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極めて巧妙。橋下徹氏と「ヒトラー」の演説を比較して判った“共通点”

立憲民主党の菅直人元首相が橋下徹氏について、その弁舌の巧みさがヒトラーを想起させるとしたツイートが喧々諤々の議論を呼んでいます。ヒトラーを持ち出す是非は議論の余地があることは否めませんが、果たして両者に類似点はあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、橋下氏とヒトラーの演説を比較しその共通点を提示。さらに菅氏の発言に執拗に抗議し続ける日本維新の会に対して、「抱かざるを得ない疑問」を記しています。

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検証!橋下徹氏とヒトラーの演説は類似しているのか

菅直人元首相が橋下徹氏の名前をあげ「弁舌の巧みさではヒットラーを思い起こす」と1月21日にTwitter投稿した件で、日本維新の会が執拗に抗議している。

菅氏は「次の総選挙は東京に進出を図る維新との戦いだ」として「維新と戦う有志の会」なるグループをつくろうとしていることを、前々日にTwitterで明らかにしており、その文脈で橋下氏の弁舌に言及したらしい。

これに維新が「人として到底許されるものではない」とかみついたのだ。たしかに、菅氏は軽率である。「維新と戦う有志の会」をつくるなどと、手の内を明かすのも、どうかしている。ヒトラーを持ち出して挑発しているかのようだ。

ただし、橋下氏の弁舌に関しては、ヒトラーとの類似性が全くないとはいえない気がする。

2012年12月の衆議院議員総選挙における橋下氏のある応援演説が書き起こしメディア「ログミー」に掲載されている。試しに、これをヒトラーの首相就任演説と比べてみよう。

まずはヒトラー演説のこの部分。

「私は、我が民族の復活がおのずから達成されると約束するつもりはない。我々が行動するのである。自由や幸福や生活が突然空から降ってくると思ってはならない。全ては我々自身の意志と行動にかかっているのである。我が国家、我が民族以外からの助けを頼んではならない!」

幸福は空から降ってこない。民族の復活は、自分たちの行動にかかっていると説く。

次に、橋下徹氏が社会保障について語ったこのくだり。

「社会保障を立て直そうと思えば、国民のみなさんに嫌なことを言うしかない。負担をお願いする。給付水準を下げさせてもらう。それしかないんです。金は天から降って来ない。国をよくしようと思ったら、政治家なんかに任せちゃダメなんです。国民が頑張る番なんです」

金は天から降って来ない。国民が負担するしかない、と言う。

なるほど、もっともらしい御託宣である。このあと、両演説とも終盤に向けてさらにヒートアップしてゆく。

ヒトラー 「我々自身がドイツ民族を、その固有の勤勉性、不屈、頑強さによって繁栄させるのだ。それでこそ、我々は祖先と同じ高みへと再び登りつめることができよう」

橋下氏 「世界でこんな優秀な国民はいませんよ、こんな勤勉な国民はいません。こんな真面目な国民はいない。こんな道徳心豊かな国民はいない。にも関わらず、世界でなんでこんなに無視をされる国になったのか」

ドイツ民族の優秀さを発揮すれば、かつての栄光をとり戻せると力説するヒトラー。日本人ほど素晴らしい国民はいないのに実力が発揮されていないと、奮起を促す橋下氏。両者とも国民感情に激しく訴える。

そして、演説の最後は、お決まりの「呼びかけ」なのだが、彼らは決して自分たちに支援を求めるような言い方はしない。

ヒトラー 「ドイツ国民よ、我々に4年の歳月を与えよ。しかるのちに我々を判断せよ!私は誓おう。この職に就いた時と同じようにこれからも私は進むという事を」

橋下氏 「大阪のみならず、日本全体をもう一度、一から作っていきましょう。必ずできます。世界一の日本を作りましょう」

なんと力強い締めくくりだろうか。国民が主体だとしながらも、そのリーダーは自分しかいないと言わんばかりに、自信をみなぎらせている。

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両演説の共通点をまとめると、次のようになると思う。

国を再生するために頑張るべきはあなた自身だ。優秀な民族なのだから必ずできる。ともに栄光への道を進もう。

この構成で「敵」を仕立て上げれば、その敵が誰であれ、憎悪をかきたてる効果があるだろう。

もちろん、ここに取り上げたのは長い演説のごく一部である。もとより筆者は、橋下氏の発言内容を否定したいわけではない。「既得権を持っている人、団体を一回リセットし、若手のベンチャー企業に幅広く機会を提供する」など、共感できることも数多い。良し悪しは別とし、あくまで、橋下氏とヒトラー演説の巧妙さについて書いているのである。

菅直人氏が以上のように演説の比較、分析をしたかどうかはわからない。おそらくは、速射砲のごとく言葉を繰り出して相手を圧倒し、聴衆を引きつける橋下氏のイメージによるものだろう。問題のTwitter投稿を確認しておこう。


橋下氏をはじめ弁舌は極めて歯切れが良く、直接話を聞くと非常に魅力的。しかし「維新」という政党が新自由主義的政党なのか、それとも福祉国家的政党なのか、基本的政治スタンスは曖昧。主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす。

ヒトラーを思い起こすのが橋下氏の弁舌だけなのか、維新の誰かを含むのかが紛らわしい。そのため維新に立憲攻撃の材料とする余地を与えてしまった。

菅氏に最初にかみついたのは維新代表、松井一郎大阪市長だった。1月22日のTwitter投稿。


元総理であり現在も立憲の最高顧問の菅さん、貴方何を言ってるか?解ってるんですか!民間人と我々をヒットラー呼ばわりとは、誹謗中傷を超えて侮辱ですよね。立憲は敵と思えばなんでもありという事ですか?正式に抗議致します。

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これだけにしておけば、騒ぎにはならなかったのだが、なんと馬場伸幸共同代表が立憲民主党の泉健太代表に抗議したものだから、国会詰めの記者たちも無視できなくなった。

泉代表にすれば、菅氏個人のツイートに党が関与する必要はなく、投稿撤回と謝罪の要求に応じる筋合いもない。

そこで、馬場氏は2月1日、国会内の菅氏の事務所を訪れ、抗議文を手渡した。

ところが、ここで馬場氏は維新と橋下氏は「全く関係がありません」と断言してしまった。それならなぜ、橋下氏と維新に関するTwitter投稿に対し、維新というれっきとした政党が抗議行動を起こすのか、理解できない。

しかも、菅氏に向かって馬場氏はこう言った。「菅さんのツイッターの文章を読み解くと、われわれがアホなのか知りませんが、橋下氏と維新に対しての侮辱発言であるとわれわれが解釈をしているということです」と答えた。

橋下氏と維新に対しての侮辱発言だから、代表して維新が抗議しているということなのだ。なぜ無関係な個人の代弁までしなくてはならないのか。

党に所属しておらず、顧問弁護士でもないが、創設メンバーとして今でもつながりは深いというのが正確なところではないだろうか。

そもそも、橋下氏を維新と完全に切り離して見ている人は、あまりいないだろう。菅氏の文章もそのために紛らわしい書き方になったとみるべきだ。

法的には無関係だが、絆は強い。しかし、一体であるとは見なされたくない。そんな微妙な関係にあるのが維新と橋下氏だろう。なのに、なぜ維新がわざわざ橋下氏と一体だと誤解されやすい行動をとるのか、さっぱりわからない。

おりしも、MBSテレビで1月1日に放送された特番『東野&吉田のほっとけない人』に橋下氏と松井大阪市長、吉村大阪府知事がそろって出演したことに対し、局の内外から「報道の政治的公平性を欠く」との声が上がっている。MBSの社内調査もスタートしたばかりだ。

もはやさしたる影響力もない菅氏のTwitter投稿に過剰反応したばかりに、かえって橋下氏の活発なテレビ出演に対する批判を強めてしまったように思えてしかたがない。

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image by: 大阪維新の会 - Home | Facebook

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