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欧米の30分の1。日本の企業が渋る従業員への投資、金をかけず社畜だけが生み出されていくシステム

人への投資だけでは改善しないこれからの仕事

日経が「『人への投資』ソニーなど100社超連携 相互に兼業も」と報じています。世界と比べ日本企業は従業員への投資が極端に少ないとされる中で日本の大企業が連携してリスキリングを目指すというもので評価できる動きだと思います。

ただ、これをやっても目に見える改善が起きることもないだろうというのが私の予想です。

まず、日本がどれぐらい従業員にお金をかけないか、という点はGDP比率の従業員への投資額(OJTを除く)が厚労省から出ているのですが、日本はこれがざっと0.1%。これに対して欧米は2-3%水準なのでざっくり2-30倍の差があることになります。

なぜ日本企業は従業員に金をかけないのか、といえば私が感じるのは社員へのそもそもの期待度がとても内向きで事なかれ主義的な業務体型になっているのだろうという気がするのです。

社員は会社が定めたルールや規範の枠組みから絶対にはみ出ることはなく、言われたことを言われたとおりにやるというスタンスはずっと昔から変わっていません。社員に個性を出されても困るのです。

社畜という嫌な表現がありますが、フリーラン(自由に駆け回って育てる方法)ではなく、養鶏場で運動もさせず「しっかり産めばそれでいい」という発想です。

派遣社員制度はそもそも解雇が出来ない日本に於ける自由度の高い雇用形態として取り入れられました。批判が多いこの雇用方法を止める方法はあります。それは企業に解雇を認めることでしょう。そうすれば企業は派遣社員より一般採用を増やすはずです。

しかし、それが当面望めないとすれば派遣社員には枠組みの決まったルーチン業務だけを延々とやってもらうことになります。

会社の方針について社員から意見を聞くといったことは一般的ではありません。定常業務の枠組みからはみ出ることはありません。しかし、その仕事、楽しいですか?そんな訳、ないと思います。

会社経営に於いて経営をよりよくするには持てる資産の有効活用が問われますが、数多くいる社員を資産と捉えておらず、その機会も限定的です。

また様々なアイディアを出してもその上司が「そんな突拍子もないことを…」といって握りつぶすかもしれません。

今回、日経が報じているのは日本を代表するような大手企業が100社単位で人を中心とした交流をすることでリスキリングを磨くというものです。

リスキリングとは社員の能力開発のことでこれは世界で急速に広まっていますが、日本ではなぜかDX(デジタルトランスフォーメーション)に偏っているような気がします。

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いままで自分の会社を出たことがない人にとっては刺激的であろうと思いますが、私がそこまで期待をしていない理由は結局掛け声をするトップ層とコマのように動かされる社員の温度差が生まれるとみているからです。つまりやらされ感です。

一昔前は出向といえば社員にとって永遠のお別れのような感じでした。今の時代は出向は増えており、若い人から年配まで、また永久の出向というより数年間の出向も増えています。

ただ、コロナ禍で雇用確保と人件費の調整的理由でも大きく増えた出向者をも踏まえれば出向命令を受けた社員はやる気をなくすだろうなと思います。

またご本人も「会社の自分への評価はこんなものだから」と割り切り感も出るでしょう。もちろん、出向先での大活躍で本社に大栄転というケースもありますが、それはごく一部の例外です。

今回の報道も人への投資という立派なお題目は重要ではありますが、スキル(技術)習得という点が主体であり、「Youはなぜ仕事をするのか」という忠誠心や仕事への姿勢とは別世界です。

日本人は会社への忠誠心が主要国に比して格段に低く、かといって転職も起業もするわけではない「なんとなくサラリーマン」という方が多いという統計もあります。仕事が生活のため、というフラット感がそうさせるのだと思います。一生懸命やっても普通にやっても手を抜いても給与は大差ないのです。

今週号の日経ビジネスの特集は「異端児に託す経営」。まさに今日のブログのためのような話ですが、冒頭のリードに「変化を起こそうとする異端児の芽を摘み取り、『出る杭社員』を叩きのめし、あえて凡人の集団にしてきたのではないか」と提起しています。

異端児の特集は日経ビジネスでも過去何度かやっていますが、結局わたしの達観するところは会社ではそのようなシーンに於いて「異端児と傍観者」でしかなく、他の社員は美辞麗句を並べながら結局、冷たい視線を送るのです。

ならば傍観者であるその他の社員を惹起する方法を考えないといけない、これが私の思うところであり、仕事が楽しい、発見がある、異業種との出会い、学んだスキルを使いこなすなどを末端からトップまでが共有し、「前向き部署」を作るといった外科治療が私には必要だと思います。

以前提言したように例えば新入社員は全員子会社、関連会社からスタートし、頑張った者が親会社に行けるというステップも必要なのではないかと思います。

何事も改革は一歩目から、ですが、いっぺんに全部は変えられないのなら頑張る人を重用するといった明白なアメを与えるなどして10年かけて体質変換を図っていくしかなさそうな気がします。

では今日はこのぐらいで。

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プロフィール:岡本裕明

Blue Tree Management 株式会社取締役社長。ゼネコンで不動産事業、秘書を経たのち、1992年からカナダ・バンクーバーの不動産開発事業に従事。2004年にカナダ法人を買収、現在同地にてマリーナ運営、商業、住宅不動産事業、日本の書籍輸入販売などの他、東京でも不動産事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知られている。

記事提供:『外から見る日本、見られる日本人

image by : Shutterstock.com

『外から見る日本、見られる日本人』

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