴びている際に、その時感じた違和感を思い出した。

「自分に優しい言い方をすると」。親方は確かにそう言った。どうして、そのような表現をしたのだろうか。

自分に優しい言い方をすると、人生を終わらせてもよかった。でも…、と。

貴乃花さんにしてみれば死ぬことの方がずっと楽だったのではないか、と。15から戦って、戦って、戦ってきた。取り組みで闘い、世間と闘い、人生と闘ってきた。親方ほど、戦ってきた人生を送った男を僕は知らない。

そんな闘いだらけの人生に身を置いた男にしてみれば、死ぬことよりも生きることの方がずっとハードなことだった。

10代から国民的ヒーローになり、挫折と栄光を交互に繰り返した平成の大横綱。父とも、叔父とも、兄とも比べられ、対戦相手とも比べられた。何をしても話題になり、誰よりも憧れられ、誰よりも叩かれた男の半生は、同世代の男の中ではおそらく日本一、濃い。

彼にとっては、自分の戦ってきた人生よりも、死ぬ方が楽だったのではないか。

彼自身が、それを自覚しているかどうかはわからないけれど、無意識下でもそう思っているから出てきた表現なのではないか。そのくらい闘いの半生だった。

マンハッタンの最前線からニューヨークの今がわかるメルマガ詳細はコチラ

 

そして、そんな男が戦って、戦って、戦い切った後に、残っていたものが、他者に対しての恩返しだった。相撲で培ったことを通じて人材育成することが、残された人生の責務だった。そう言った貴乃花さんの目はとても穏やかで、これ以上ないほどやさしい男の目をしていた。

その上で、彼は取材後半、丁寧にやさしく語りかけるように、次のことを語ってくれた。

「生い立ちに感謝して、環境に感謝して、その上で社会に揉まれて、反骨心が芽生えて、それでも腐らず、自分の信じた道を言歩く」それが最も大切なことなのだ、と。

夢を実現する為の努力に必要なファクターは何だろう。人を見返してやりたい気持ち、人に対してマウンティングを取りたい気持ち、意地、根性、反骨心。それらだけが重要な要素になると信じていた。でも、親方は「人に対しての感謝の心こそが最大のモチベーションになる」と教えてくれた。

確かに、意地やプライドや執念だけでは瞬間風速になりかねない。一時的にパワーを発揮できても、そう長続きしないことは、経験上、みんなわかっている。それに、ある程度まで行けたら、すぐに納得しがちになるし、途中で挫折しても割と簡単に諦めがつきそうだ。

感謝の心であれば、自分の納得だけでは済まされない。簡単に諦めるわけにはいかない。誰かに対しての感謝があるからこそ、戦える。

自分の弱さや怠惰な心を棚に上げて戦える。親に対しての感謝でもいい。友人や社員、恋人や家族への感謝、社会や環境に対しての感謝だった構わない。感謝の心が弱い自分を挫折しそうな自分を支えてくれる。

それに比べれば、プライドや意地なんかは大した力にはなれない。その教えは、そう考えたこともない僕には、あまりに新鮮で、衝撃だった。

もう一度言う。 「生い立ちに感謝して、環境に感謝して、その上で社会に揉まれて、反骨心が芽生えて、それでも腐らず、自分の信じた道を言歩く」

結局、1,000の自己啓発本も、世の中のあらゆる成功法則も、この言葉にすべて集約されているんじゃないかとすら思う。

電子手帳を使わないアナログな僕の、手帳1ページ目に、そのまま書き写している。

取材後の帰り道、歩いていると、横を徐行する車の助手席のウインドウがスーッと下がった。ハニかんだ笑顔の貴乃花さんが手を振ってくれた。

誰より人生を戦い切ってきた男。そんな男の、笑顔の、破壊力。そっりゃモテるわと、つぶやいた。

マンハッタンの最前線からニューヨークの今がわかるメルマガ詳細はコチラ

 

image by: Shutterstock.com

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明 』

【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け