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『ミヤネ屋』に逆ギレ抗議文を送った統一教会の大嘘。「世界日報」元社員が徹底反論

旧統一教会の元信者として、教団に身を置いていたからこそ知りうる貴重な情報をメディアで発信し続けている、金沢大学法学類教授の仲正昌樹さん。そんな仲正さんの『情報ライブ ミヤネ屋』での発言を巡り、世界日報社が抗議文を送りつけてくるという騒ぎが勃発しました。今回仲正さんは、かつて記者として勤務していた経験もある同社が、誤った証言として謝罪と訂正を要求してきた2点について徹底反論。当時の社内では常識だったという、世界日報社と旧統一教会系企業との深い関係を表すエピソードを暴露しています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

「世界日報社」元社員が明かす、同紙と統一教会との関係と、『ミヤネ屋』への抗議文の不可解

既にいくつかのメディアで証言したように、私は1981年4月から92年10月まで、統一教会の信者であり、最後の2年半は、統一教会系の日刊紙「世界日報」の社員であった。その当時のことについて、読売テレビの『情報ライブ ミヤネ屋』で証言したところ、後日、世界日報から、読売テレビ宛てに私が嘘を付いたので謝罪し、訂正せよ、という抗議文が届いた。少し遅れて私自身のところにも同じ内容の抗議文が来た。

抗議文が、私の証言で誤りだとしているのは、

①世界日報が「統一教会系の団体が資本を出している新聞」だ

という点と、

②教祖のところに直接呼ばれて報告する人が、統一教会の幹部ということになっていたが、当時の編集局長はそういう幹部の一人だった

という点だ。

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この二点について抗議してくるというのは、正直意外だった。世界日報としても、旧統一教会としても、マスコミに掘り下げて取材されると、一番困るところであるうえ、いろいろ証拠があるからだ。

それだけだと、上の方からそういう指示があったんだろうけど、元記者で、大学で政治思想史を教えている私にこんな抗議文を送ってくるなんて、何を血迷っているんだ、という印象しか持たなかったが、「岩田均」という差出人の名前を見て、びっくりした。私が入社した当時、編集局の庶務部長で、辞める前には、編集局次長だった人だ。

私が辞めて何年も後に入ってきた、まだ若くて事情のよく分からない幹部が、自分の判断力を過信するか、私を見くびるかして、舐めた手紙を送ってきたというのであれば、ありそうな話として理解できなくもないが、私が入社するずっと前、四十数年前から世界日報にいて、社の内情について私にいろいろ教えてくれた人が、当時社内で常識として語られていたことを全否定するのだから、飽きれかえった。

抗議文では、私が働いていたのが「30年前」であることを強調し、情報が古いことを暗に示唆していたが、最近入社した人間ではなく、四十数年前からいる最古参の幹部が、そんなことを言うのだから、何ともとぼけた話だ。70歳近いはずの、岩田氏が未だに社を代表してこんな仕事をしているのも結構驚きだった。

元上司に対して、社内では自明な事実だったことについて反論のようなことをすること自体が腹立たしいのだが、一般読者のために一応どういうことか説明しておく。

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①について。世界日報側は、世界日報社は、「統一教会系の団体」や「旧統一教会」と「資本関係はない」としているが、これは恐らく、団体として株主になっていない、という意味だろうが、そんなことは問題ではない。

世界日報は私がいた当時、都内で数千人しか購読者がおらず、外部からの広告費も微々たるもので、とても自前でやっている財政状態ではなかった。そのため、霊感商法問題で有名になった、統一教会の経済活動を統括していた商社ハッピーワールドなどから運転資金を補填してもらっていて、ハッピーには頭が上がらないというのは、社内では公然の事実だった。

そうした事情については、当時の木下編集局長など幹部がしょっちゅう口にしていた。政治部、経済部、社会部、外報部、整理部、校閲部、庶務部など、編集局の主要な部門と、局長の席は、一つのフロアに集中していたので、ほとんどの社員が情報共有していた。社員一人当たりの給料は独身者の場合、月5~6万円だったが、それさえも滞ったり、減額になったりしていた。どうしてそれくらいの給料しか出ないのか、しかも、どうして不安定なのかについて社員たちは当然関心を持っていたし、幹部たちも事情を話さざるを得なかった。

社員の9割くらいは統一教会の信者(他の新聞のOBで顧問的な立場で再雇用されている人たちは信者ではなかった)だったが、信者でも生活費がないと生きていけない。世界日報は、取材などの関係で外の世界との付き合いも多いので、統一教会系の他の団体に比べると、社内で俗っぽいことを平然と言う人が多い。

財務関係についてよく覚えているエピソードをいくつか紹介しておこう。世界日報は記者クラブに入っていなかったので、いろいろと取材がやりにくかった。そこで、岩田氏の前任の編集局次長だった人に、「うちはなんで記者クラブに入れないんですか。統一教会だからということで、クラブから拒否されてるんですか」と、率直に尋ねたことがある。その人は、私を含めてその場に何人も社員がいる場で、「クラブに入るには会計を含めて、いろんな情報開示しないといけない。会計なんか明らかにできるわけないよ。機関紙的な体質であることがバレるだろう」と説明した。岩田氏もその場にいて、ふんふんとうなずいていたと思う。

1992年に、桜田淳子さんも参加したので話題になった合同結婚式があった。それがきっかけで、今回のように、ワイドショーで連日、霊感商法問題を中心とした統一教会批判が繰り返された。その余波で、3カ月くらい、1円も給料が出なかった。そのうえ、統一教会本体が、北朝鮮向けの事業を中心に新しい事業を展開していたので、世界日報の社員にも献金することが求められていた。みんな切羽詰まっていた。整理部の次長だった先輩から、「この騒ぎで、ハッピーワールド自体が切羽詰まっている。いつも金を使うだけの世日に回す金なんてない。ハッピーから何も来ないから、社の米櫃が空だ。給料が出るはずない」と言われたのを記憶している。

給料が出ないのはハッピーワールドからのお金が滞っているせいだと、当時の社員たちは認識し、将来に不安を抱いていた。私が脱会を決意するきっかけになったのは、「祝福」を受けた相手との関係と並んで、この時に感じた将来不安だ。当時、このまま世界日報でやっていけるのかと迷っていた社員は少なくない。信仰はやめないまでも、世界日報本社はやめて、実家に帰って何か独自の事業を始めることを計画していた人たちもいる。

編集局次長兼庶務部長だった岩田氏は、そうした社員の不安を鎮める責任があったはずだ。本当にハッピーワールドと財務上関係ないのであれば、「給料が出ない理由は、ハッピーワールドや統一教会が困っているせいではないんだ」と、社員の認識を正すべき立場にいた。でも、そうした説明は一切なかった。それどころか、編集局長をはじめ幹部たちは、こういう情勢で、お金がこないので給料が出ないのは仕方ない、俺たちも苦しい、信仰で乗り切るしかない、というようなことをしょっちゅう言っていた。

私は92年4月に東大の大学院に受かって、しばらく院生をしながら仕事をしていたが、10月に世界日報と統一教会をやめる決意をした後、院生用の奨学金を申請した。その時、大学院係で、「会社を辞めるのなら、退職金が出るでしょう」と聞かれて、世界日報なんてところから退職金なんてものが出るわけないでしょ、と内心思ったが、単に「いや出ません。小さい会社なので」と答えたところ、では、「退職金を出せないという証明書」をもらってきてください、と言われた。それで、庶務部長だった岩田氏に、退職金を出せない証明書を出してください、と頼んだ。最初は、妙な目的に使われるのではないか、と怪しんだ風で、難色を示していたが、外で騒がれると面倒だと思ったのか、しぶしぶ出してくれた。

その他、私が祝福を受けた相手の女性との婚約関係を解消して、統一教会と世界日報をやめるに当たって、編集局長夫人と岩田氏と何時間か話をした。ハッピーワールドからお金が来なくて苦しい状況で、将来の展望が開けないというのも大きな原因だということはその時の会話の前提だった。

もし私が間違った認識に基づいて退社したのだとしたら、部下である記者に正確に情報を伝えるべき編集局次長という立場にいた岩田氏は、「私たちはそんなことを言った覚えはない。どうして、ハッピーワールドや統一教会に財政的に依存していると思ったのだ?」、と、私に尋ねるべきだろう。というより、抗議文を書く前に、そんな認識のギャップがあったことを、不思議に思っているはずだ。

自分たちはきちんと伝えたという自信があり、当時のことをしっかり覚えているのであれば、給料をもらえないことに不満を募らせて脱会した私に、いきなり抗議文を送ってくるようなことはせず、まず、実際はこういうことだったんだ、と伝えたうえで、私に訂正を求めるのではないのだろうか。そうしなかったのは、自信のなさの裏返しか、形だけの抗議文を仕方なく送らされたのかのどちらかだろう。

私が入社する以前の話だが、月刊誌『文藝春秋』1984年7月号に、かつて「世界日報」編集局長だった副島嘉和氏が、旧統一教会の実態について内部告発する記事を寄稿している(同氏は、その後何者かに襲撃されている)。統一教会の広報局長も兼ねていた副島氏は、この記事の中で、赤字を教団から補填してもらっていたと書いている。教団から、人事面でだけでなく、会計面でも独立を図ったところ、解任されたということである。

私が入社した1990年4月の時点では、資金提供を受けている状態が解消されていたけど、私たち社員には依然として資金的に依存しているかのように嘘を付いていたということなのか、それとも副島氏の証言は丸っきり嘘で、最初から資金面で依存していなかったのか、ということか。後者の場合、実際にはどういうやりくりをしていたのか。

副島氏や私だけでなく、多くの人が世界日報が統一教会系の企業に資金面で依存していることを証言している。全て嘘だというのであれば、疑いを一掃するため、株式や借入金、通常の運用資金はどこから得ているかなど、財務に関する情報を可能な限り開示すべきだろう。そうしないで、恫喝のような真似をするのは、痛い所を突かれたということだ。

②について。世界日報から私に送られてきた文書には、「過去5代の編集局長に確認しても文教祖のところへ報告に行った事実はない」とある。「過去5代の編集局長」に限ればそうなのかもしれない。しかし、私がいた当時の木下歡昭編集局長は、私たち社員に対し、自分が「お父様」(文氏)によって任命されたアベル(教会内の目上の立場)であることをことあるごとに強調していたし、文氏の下に報告しに行った時の話を何回もしている。

その証拠に世界日報の記事を挙げることができる。文氏は、1991年の11月に突如訪朝した。世界日報は通常は、機関紙といわれないように統一教会関係の記事は控え目にしか扱っていなかったが、この時だけは、連日、一面から文氏訪朝関係の記事で埋め尽くした。私もその時の紙面作りに参加したのでよく覚えている。12月1日付の記事で、訪朝前の文氏が北京空港の貴賓室で、日本統一教会の神山威元教会長や世界日報の木下編集局長らと歓談したことを伝えている――この時の様子は、木下局長が社員たちに向かって、得意げに語っていた。どうして、極秘訪朝の事前ミーティングに、世界日報の編集局長がいたのか。

副島氏が追放されて、木下が副社長を兼任して実質的なトップになるまでの間は、編集に直接関係しない、統一教会や勝共連合が送り込まれた幹部が、世界日報を代表して文氏のもとに行っていた。この点でも、副島氏の記述が参考になる。彼は、編集局長として「愛のマグロ釣り研修」に参加したと述べている。この研修では、何人かの幹部たちが文氏と一緒にマグロ漁船に乗り込み、一緒に釣りをやり、その時にどういう態度を見せたかで、その後の人事が決まる。

マグロ釣りの話は有名で、私も東大CARP(原理研)時代、礼拝などで、釣りに際して、文氏と日本の幹部たちがどういうやりとりをしていたかよく聞かされた。マグロ釣りで、文氏に信仰の弱さを見抜かれた副島氏の人事異動が決まり、それに反発した同氏による社内クーデターに繋がった、というのが統一教会内の公式見解になっていた。私が入社した頃の世界日報社内では、副島事件を繰り返さないように、「真の父母様」に対する強い信仰に基づく紙面作りが大事だと強調されていた。

この件に関して、週刊Flash編集部が世界日報に問い合わせたところ、「10月1日付の記事内容(=抗議文を掲載したもの)以外のことは回答を控える」、とのことだった。旧統一教会と世界日報社との関係については、「世界日報社は教団関係者が設立し、友好団体であるが、両者に資本関係はない」との回答だった、という――10月4日配信のSmart Flash記事「世界日報社「旧統一教会と資本関係はない」と『ミヤネ屋』に謝罪要求」を参照。

私が虚偽の話をしたというのであれば、私が勤めていた30年前に、岩田氏を含む幹部連中が、私を含む一般社員を騙していたことになる。私に謝罪しろという前に、岩田氏を含む『世界日報』の幹部たちが、そのことを謝罪すべきだ――おあつらえ向きなことに、現在の社長を始め、現在の幹部の何人かは、私の在社当時の先輩たちだ。そんなことさえ、世界日報の首脳部は分からなくなっているのかと思うと、元信者、元記者として情けない。

世界日報に関心のある人は、茅場町一丁目の雑居ビルの5階にある現在の世界日報本社を一度見たらいい。ビルのオーナーには申し訳ないが、そこに“本社”があることが、世界日報の現状を象徴しているように思える。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

image by: 不明Unknown author, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

仲正昌樹

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