トルコの仲介により実現したものの、3月29日を最後に中断したままとなっているロシアとウクライナの停戦交渉。しかしその際に話し合われていた合意案が、世界を救う鍵となりうるようです。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、ウクライナに和平をもたらしうる唯一の解決策として米国の有力外交専門誌が取り上げた「イスタンブール合意」の内容を、同誌の記事を引く形で紹介。さらにこの案の実現性についても考察・解説しています。
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ウクライナの出口、イスタンブール合意案
ウクライナ戦争が混迷化しています。
ロシア軍はキーフ周辺からは撤退したものの、東部の要衝地域を固めつつあります。ウクライナのゼレンスキー大統領は意気軒高なものの兵士に疲れが見られます。
そんな中、米国の権威ある外交専門誌、「フォーリンアフェアーズ」がウクライナ和平の出口の可能性として3月29日にトルコで話合われたイスタンブール合意案(コミュニケ)に注目しています。
その時は、ロシア側の交渉責任者が「もっと強硬な姿勢で交渉に臨むべきだ」とロシア国内で激しく非難されたこともあり、この案にそった和平条約の締結は難しいと思われていました。
しかし、このイスタンブール案が唯一、ウクライナに和平をもたらしうる解決策になるのではないかというのです。
なぜならロシアの強固派の反発にもかかわらずプーチン自身は前向きだったからです。
「メディンスキー氏(交渉責任者)は、イスタンブール案を非常に高く評価した。プーチンに相談もせず、そのような評価をする可能性は極めて低いと思われる。そして、プーチン自身、4月末のグテーレス国連事務総長との会談で、この案を“真のブレークスルー”と呼んでいるのだ」(「フォーリンアフェアーズ」6月1日)
それでは、そのイスタンブール合意案とはどのようなものなのでしょうか?それは、ウクライナを永世中立国にするという案です。
3月29日のイスタンブールでの会談後、報道陣にリークされたこの提案は、少なくとも双方から予備的な支持を得ている。ウクライナはNATO加盟の野心を捨て、永世中立を受け入れる代わりに、西側諸国とロシアの双方から安全保障を受けるというものである。
保証人は、中国、フランス、ロシア、英国、米国の国連安保理常任理事国すべてと、カナダ、ドイツ、イスラエル、イタリア、ポーランド、トルコの5カ国とされる。これらの保証国は、ウクライナが攻撃された場合、同国からの公式要請を受けて緊急協議を行い、必要に応じて武力行使を含む支援を行うとしている。
このイスタンブール案では、ロシアはウクライナの安全保障に関わる利害関係者となる。ウクライナはいかなる軍事連合にも参加せず、自国領土に外国軍の基地や軍隊を持たない。ウクライナでの多国間軍事演習は、すべての保証国の同意がある場合にのみ可能である。
解説
ウクライナを永世中立国に?というと突飛もない事と思われるかもしれませんが、前例があります。
それはベルギーです。1831年と1839年に締結されたベルギーの独立と永世中立を保証する条約です。それが機能したのです。
ベルギーは北海に面し、ドイツ、フランス、オランダに挟まれた地理的条件から、ローマ時代から1,000回以上の戦いが繰り返されてきた。1830年、ベルギー人がオランダに反抗すると、オーストリア、プロイセン、イギリス、フランス、ロシアの欧州連合は、ベルギー独立のための交渉を開始した。
最終的には、ベルギーをオランダから分離し、独立した永世中立国であり、他のすべての国に対してその中立を守る義務を負う、という広範な条約に合意した。この条約の条項は、署名した5つの大国の保証の下に置かれたものであった。ベルギーは、中立と安全保障を交換し、75年間の平和を手に入れたのである。
解説
そもそも今回の戦争もウクライナが核放棄の代わりに安全保障をもとめたブタベスト合意をロシアが破棄し、それに対して米国や英国が断固とした姿勢をとらなかったことから発しています。ですから、イスタンブール案が具現化して条約締結しても、廃棄される可能性はあります。
ベルギーの永世中立の立場も1914年にドイツの条約破棄により終止符を打ちました。しかしながら、すくなくとも75年間の平和は得られたのです。
ウクライナはベルギーと同様、その地理的条件から、今や欧州大陸全体の平和と安定の中心であるとみなされています。また、ベルギー条約と同様に、イスタンブール案は被保証国(ウクライナ)と保証国(ロシア+米国、NATO)の双方に利益をもたします。
エスカレートするのか停戦合意に至るのか?
ニューヨークタイムズ紙によれば、ウクライナは米国製ジャベリン対戦車ミサイル、チェコの大砲、トルコのバイラクター無人機など、NATOと相互運用可能な兵器を受け取っています。そしてバイデン大統領は400億ドルの軍事支援策に署名したばかりです。
また米国はロシアの将官を殺すのに使われた情報を提供しているそうです。ロシアの黒海ミサイル巡洋艦モスクワを撃沈したときの情報提供もです。
米国、NATO諸国はロシアと直接対決するつもりはない、と明言していますが、上記のような支援を行う中で、代理戦争と直接戦争の境目はあいまいになってきています。
ヘンリー・キッシンジャー元米国国務長官は先週、「簡単に乗り越えられないような動揺と緊張を引き起こす前に、今後2ヶ月のうちに交渉を始める必要がある」と警告しています。
その交渉のたたき台として今、考えられる唯一のものはイスタンブール合意案(コミュニケ)だというのが、「フォーリンアフェアーズ」の主張なのです。(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』6月5日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
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