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BANGKOK - December 9, 2018 : honda accord 2019 on display at Bangkok thailand international motor expo 2018(Motor expo) in Bangkok, Thailand

飛んできたスパナ。あの本田宗一郎が貫き続けた「現場・現物・現実主義」

有能な経営者は、亡き後もその魂に感化されるビジネスマンが多いものです。ホンダの創業者本田宗一郎氏もまさにその一人。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、 本田氏が生前、口を酸っぱくして語っていたことをカーデザイナーの岩倉信弥さんが紹介してくれたインタビューを掲載しています。

本田宗一郎が“激怒”しながら伝えたモノづくりの極意

いまなお、熱き経営者魂に感化される人が後を絶たないホンダ創業者・本田宗一郎(1906~1991)。その情熱をいまなお引き継ぐ、クルマづくりの原点とは……。

1970~80年代にかけて「シビック」や「アコード」などのデザインを手掛けてきた岩倉信弥さんに、本田宗一郎から受けた薫陶や、「怒られて掴んだ」モノづくりの極意を語っていただきました。

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本田さんは凄く大きな夢を語るのですが、それが決して机上(きじょう)の空論にはなっていない。夢は大きく、目標は高いんだけど、やっていることは現場主義なんです。

やはりちゃんと物を見て、直(じか)に物に触れ、現実をよく知らなきゃいけないという「現場・現物・現実主義」。それを外すと「やりもせんに!」と拳骨(げんこつ)やスパナが飛んでくる。

こちらは大学を卒業して多少知恵がついている分、「いやそれは無理です」とか、屁理屈を一所懸命並べるんだけど、言おうとすると怒られる。しょうがない、やるしかない、で、やっているうちにできちゃった、ということが何度もあった。

人間は窮地に追い込まれて、いうなれば2階に上げられて梯子(はしご)を外され、さらに下から火をつけられる、という絶体絶命の危機に立たされ、初めて湧いてくるアイデアや閃きがあるものです。それを生み出すためのシステムを、ホンダでは「缶詰」「山ごもり」「カミナリ」と呼んでいました。

「缶詰」は一つの部屋に閉じ込められて、アイデアが出てくるまで一切部屋から出してもらえない。家に帰ることも許されず、その空間でとことん考え抜く。

「山ごもり」は温泉に行けと言われ、喜び勇んで出掛けると、その安宿には紙と鉛筆しかない。最新設備のある研究所を離れ、立ち位置を変えることで新たなアイデアを生み出すのです。

最後の「カミナリ」は、言うまでもなく本田さんのカミナリです。これほど恐ろしいものはないから、皆逃げ出そうとする。僕も逃げ出したかったんだけど、それも悔しいから、なんとか怒られないで済む方法はないかと考えた。

結局、なぜ怒るのかと考えたら、本田さんは経営者として考えているんです。

こうしなきゃお客さんは喜ばないという発想だから、考え方が哲学的になる。一方、こちらはデザイナーとしての視点だけで考えている。つまりシンキングレベルが違うわけです。

本田さんは、いつもしつこいくらいに「いいモノをつくるにはいいものを見ろ」とおっしゃっていました。ある時、こんな苦い経験をしたことがあるんです。「アコード」の4ドア版をつくっていた時のことでした。

僕らのデザインチームは、4ドアを従来の3ドアの延長線上に考えて開発を進めていた。ところが本田さんは「4ドアを買うお客さんの層は、3ドアとは全然違うぞ」と言って憚(はばか)らない。ボディは四角く、メッキを付け、大きくて(価格が)高そうに見えるようにしろと言われるのです。

僕は内心、そんな高級車はよその会社に任せればいいと考えていました。ほんの気持ち程度の対応しか見せない僕らに、本田さんは「君たちはお客さんの気持ちが全然分っていない。自分の立場でしかものを見ていない」と日ごとに怒りを募らせてきます。

毎日、よく似たやり取りが続き、我慢の限界を感じた僕は「私にはこれ以上できません。そんな高級な生活はしていませんから」と口にしていました。本田さんはそれを聞くなり「バカヤロー!」と声を荒げ、「じゃあ聞くが、信長や秀吉の鎧兜(よろいかぶと)や陣羽織は一体誰がつくったんだ?」と言われたんです。

大名の鎧兜をつくったのは、地位も名もない一介の職人。等身大の商品しかつくれないのであれば、世の中に高級品など存在しなくなる。

自分の「想い」を高くすればできる。心底その人の気持ちになればできるんだ、と(本田さんは)教えてくださったんです。

※ 本記事は月刊『致知』2007年8月号 特集「人は教えによりて人となる」より一部を抜粋・編集したものです

image by: Kridsada Krataipet / Shutterstock.com

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