文在寅前大統領が政権を担っていた5年の間に、国交回復以来最悪の状況となってしまった日韓関係。その大きな要因として、韓国サイドによる日韓基本条約及び慰安婦問題日韓合意の反故が挙げられますが、この先我が国は彼らにどのような姿勢で臨むべきなのでしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、米国の権威ある政治雑誌に掲載された日韓問題に関する論文を紹介しつつ、韓国の新政権と対応する際に岸田首相に求められる「気概」について考察しています。
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日韓問題を論ずる米国有名雑誌
韓国、ユン大統領が就任しました。
岸田総理とユン大統領は最悪の日韓関係といわれる状況を改善できるでしょうか。
『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』という雑誌に日韓関係の記事が掲載されています。「日韓の乖離をどう修正するか」というKristi Govella氏、Bonnie Glaser氏の論文です。
ちなみに『フォーリン・アフェアーズ』は、米国の外交・国際政治専門の隔月発行政治雑誌です。各国元首クラスや閣僚、学者や財界人など多数が寄稿している大変に権威のある雑誌です。
2018年に日韓関係は著しく悪化した。
この年、韓国の文在寅大統領は、日本の戦時性奴隷制の被害者を支援するために2015年に設立された財団を閉鎖した。
また韓国の最高裁は日本企業に対し、戦時中に強制労働をさせられた韓国人原告への補償を命じた。日本政府側は、文大統領の決定に抗議し、1965年の日韓国交正常化条約と矛盾するとして判決を拒否した。
すぐに貿易紛争が起こった。2019年、日本は韓国企業が半導体の生産に使用する3種類の化学物質の輸出を制限し、その後、韓国を機密物資の貿易に関する信頼できる国のホワイトリストから削除した。
日本はこれらの動きを発表した際、安全保障上の懸念を理由にしたが、韓国はこの決定が経済報復にあたると主張した。それ以来、関係は冷え込んだままであり、二国間の協力関係は限られ、定期的に外交問題が勃発している。
解説
日本側からみた問題は2つです。従軍慰安婦についての協定を韓国側が廃棄したこと。および1965年の日韓国交正常化条約で片が付いたはずの韓国人労働者への賠償請求が韓国裁判所で認められた事です。どちらも約束が反故にされているのです。
論文はさらにその従軍慰安婦の協定について詳しく記しています。
2015年、日本の安倍晋三首相(当時)と韓国の朴槿恵大統領(当時)は、第二次世界大戦中に日本軍によって性的奴隷にされた韓国人女性である慰安婦の忌まわしい遺産を「最終的かつ不可逆的に」解決するための協定を結んだ。
この合意では、日本は被害者支援財団に10億円を拠出したが、文政権はその後、2018年に閉鎖した。しかし、この協定は両政府が発表した時点から不評で、2017年に朴大統領が汚職容疑で弾劾された後に破談になった。
日本の指導者たちはこのような経験を繰り返したくないと考えており、韓国の指導者たちが政治的利益のために過去を掘り起こすことがあまりにも多いという、いわゆる韓国疲労の影響をいまだに感じている人たちもいる。
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解説
日韓で従軍慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に」解決するために結んだ協定が破棄された事は、日本では当たり前の知識ですが、実際この問題を詳しく解説した海外新聞の記事は日本人が期待するほど多くありません。
以前にも紹介しましたが、ニューヨークタイムズなどはいまだに従軍慰安婦について以下のように書いていたりします。
歴史家によれば、1930年代から終戦までの間、日本はアジアと太平洋地域の軍が運営するレイプセンターに、推定20万人の女性を強制的に、あるいは誘い込んだという。
歴史家によれば、日本は1930年代から終戦まで、推定20万人の女性を強制的に、あるいは誘い込んで、アジアと太平洋地域の軍が運営するレイプセンターに入れた。これは、国家が支援した性奴隷の歴史上、最大の例の一つである。
(2021年10月21日記事)
解説
この記事、従軍慰安婦への日韓合意の事は何も記されていません。もちろん、その協定を韓国が一方的に破棄したことなど、書かれているはずもありません。今でもこのような記事がニューヨークタイムズのような世界的新聞に掲載されているのです。
その意味で、このフォーリン・アフェアーズのような権威ある雑誌が書いてくれたという事は非常に大きな事です。
逆に言えば、日本は自らの立場の海外広報について全く劣っているともいえます。さらにフォーリン・アフェアーズは今回のバイデン大統領の関わりについても記しています。
バイデン氏は、この問題に対して無縁ではない。副大統領として2013年に自ら介入して、二国間関係の修復を目的とした2015年の安倍・朴会談の土台作りに着手しているのである。
解説
2015年従軍慰安婦の合意については、バイデン氏自身が副大統領としてかかわっています。立ち合い人のようなものです。そして岸田総理も当時、安倍政権下の外務大臣でした。
つまりこの合意については岸田総理もバイデン大統領も当事者だったのです。その意味で日本側は有利な状況にあります。岸田氏は当事者としてユン大統領に「話が違う」という事ができますし、韓国はバイデン大統領の手前、それを否定することはできない状況なのです。
つまり従軍慰安婦問題については、日本はあえて話を大きくして問題化してもよいのです。それを例にして韓国の「協定」「約束」に対する意識が間違っていると批判してよいのです。
遠からず岸田総理とユン大統領の直接会談が行われるでしょう。「私は交渉の当事者だったので言えるのですが…」と岸田総理は会談の後の記者会見で語ることはできるでしょう。
こういったカード、むやみに切っていいものではないです。しかし、その気になれば切れるという気概ももって岸田総理は日韓関係の再構築に踏み込んでほしいものです。(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』5月22日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
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過去に配信されたバックナンバーのご紹介と、まぐまぐスタッフがオススメポイントをいくつかご紹介いたします。バックナンバーは月単位で購入できます。
▼2022年4月
・ウクライナ比較:台湾有事(4/24)
・世界で人気の日本のリアリティショー番組(4/17)
・中国の発展途上国への借款支配(4/10)
・ウクライナ難民に対する日本政府の無責任発言(4/3)
ウクライナ侵略が現実のものとなってしまった今、もはやいつ勃発しても不思議ではないと言われる台湾有事が論じられた4/24号では、元米軍司令官の冷静な分析や中国人大学教授の不敵な発言等を引きながら、日本における当問題の真剣な議論の必要性を訴えた大澤先生。4/3号では、「日本もウクライナ難民受け入れに合意した」とするニューヨーク・タイムズの記事を引きつつ、受け入れ不能な難民支援を約束した岸田政権の姿勢を批判しています。
▼2022年3月
・ウクライナ戦争の出口、新しい世界秩序(3/27)
・岸田総理インド訪問にみる海外報道との乖離(3/20)
・日韓関係の転機となるか、韓国新大統領(3/13)
・ウクライナ戦争の行方、カギを握るトルコ(3/6)
ウクライナ紛争後の「新しい世界秩序」はどの国が作ることになるのか?日本の安全保障にも大きく関わってくる、そんなテーマが扱われた3/27号。プーチン大統領に対して大きな発言権を持つ国家指導者の実名を上げ、戦争の出口と今後の展開を大澤先生が論じています。3/13号では大接戦の末誕生した韓国の新大統領が、国交正常化以来最悪となっている日韓関係をどのような方向に導くのかを考察。その上で岸田総理の手腕への期待を記しています。
▼2022年2月
・プーチン大統領の目的は何か(2/27)
・スパイ防止法 中国と日本(2/20)
・武器輸出を増大させる韓国(レッテルの怖さ)(2/13)
・ウクライナ危機の本質、ブタペスト覚書(2/6)
2/22号のテーマは、主要国の中で日本だけが未制定かつ現実を見据えた議論すらなされない「スパイ防止法」。我が国においてはいくらスパイを逮捕しても無駄となる現実や、スパイ容疑で拘束した邦人を獄中死させている中国が、日本国内で常識を超えた情報収集活動を行なっている事実を紹介しています。2/6号では、ウクライナ危機の本質をニューヨークタイムズの記事を引きながら詳細に解説。さらに危機に至った歴史的経緯を伝えない報道機関を批判的に記しています。
▼2022年1月
・自作自演の罠にはまったプーチン(1/30)
・日本に入る中国の電気自動車(1/23)
・カンボジアのインターネットゲートウエイ法(1/16)
・中国からのメッセージ(1/9)
・如何にして海外報道に疑問をもったか?(1/2)
このままでは近い将来、日本の電気自動車市場を中国が席巻するこ
▼2021年12月
・原子力潜水艦を渇望する韓国(12/26)
・「中国式民主主義」に対する各国報道(12/19)
・ビッグデータの覇権を狙う中国(12/12)
・中国政府とオリンピックを揺るがすテニス選手の行方不明(12
日本はおろか米国をもはるかにしのぐ、中国の「ビッグデータ収集
▼2021年11月
・軍事的な結びつきが強まる日本とベトナム(11/28)
・中国政府を揺るがすテニス選手の性的暴行告発・消息不明(11
・「日本は信頼できない」韓国大統領候補(11/14)
・日本の戦略を高く評価するシンガポール新聞(11/7)
11/28号では、日本とベトナムの安全保障協力を詳しく解説。
11/7号では「最近、日本は目立たないながらも主導的な役割を
▼2021年10月
・世界EV電気自動車バッテリー覇権戦争(10/31)
・今もNYタイムズで追悼される従軍慰安婦(10/24)
・海外からの日本への投資、北朝鮮に次ぐ最下位(10/17)
・日本が核武装を決断する日(10/10)
・中国の情報操作に対抗するシンガポール(10/3)
▼2021年9月
・オーカス(AUKUS)の各国反応(9/26)
・米国の国境に殺到するハイチ人の悲劇(9/19)
・鳩山由紀夫氏に問う(9/12)
・中国で日本テーマパークが閉鎖(9/5)
▼2021年8月
・韓国 従軍慰安婦記念式典(8/29)
・アフガンに入り込む中国の戦略(8/22)
・仮想通貨 恐ろしい騙しの手口(8/15)
・暗号通貨の未来~シンガポールの取り組み~(8/8)
・忍び寄るインフレ、バイデンフレーションの恐怖(8/1)
▼2021年7月
・オリンピック開会式、NYタイムズ厳しい報道(7/25)
・グーグルが国有化される日(7/18)
・無観客オリンピックの報道(7/11)
・タイトル42が廃止される時(7/4)
▼2021年6月
・海外のオリンピック報道は?(6/27)
・テキサス州がトランプの壁を独自建設へ(6/20)
・今、香港に報道の自由はあるか?(6/13)
・中国の台湾侵攻に関する広報・情報戦(6/6)
▼2021年5月
・カマラ・ハリス副大統領の沈黙(5/30)
・海外は従軍慰安婦問題をどう報道しているのか?(5/23)
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