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韓国に居場所なし。“陰口外交”バレてインド太平洋地域で孤立する隣国

9月8日、ウクライナの首都キーウで行われたゼレンスキー大統領との会談で、970億円相当の追加支援を表明したアメリカのブリンケン国務長官。しかしこの後押しも、紛争の早期解決に繋がることはないようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ウクライナ戦争が長期化する理由を解説。さらにこの紛争による国際経済の停滞が、今後のインド太平洋地域に生み出す状況を考察するとともに、日本が生き抜くために選択すべき立ち位置を検討しています。

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ウクライナでの戦争が映し出す近未来?!

「すべて計画通りに進んでおり、我々は失敗していない」

今週、プーチン大統領がウラジオストックで開催中の東方経済フォーラムで述べた内容です。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、東方経済フォーラムへの欧米諸国や日本からの企業参加はほぼ皆無になり、代わりにロシアの企業と中国の企業、そして中央アジア・コーカサスの各国企業の参加が目立っているようです。

冒頭のプーチン大統領の発言は、“ただの強がり”というように切り捨てるのは簡単ですが、実情はどうなっているのでしょうか?

東方経済フォーラムについては、中国からの参加が目立つのはすでに触れたとおりですが、今回の参加の陣容を見ていて面白いのは、中央アジア・コーカサス各国およびスタン系の国々の対ロ温度差でしょう。

経済的に欧米の資本が増加しているような国々もありますが、かといってロシアとの経済的なつながりと地政学的なつながりを無視できるわけもなく、「ロシアはまだまだ大丈夫」というアピールに付き合わざるを得ない事態であると思われます。

その一因が、アフリカ諸国や中東諸国でも見られる欧米からの内政・人権問題への“過度な”介入です。スタン系の国々は民主主義的な体制というよりは、専制的な独裁体制の国々が多く、それを“是正しよう”と欧米諸国が支援や取引を餌に内政に干渉し、国内の人権状況を改善しようという条件をつけてくることが多いのですが、その作戦は決してうまく行っていませんし、今後もうまく行かないでしょう。

その代わり、ロシアとの健全な距離感を保つために、最近接近を試みているのが中国ですが、ロシアによるウクライナ侵攻前から中ロを軸とした国家資本主義陣営に取り込まれていっています。

特にその傾向が強まったのが、昨年8月末に起きたアメリカ軍のアフガニスタンからの完全撤収とタリバン勢力の復活で、スタン系の結束と、中央アジアから南アジアに抜ける回廊の設置など、着実に中ロによる勢力圏拡大につながっています。この勢いは、ウクライナにおける戦争の長期化と並行して、強まっているようです。

これは、プーチン大統領とその政権によるLook East戦略の傾向にも見られます。プーチン政権発足時は欧州を見て、一時期はNATOへの加盟まで匂わせたロシアですが、欧米政府がロシアと距離を取り続けることを決めたことをうけて態度を反転させています。

結果はご存じの通り、グルジア・南オセチアでの紛争、そして欧米との決裂を意味する2014年のクリミア半島併合に繋がります。

それ以降、プーチン政権によるロシア再編および旧ソ連圏の再統合を狙う戦略に変わり、独自の勢力圏の構築に邁進することになります。

ちょうど、地域における中国経済の影響力が無視できないレベルに達したことを受け、中国と手を組み、ユーラシア大陸東側での支配基盤確立に邁進しています。

この経済基盤・支持基盤が、ロシアによるウクライナ侵攻後、欧米諸国とその仲間たちによる対ロ経済制裁の波状攻撃の影響を緩和する手助けになっていると思われます。

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今週、日本経済新聞の記事にもなっていましたが、厳しい制裁を課したはずのロシアからの石油の輸出は、ギリシャとインド、そしてトルコ、中国の手助けを得て、それなりのレベルが確保され、ギリシャ籍・インド籍の大型タンカーによるロシア産原油の輸送とギリシャ沖を舞台にした“せどり行為”によって欧州に還流するという仕組みが出来上がっています。

一応、EU内での合意では、石油の禁輸措置が今年中には発効するはずですが、その実現性と実効性には大きな不安が残るばかりか、欧州がロシアを切り捨てられない最大の理由になっている天然ガス供給網の存在とロシアの影響力を受けて、制裁に反して、ロシアの外貨収入確保のルートは開かれたままになると思われます。

欧州は、アメリカと組んでロシアを国際経済から締め出すべく強い制裁措置に参加しつつも、自国・地域の“生存の確保”を最優先する国内・域内圧力に大きく影響されて、結局、制裁は骨抜きにされつつあります。

以前にも「対ロ制裁は当初予想されたほど効いてはいない」とお話ししましたが、その原因を作っているのが、最近、触れている中立的な第三極(イシューごとに味方に付くサイドを決める諸国群で、トルコ・インド・ブラジル・中東諸国などに代表される)はもちろんのことながら、EU内での加盟国間の結束の綻びでしょう。今回のギリシャによる明らかなせどり行為の黙認・協力や、煮え切らないドイツ、そしてロシア産原油を迂回ルートで購入する英国やベルギー、オランダの企業群などの行為です。

ロシア軍は、確かにアメリカ製のハイマースなどが戦線に投入されたことで、ウクライナ軍からの反攻に晒され、最近は軍事的な劣勢がよく報じられていますが、戦争の長期化の特徴でもある後退期と立て直し期に差し掛かっているという分析も存在し、“ファン”が熱狂するほどウクライナ軍が巻き返しているとも言えないというのが実情に思えます。

その背景には、すでにお話ししたような“戦費もまだ賄えそうな安定的収入”の存在が見え隠れします。

トルコは、ウクライナに自国のドローン兵器を提供すると同時に、ロシアとしっかりと貿易関係の強化を進めていますし、インドは行き場を失ったロシア産の原油を一手に引き受け、国内で精製し、欧米企業などに売りさばくことで自国のプレゼンスが上がると同時に、しっかりロシアの経済を下支えする一助にもなっています。

中国はもっと直接的にロシア産の原油・天然ガスの引き受けを行い、ロシア(ウクライナ)産の穀物や木材、金属製品・資材などを引き受け、余剰分を転売することで経済的な影響力を高めています。

ではこれを欧米諸国は見て見ぬふりしているかと言えばそうではないのはご存じのとおりです。

ロシアに手を貸すものを罰することなく、何とか手懐けようとしてみるものの、それゆえに態度が曖昧になり、さらなるギャップを生み出してしまうという悪循環を演じながら、自らもしっかりと利益を拡大する構造を確立しつつあります。

報道でウクライナ軍の反攻の原因として挙げられるハイマースやドローン兵器などによる“効果”は若干眉唾と思われ、戦争報道が幾分、軍需企業の宣伝に繋がっているという側面もあります。

ハイマースに対する各国軍からの引き合いは凄まじいですし、比較的安価でメンテナンスも簡単、そして性能も高いという触れ込みのトルコ産ドローン兵器も引く手あまたです。

そしてNATO加盟交渉が大詰めを迎えているスウェーデンも、大軍需大国でもあり、しっかりとSAAB産の兵器の販売を伸ばすことにもつながっています。一説ではNATO加盟は、この軍需産業からの強力なプッシュがあってのことという噂もあります。

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このような構図が出来上がってくると確実に起きてしまうのが、戦争・戦闘の長期化です。今、戦争の長期化を受けて、ウクライナの人民と世界中の一般消費者を除いて、明らかな不利益を(一方的な不利益を)被っているものはいないのではないかという状況で、軍需産業に至っては超好景気の真っただ中です。

これ、あと2か月ほどで中間選挙を迎える米国にとっては、貴重な支持基盤をハッピーにさせておく材料にされています。ウクライナ国民の犠牲の上に、アメリカのハイマースなどの武器は好調な売り上げを記録し、おまけにアメリカ産の武器がロシアを攻撃しているという、なんとも言えない状況に満足するという異常な事態も生じているようです。

9月や11月などにXデーを予言したい“専門家”もまだいらっしゃるようですが、この戦争はいろいろな利害が絡み合い、まだまだ継続すると思われます。

今回のこのウクライナでの戦争は、私たちが住むアジア太平洋・インド太平洋地域での安全保障環境の“これから”にもいくらかの示唆を与えるものだと考えます。

もちろんここで大きな影響を持つのが中国のこれからです。10月16日に行われる中国共産党大会と習近平国家主席の第3期目の確定を受けて、中国がついに台湾に対して“行動”を起こすという見方をし、私もそういってきましたが、ロシアのスランプと戦争の長期化の様相を見て、台湾への軍事侵攻に対する損得勘定は、中国共産党内で最終的な判断局面にきているように思われ、いろいろと伝え聞く内容を踏まえると、しばらくは中国なりの現状維持を選択し、台湾に大きな圧力を軍事・経済的にかけつつも、戦争につながるような決定的なインシデントは引き起こさないと見ています。

もちろん、ここには大きなIFが存在します。習近平国家主席がどの程度、中国人民解放軍を掌握できているか次第で、このシナリオが崩れ、軍が軍事侵攻になだれ込み、こちらも非常に長期に及ぶ戦争という袋小路に陥ることもあり得ます。

ただその可能性は低いかなと私は見ています。その一因が、成長著しいインドとインドネシアの存在です。

インドは恐らく来年には、国連の統計予測によると、中国の人口を超え、そして身分制度(カースト制度)がまだ存在するとはいえ、高学歴で若年の人材層が増加していることもあり、今後の経済的・軍事的なパワーハウスになるための能力基盤はそろってきています。

そこに今回のウクライナでの戦争とロシアの資源絡みで分厚い経済基盤も手に入れていることから、これから10年ほどで米・中国と肩を並べる状態を作り上げてくるだろうと思われます。

インドネシアについては、中国・インドとデリケートなバランスをキープしつつ、着実に経済発展を進め、かつ外交面でも地域の2大勢力の間で決して無視できない実力を蓄えてきています。

中印やアメリカと違い、核戦力こそ保持していませんが、ASEAN内ではすでに確固たるリーダーとしての地位を確立し、東南アジアをまとめる存在になってきていることから、これから10年から15年の間にアジアの安全保障環境の安定にとって欠かすことのできない存在になるでしょう。

特にアジアにおける“イスラム”の核になることで、西アジア(つまり中東)のイスラム諸国との連携を図ることもでき、インド太平洋地域における政治・地政学においてイスラムの力を結集する存在になります。

このような状況を作り出すのが、現在、ウクライナでの戦争によって国際経済で起こっている様々な停滞による“時間”ではないかと考えます。

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このようなシナリオが実現したとしたら、各勢力によるデリケートな力の均衡・バランスという状況がインド太平洋地域に生まれ、それを崩すことは世界・地域の崩壊を意味するというほどの安全保障環境を形成することが可能になり、究極的に戦争の抑止につながるのではないかと期待できます。

このような環境がこれから10年から15年の間に構築されるとした場合、日本を含む“地域”の国々はどう動くべきでしょうか?

日本にとっての選択肢は、従来通り「日米安保条約が柱」とするアメリカとの同盟関係の維持・強化は大事ですが、新しい環境下で埋没してしまわないためには、隣国である中国との関係をいかに良好に保っておくかはとても重要になります。まったく阿る必要はないですが、わざわざ対立する必要もなく、いかに戦略的に関係の維持を“つかず離れず”マインドで図ることが出来るかだと思います。

インドについては、共にクワッドに参加し、中国包囲網の原加盟国ではありますし、これまでにも大きな立場の食い違いがないため、良好な関係の維持は難しくないと信じますが、今後、インドの影響力が増すにつれ、その日印間のバランスがいかに変わってくるか、特にインド側・日本側双方のマインドのバランスがどう変わるかによっては、安全保障環境に与える影響は小さくはないので、今から関係のかたちを両国間で作っておく必要があるでしょう。

インドネシアも、高速鉄道の入札問題はありましたが、日本との関係は非常にいいため、さほど大きな心配はしていませんが、気を付けたいのは、ジョコ政権下で顕著に進む経済・外交・軍事面でのインドへの接近方針の影響です。

インドとも、インドネシアとも良好な関係を築いていますので、日本にとってはさほど大きな問題ではないでしょうが、インドとインドネシアの接近が、中国にとってどのように受け取られ、それが中国のインド太平洋地域における“行動”にどのような影響を与えるのかは要注意です。

韓国については、かつての日本とよく似て八方美人的な外交姿勢が指摘されていますが、ケースごとに、そして政権ごとにアメリカ寄りになったり、中国寄りになったりと、立ち位置がはっきりしないばかりか、影で悪口を叩くという特徴が米中にも、インドにもばれており、かなり厳しい見立てですが、インド太平洋地域におけるパワーバランスという観点では、実質的に居場所がないと言えます。

こうしてみてみると、ウクライナをめぐる情勢と、インド太平洋地域における情勢は、時間軸も違いますが、取り巻く環境も違い、ウクライナにおける戦争を機に鮮明化した世界の分断という対立構造がそのまま投射されるというよりは、力のある国々が割拠して、微妙なバランスの下、安定が齎されるという特徴が予見できると考えます。

ウクライナにおける戦争は世界に、そしてアジアにも大きな衝撃を与えていますが、実際にインド太平洋地域における安全保障環境を根本的に変えてしまうほどの突発的な影響力はなく、米中の微妙な対立が継続する間に、インドとインドネシアがパワーハウス化し、デリケートなバランス下での安全保障という構造へのプロローグ的な役割を果たすのではないかと考えています。

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このシナリオが成り立つために必要なのは、日本自身がどのような立ち位置を選択するかを迅速に決めておくことです。

米中双方と適切な距離感を保ち、敵対しないという立場を貫くのもいいですし、これまで以上に、10年後から15年後を見越して、インドとインドネシアとのパートナーシップを強化しておくというものいいかと考えます。

ウクライナにおける戦争に対する日本の姿勢を見ていて、迅速にG7に寄り添い、対ロ制裁も厳格化している方針は、一見目立ちますが、中長期的に、インド太平洋地域でどのような存在感を示していくかという観点からはどうなのかなあと不思議に感じざるを得ません。

そんな中、サハリン2の新会社に、エネルギー安全保障の観点から出資するという、G7の方針とは逆の決定をしたことには、「おっ」っと微かな期待と喜びを感じてしまったのですが…。

いち早くウクライナでの悲劇が終わり、世界各地で勃発している紛争が収まり、デリケートなバランスの下での安定が戻ることを願い、調停の任にあたっているのですが、目の前の案件のみならず、視点をちょっと遠くにまで及ばせて、中長期的な視点からの調停・整理が必要ではないかと思い出している今日この頃です。

またまた取り留めのない書きぶりになってしまいましが、以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Attila JANDI / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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