到底容認できない一方的な論理でウクライナ侵攻を開始するものの、ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ側の徹底抗戦や、西側諸国からの予想を超える厳しい経済制裁を受けることとなったロシアのプーチン大統領。この状況が中台関係に微妙な変化をもたらしているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、ウクライナ軍の善戦と国際社会の結束が中国指導部の「台湾併合プラン」に影響を与え始めたする分析を紹介。さらにウクライナ危機は台湾独立の道を開く可能性をはじめ、世界を大きく変える契機になるとの予測を記しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2022年3月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
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【中国】ウクライナ危機が台湾独立と習近平退場をもたらす
● プーチン氏が始めた戦争、習主席に台湾攻撃思いとどまらせる教訓も
ウクライナ情勢はますます緊迫の度合いを高めていますが、ロシアの侵略開始から約2週間経過しても首都キエフが陥落せず、ウクライナ軍の善戦が伝えられていることが、中国の台湾統一戦略に大きな影響を与えているという分析が出てくるようになりました。
3月8日付のブルームバーグによれば、ロシアの軍事力はウクライナを圧倒していますが、戦力的優位さだけでは迅速な勝利につながらないことを示しており、また、国際社会が結束してロシアへの制裁を強めていることなどともあわせて、そうした現実が中国指導部の台湾への武力侵攻を躊躇させる要因となると同時に、台湾人に勇気を与えていると分析しています。
日本語版ブルームバーグは英文記事を一部抜粋したかたちで報じていますが、台湾の自由時報はもっと詳しく、記事内容を紹介しています。
それによれば、中国では「環球時報」の前編集長・胡錫進氏らのように、「中国が台湾に進行すればあっという間に決着がつく」という主張がまかり通っていますが、それがあまりに楽観的な見方すぎることがウクライナで証明されたとしています。
加えて、ウクライナと違うのは、台湾有事の際にアメリカが軍事介入するオプションを排除していないことであり、もしも中国が台湾侵略をする場合には、アジア地域のアメリカ軍基地を破壊するかどうかを判断しなくてはならず、それは即時に米中戦争を引き起こすことになるという点で、ロシアのウクライナ侵攻以上にハードルは高いだろうと分析しています。
一方で、ロシアの10倍以上の経済規模の中国に対して、アメリカが経済制裁をどの程度断行できるかという、西側諸国の有識者の懸念も紹介しています。中国はロシアとは比べ物にならないほど世界のサプライチェーンに組み込まれており、もしも中国が国際社会からロシア同様の制裁を課されても、半導体チップの世界的供給元である台湾を統一することのメリットのほうが大きく、損失を簡単に吸収できると中国指導部は考えている可能性もある、としています。
もっとも、国際的サプライチェーンについては、新型コロナで生産を中国に頼っていたマスクなどが不足した教訓から、各国とも中国依存度を減らそうとしてきました。ウクライナ問題ではヨーロッパのエネルギーをロシアに頼ってきたことの脆弱性が改めて認識されることとなりましたから、経済安全保障の観点からも中国依存度の減少に加速がかかると思われます。
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一方、ウクライナの次には中国が台湾を侵略するのではないかという国際的懸念に対し、中国は、「ウクライナは独立国、台湾は『中国の一部』であるから、状況は全く違う」と反論しています。つまり、ロシア軍のウクライナ侵攻は国と国との戦争だが、台湾への武力侵攻は戦争ではなく、国内の治安維持だというロジックです。
ただし、もしも中国が台湾に侵攻すれば、台湾政府は独立を宣言するでしょうし、それを西側諸国が承認すれば、やはり国対国の戦争ということになります。今回のロシア侵攻も、ウクライナの一部の州の独立をロシアが承認し、その新国家と「友好協力相互支援協定」を結び、求めに応じて平和維持軍を派遣したという形にしています。
台湾有事でも、台湾が独立を宣言することで、台湾は正式な「国家」となります。しかも現実として、台湾は長年、独自の選挙を行い独自の経済や政治システムを維持・発展させてきました。ロシアの後ろ盾で「形だけ」独立を宣言したウクライナのドネツク州やルハンスク州に比べて、よほど台湾のほうが民族自決を実現しており、「国家」としての要件を満たしていることは明らかです。
ここに、ウクライナ問題に対して中国が、完全にロシア側に立ちづらい背景があります。ドネツクやルハンスクを独立させた手法を認めてしまえば、台湾に独立の正当性を与えてしまいかねないからです。
中国では3月5日から全国人民代表大会が開催されていますが、李克強首相による政府活動報告で「台湾統一」への決意を重ねて表明し、さらに国防費を前年比7.1%増に拡大させることを発表しました。経済成長率の目標が前年の8.1%から5.5%に大きく落ち込む一方、国防費は前年の伸び率6.8%を上回ったことで、経済が低迷したとしても、軍事的覇権主義を加速させようという意図は明らかです。
今年秋の共産党大会で習近平は最高指導者として3期目選出を目指しています。これまでのメルマガでも述べてきたように、その3期目を終える5年後までに、次の4期目を狙って台湾統一を加速させるのではないかという観測が、西側諸国の軍事専門家の間でも広がっています。これは逆にいえば、この5年以内に、台湾が独立を宣言する可能性も高まっているということです。
それを牽制するかのように、全人代では台湾に対する外部干渉に反対しました。同時に、アメリカに対しては太平洋版のNATOを構築しないようにも要求しています。今回のウクライナ問題が、中国包囲網構築を加速させるかもしれないという危機意識の表れでもあります。
● 中国、成長目標「5.5%前後」 全人代開幕「外部勢力の台湾干渉に反対」
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先のブルームバーグの記事では、「プーチンのように、政治を支配している年配のリーダーほど、外部から不合理と思われるリスクを厭わない可能性がある」とも述べています。プーチンが国内外の反発を無視して強硬姿勢を貫いていることについて、精神的な病気が疑われるという説も出ています。
プーチンは現在69歳、習近平は68歳とほぼ同年代です。権力に固執し独裁体制を強める年配のリーダーが不合理なリスクを追い求める危険性は、中国においても否定できないでしょう。
欧米のロシア制裁で、もしもプーチンが失脚するようなことがあれば、中国でも習近平の長年にわたる独裁体制に対する懸念が高まっていくはずです。
中国共産党は1981年の歴史決議「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」で毛沢東の「晩年の過ち」を認めました。しかし、毛沢東主義を推し進める習近平は、現在、この「晩年の過ち」論を打ち消そうとしており、2017年秋の国家教育重大改革では、教科書で文化大革命を肯定的に再評価する記述に改めることが決定され、実際に文化大革命についてこれまで「毛沢東の錯誤だった」という表現から「毛沢東の艱難辛苦の探索」という文言に変更されました。
「終身独裁体制であっても過ちは起きない」とすることで自身の終身独裁化を狙っているわけですが、ここでプーチンが「晩年の錯誤」を犯したことになれば、毛沢東の「晩年の錯誤」が再びクローズアップされ、そして習近平独裁体制への疑問に繋がりかねないでしょう(日本でも豊臣秀吉晩年の朝鮮出兵を晩年の錯誤と見る向きもあります)。
中国は伝統的に古い時代にならう尚古主義であり、「標新立異」つまり他とは異なることを示すために新しい命題を掲げることはタブーとされてきました。新と異は絶対的な禁忌だったのです。そのため、いくら新中国を打ち立てても、旧来の皇帝制度のような独裁制へと立ち戻ってしまうわけです。そしてその結末として、農民の反乱が各地で頻発、内戦へと突入して易姓革命が起こるということを繰り返してきました。先祖返りした習近平王朝がプーチン王朝と同時に、没落していく可能性も少なくありません。
今回のウクライナ危機は、中国の台湾侵略のみならず、台湾独立にも道を開く可能性があると同時に、旧時代の独裁体制から新たな統治体制への転換をも促す可能性を秘めており、さまざまな点で世界を大きく変える契機になると思われます。
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