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Bucharest, Romania - April 05, 2017: Aleksandr Dugin, Russian political analyst, strategist, writer and philosopher, holds a press conference in Bucharest.

「ドゥーギン自身が娘を殺した」説がロシア国内で急上昇したワケ

『プーチンの頭脳』とも呼ばれるアレクサンドル・ドゥーギンの娘が爆殺された事件。すでに容疑者は明らかとなっているようですが、この件について疑問の声もあがっているようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、その意味と、いくつかの犯人説について紹介しています。

ドゥーギンの娘を殺したのは【ドゥーギン自身】説

先日、「プーチンの頭脳」「プーチンのラスプーチン」と呼ばれるアレクサンドル・ドゥーギンの娘が暗殺された話をしました。まだ読んでない方は、まずこちらをご一読ください。

ロシアの自作自演か?プーチンの“メンター”娘が爆殺された裏側

この件、ロシアの諜報FSBは、即座に「ウクライナの犯行」と断定。事件から2日後には、容疑者をあげてきました。ナタリア・ヴォヴクという43歳のウクライナ女性。テロを起こして即座にエストニアに脱出したそうです。

ウクライナ側は、犯行を否定しています。そして、この女性が犯人である件、「おかしいよね」という声があがっています。どういう理由で?

・犯人を見つけるのが早すぎる(FSBは、反体制派が殺されたとき、全然犯人を見つけることができない)
・ナタリア・ヴォヴクは、12歳の娘と常に移動している。車に爆弾を仕掛ける危険な現場に、娘を連れていくか普通?彼女はさらに、ネコとも一緒に移動している。プーチンの頭脳を殺す危険なミッションにネコを連れていくか、普通?

などなど。そこから、「ロシアの自作自演説」がでてきます。もちろん主張しているのは、ウクライナ政府です。朝日新聞DIGITAL8月22日。

事件の背景として、ロシア国民の不安をかき立て、正式な兵の動員を始めやすくするためにロシア側が起こしたとする見立てを紹介した。

これは、何でしょうか?ロシア軍は現在、「兵員不足」に悩まされています。そこで、「動員令」を出したいが、反発が強そうだ。わかります。誰でも、自分自身、自分の夫、自分の父、自分の息子を戦場に送りたくありません。今回のような大義なき侵略戦争であればなおさらです。そこで、「プーチンの頭脳」ドゥーギンを暗殺。「ウクライナ憎し!」の感情を煽り、「動員やむなし」の世論をつくっていく?こういうのがウクライナ側の説です。

もう一つ、「国民共和国軍」(NRA)が犯行声明を出しています。NRA、今まで誰も聞いたことのなかった団体。「プーチン政権を武力で打倒するために、パルチザン活動をしている」そうです。興味がある方は、こちらをごらんください。

Утро Февраля – A National Republican Army is Created in Russia (English Translation)

ドゥーギンが娘を殺させた説!

4つ目の説がでてきました。最初にお断りしておきますが、かなりぶっ飛んだ話で、なかなか信じるのは難しいと思います。この説を語っているのは、「ゲネラルSVR」として知られている人たち。直接話している人は、ビクトル・ミハイロビッチと名のっています。もちろん、本名ではないでしょう。日本でも時々「SVR将軍」と紹介されています。

SVRというのは、ロシア対外情報庁のこと。ここの将校たちが、「政権内部の状況を暴露する」というスタイルで情報発信しています。欧米メディアも諜報も、頭からは信じないですが、「参考」にはしているようです。

さて、「ゲネラルSVR」は、ダリヤ・ドゥーギナ暗殺について、どう解説しているのでしょうか?

【ドゥーギン自身が殺させた】そうです。

なぜ?全部話せば長くなるので、要約します。1か月ほど前、ドゥーギンは、FSBの将校に会いました。FSB内の「ドゥーギン評」はわかれているそうです。「信者」もいれば、「過激思想を持つ危険人物」と見る人もいる。

ドゥーギンは、FSBの将校に、プーチン批判を展開しました。要するに、プーチンのやり方は、緩すぎると。ドゥーギン的には、総動員令を出して、100万人~200万人の軍隊を編成し、ウクライナを制圧したいのでしょう。

ドゥーギンは、「どうすればロシア政府をもっと強硬にするきっかけを作ることができるだろうか?」と常に考えていました。考えながら散歩していると、子猫を見た。それからしばらく歩くと、さっきの子猫とそっくりの子猫が死んでいた。ドゥーギンはその時、悟ったのだそうです。「嗚呼、娘のダリヤを聖なる犠牲としてささげなければならないのだな」と。彼は、そのことをFSBの将校に話しました。FSBの将校もさすがに驚愕し、すぐには信じられなかったそうです。

FSBの将校は、ドゥーギンとの会話を録音していました。そして、その音声を、安全保障会議書記パトルシェフに聞かせたそうです。パトルシェフも強硬派で、「もっとガンガン攻めてウクライナ全土を制圧してしまえ!」という意見の人。「ドゥーギンのアイディアは悪くない」と考えたのでしょう。これにボルトニコフFSB長官もからみ、「ダリヤ・ドゥーギナ暗殺」が決断されたとのことです。

繰り返しになりますが、何のために?ウクライナへの憎悪を煽り、総動員令を出しやすくするため。この辺は、ウクライナが主張する「自作自演説」とかわりません。しかし「ゲネラルSVR」の主張は、「ドゥーギン自身が娘を殺せと提案した」ところが違います。一般的には、「ドゥーギンがターゲットだったが、間違って娘が殺された」ことになっています。この説では、「最初からダリア・ドゥーギナがターゲットだった」ことになります。

ちなみにプーチンは、この陰謀を知らなかったそうです。どうやって知ったかというと、ゲネラルSVRの仲間が、チクったから。プーチンは、激怒しました。激怒した理由は、「ダリヤ・ドゥーギナを殺したから」ではありません。「陰謀によって、自分(プーチン)の意見を誘導しようとしたこと」に激怒した。それで、プーチンとパトルシェフ、ボルトニコフとの関係は悪化しました。

娘を「聖なる犠牲」にしたとされるドゥーギン。現在のところ、彼が望んだとされる結果は得られていません。「望んだ結果」とは、全ロシア国民が「ウクライナ憎し!」となり、「総動員令が出される雰囲気が醸成される」こと。

皆さん、この話どうでしたか?ロシアを勝たせるために娘を犠牲にした?なかなか信じるのは難しいですね。それでも興味深い話なので、シェアさせていただきました。

この「ダリヤ・ドゥーギナ暗殺事件」。はたして、真相が明らかになる日はくるのでしょうか?ちなみに今回の出所「ゲネラルSVR」。英語字幕もついていますので、興味がある方は、ごらんになってください。

● Несгораемая идеология Александра Дугина или напрасная жертва
https://www.youtube.com/watch?v=ebmmHUzrvU8

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年8月27日号より一部抜粋)

image by: LCV / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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