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プーチンより恐ろしい。ウクライナ利権の独占を目論む中国「習近平の訪露」という切り札

国際社会のさまざまな働きかけも実を結ぶことなく、2月24日に開戦から1年が経過してしまったウクライナ戦争。しかしここに来て、ついにその力を発揮すべく大きな行動に出た中国に注目が集まっています。果たして中国は、世界を破滅から救うことができるのでしょうか。そのカギとして「習近平国家主席のモスクワ訪問」を挙げるのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さん。島田さんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、交渉のプロとしてそう判断する理由を解説。その上で、今年のG7議長国である日本が取るべき動きを探っています。

欧米に一泡吹かせる。習近平のロシア訪問で戦争終結という中国の「好ましい」シナリオ

「中国政府はついにユーラシア大陸を本気で取りに行こうとしているのか?」

王毅政治委員(外交トップ)がミュンヘンでの安全保障会議(MSC)に出席した後、モスクワを訪問してプーチン大統領をはじめとするロシア政府の中心的人物と会談をしたという情報を得た際そう感じました。

ミュンヘン安全保障会議中には、同じく出席していたクレバ外相(ウクライナ)に対して“中国版の調停案”を詳細に説明し、クレバ外相も真剣な面持ちで「真剣に検討する」と述べたのは印象的でした。

そしてその足で王毅政治委員はモスクワに飛び、“中国版調停案”をロシア政府に説明したとのことですが、今のところ、ロシア側の反応については明らかになっていません。

ただ、プーチン大統領が王毅政治委員に対して「できるだけ早く習近平国家主席と会って話がしたい」というメッセージを託したという情報も数筋から来ており、中ロ首脳が近々顔を合わせた時、どのような展開になるのかとても関心があります。

そこで1つ気になるのが【プーチン大統領は習近平国家主席の訪ロを要請していたにも関わらず、中国政府がモスクワに送ってきたのは外交トップの王毅政治委員だった】というアレンジメントです。

重要なのはプーチンの訪中ではなく習近平の訪露

これが意味することについて中国情勢の専門家(調停グループ内の)に尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきました。

「断言はもちろんできないが、習近平国家主席が直に出てくるとすれば、ロシア・ウクライナ双方が中国版調停案を停戦協議のベースとして受け入れ、中国に調停・仲介を要請する場合のみだろう。今回、フランスやドイツ、そしてアメリカからオファーされた場合とは違い、クレバ外相が提案を一蹴せずに“真剣に検討したい”と神妙な面持ちで持ち帰ったのは、ウクライナの復興にあたり中国が果たす役割を理解し、期待しているからだと思われる。ロシアによるウクライナ侵攻前から、中国はウクライナに投資しており、中国資本も本格的に進出していることに鑑み、戦後の迅速なウクライナへの復帰をオファーされたのではないか。問題はその提案をロシアも交渉のベースと考えるかどうか。そのためにはワンプッシュが必要となるだろう」

その“ワンプッシュ”とは何なのでしょうか?

調停チーム内のロシア専門家によると、それは【習近平国家主席のモスクワ訪問】です。

「大事なのはプーチン大統領の北京訪問ではなく、習近平国家主席のモスクワ訪問だ。どちらの場合でも話す内容は変わらないだろうが、プーチン大統領が上げた拳を下げるきっかけを与えられるのは、習近平国家主席があえてモスクワに会いに来てくれるという体裁を取ることでプーチン大統領の面子を保つことによってのみだろう。中国はなかなか習近平国家主席カードを切ってはこないと思うが、もし習近平国家主席が仲介をする形でプーチン大統領とゼレンスキー大統領の直接会談が実現したら、これは中国にとってとてもおいしい展開になると同時に、バイデン大統領をはじめとする欧米の(反中国の)リーダーたちに一泡吹かせることに繋がり、それは習近平国家主席にとっても、プーチン大統領にとっても望ましい帰結となるかもしれない」

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「人類にとって最悪の事態」を回避するタイムリミット

少し解決に向けた糸口が見えてきたような気はしますが、その実現のためには多くのIFがすべてYESに変わらなくてはなりません。

それは「中国案をウクライナが交渉のベースとして受け入れるか?」「ロシア側も中国案をウクライナとの話し合いのベースとして受け入れるか?」「習近平国家主席自らが調停に乗り出すのか?それともまだそのカードは切らずに、王毅政治委員に調整を任せるのか?」「ロシアとウクライナが中国案への訂正なく話し合いのテーブルに就けるか?」など、なかなか困難な問いが続きます。

仮に中国による仲介の申し出がブレークスルーになるのであれば、次の大きな問いは「いつまでにスタートするか?」「どこで行うか?北京か?それとも第三国か?」というロケーションとタイムラインについての内容になるかと思われます。

By whenというタイムラインについての問いについては、私の私見では「NATOからの軍事支援がウクライナに届き始めるころまでに」となりますが、それは言い換えると日本でいうGW前までにということになります。

このタイミングを逸すると、NATOからの支援を受けてウクライナが対ロ反攻攻勢に集中し、とても話し合いを進めるような心理状態にはならず、戦争は継続され、ここからは究極の消耗戦となります。そして、ロシアが追い詰められていると感じ始めたら、恐らくプーチン大統領本人でさえ制御不能な事態になるかもしれません。それは人類の生存にとって最悪の事態になり得ます。

どこで行うのか?については、現時点では推測ができませんが、中国国内となる可能性は高いと思います。

北京でしょうか?上海でしょうか?それとも…。

それは私には分かりません。

ところで忘れてはいけないのは【欧米諸国とその仲間たちは、中国による調停・仲介を受け入れることが出来るのか?】という問いです。

教訓を学ばずまたぞろ同じ過ちを繰り返す欧州各国

これについては、ウクライナでの戦争が長期化し、戦況が膠着状態に陥ってから、何度かアメリカ政府や英国政府が中国に「もっと役割を果たすべきではないか」と要請していたことを踏まえると、話の行方を詳細に追いかけるとは思いますが、中国による仲介に対して真っ向から反対することはないと考えます。

その理由は【NATOも欧米各国も、自分たちはこの戦争の直接的な当事者ではないという最後の一線を越えないこと】が一つあります。

NATO諸国とその仲間たちは、武器の供与、経済的な支援、国際社会を巻き込んだ厳しい対ロ制裁の発動など、ウクライナに肩入れし、ロシアと対峙する姿勢を鮮明にしていますが、戦争を直接的に遂行はしておらず、停戦協議の当事者とはなり得ないという背景が存在します。

もちろんアメリカ政府も欧州も、中国がまとめようとしている調停案・停戦合意案に対して、物言う権利があるかのように振舞い、当たり前のように外野からいろいろと言ってくるでしょうし、当然、それらの意見は聞き入れられるものと誤解していますが、調停に対して評価は加えることが出来ても、決定的な意見提供や影響力の行使は正当化できないと考えています。

ウクライナ戦争後の世界で何らかの利権を欲し、ロシアの力を削ぎたいと考えている欧州各国は必ず調停がまとまりそうになったら関与しようとしてきますが、EU加盟を遅らせている欧州の真意をウクライナは受け入れることはないでしょうし、ロシアが欧州との仲直りをすることも今後ないと思われます。

本気でウクライナでの戦争を止めさせたいと考えているのであれば、外野からあれこれ口をはさんだり、協議の邪魔をするような行動をしたりしてはいけませんが、恐らく欧米諸国、特に欧州各国はその教訓を学ぶことはなく、また同じ過ちを繰り返すものと予想しています。

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国際交渉人も驚愕した中国が画策する仰天プラン

そして欧米諸国が当たり前のようにしてくる口出しは、面子を重んじる中国にとっては許容できないものと捉えられ、すでにアメリカと共に対中包囲網に参加している欧州を中国が許すこともないと思われます。

ロシアと中国は中央アジア・コーカサスにおいて利害対立を経験していますが、欧米主導の世界秩序と余計な口出しに対しての共同戦線をはることでは合意しており、今はウクライナおよび地域からの欧米の影響力の排除に動いています。

そこで驚く内容を耳にしたのが、ウクライナの領土保全と停戦のために、NATOではなく、中国(と協力国)が平和維持・監視部隊をウクライナに派遣するという内容です。

これについては裏付けが取れていませんが、複数ルートから聞こえてくる情報であるため、注目に値すると思います。とはいえ、この案を支持するかと言えば微妙な感覚なのですが、もしロシア・ウクライナ双方が受け入れ可能であれば、それで停戦につなげることが出来ることになるため、それもありかとも考えます。

ただ想像に難くないように、ウクライナにおける戦後復興のディールから締め出されるG7各国とNATO諸国は中国による調停に激しく反発することになります。

そこで起きうるシナリオは2通り考えられます。

1つ目は【欧米諸国による工作で起きてしまう戦争の継続と激化】です。この場合、すでに現在起きているように、欧州各国は共同武器弾薬融通システムによって戦時体制での軍事物資の生産に入り、すでに売り先・供給先が決まっている状態ですので、戦争が継続することで、沈み込んだ経済を復活させる起爆剤になり得ます。とはいえ、それはウクライナ国民の多大な犠牲と、欧州各国市民の経済的なさらなる犠牲のもとになされることになるという現実が突き付けられます。

欧米諸国が巡らせるエゴイスティックなどす黒い思惑

2つ目は【欧米諸国とその仲間たちの間での分裂】です。ロシアによるウクライナ侵攻から1年経ってはっきりしてきているのは、欧米諸国とその仲間たちの関心は、戦争の終結や勝敗よりも、戦後のウクライナ、そして弱体化したと思われるロシアにおける利権の獲得に集中していることです。

かつてのイラク戦争の裏で繰り広げられた欧米諸国による石油利権争いがそのいい(悪い)例ですが、穀物、鉱物、そして豊富なエネルギーを握るロシア・ウクライナにおいて、いかに自国の影響力を拡大するかに、欧米諸国とその仲間たちの関心が移っています。

このような状況下で起きうるのが、ロシアへの対抗とウクライナ支援で一枚岩になっていたはずの姿勢が揺らぎ、それぞれが仲間を出し抜こうとする、何ともどす黒い思惑・企てです。

陰謀論だと揶揄されるかもしれませんが、イラクやアフリカ各地の紛争で起きたように、残念ながら必ず欧米諸国は分裂します。

ロシアとの距離の近さを活かしてフランスはロシアに取り入るかもしれませんが、同時にウクライナにも触手を伸ばしています。英国はあからさまにウクライナに触手を伸ばしていますし、ドイツは表立ってはロシア批判を繰り広げつつも、すでにドイツ政界の深部にまでしみ込んでいるロシアの影響力を反映して、ロシアとの関係維持に努めつつ、同時に戦後のロシアに対する力のバランスを少しでも有利にするために、ウクライナを通じてロシアをできるだけ弱体化させたいと考えて動いています。

アメリカは、特にバイデン大統領はロシアが大嫌いという思いではありますが、外交安全保障上の重点は中国を含むアジア太平洋に置かれており、一刻も早く中国との対峙に専念することを目的として、ウクライナを支援し、ロシアを弱体化してアメリカにとっての近未来的な脅威にならないようにしたいと画策していると思われます。

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中露との断絶は不可能。G7の議長国・日本の苦悩

もしこのような構図がすでにできているか、今回の中国による調停・仲介申し立てによってできつつあるのであれば、これこそプーチン大統領が狙い、習近平国家主席の中国が狙う欧米による反中ロ包囲網の切り崩しに向けて着々と進んでいることになります。

それは言い換えると【欧米諸国の分断】であり、G7の弱体化につながり、そして新しい世界秩序作りに向けた動きに繋がることになります。

そのような混沌とした国際情勢において、今年G7の議長国を務める日本はどのように動くとよいのでしょうか?

他のG7諸国と大きく違うのは、その地政学的な位置づけでしょう。中国が隣にいて、ロシアも極東部で隣にいます。残念ながら、他のG7諸国と違って中国と断絶した国際情勢を選択することはできませんし、エネルギー安全保障上のジレンマから、ロシアとの断交もまた選択肢として存在しないと考えられます。ゆえに、中ロとの付き合いをやめるわけにはいかず、何らかの形で復旧可能な状態をキープしておかなくてはなりません。

G7諸国から見れば、日本の存在は中国とロシアに対する勢力拡大阻止のためのストッパーという位置づけだと聞いたことがありますが、その道を今年日本は選ぶことにするのでしょうか?

それとも、先週号で私が望んだように、トルコが大地震後の影響に忙殺されている中、ロシア・ウクライナの戦争のみならず、国際情勢のこれ以上の分断を回避するための調停役を果たすことを目指すのでしょうか?

【関連】トルコ地震が潰したプーチンとゼレンスキーの直接対話。代わる仲介役は日本しかない理由

もしそうだとするならば、中国にそのお株を奪われることなく、要せば中国とも協力して、ぜひ国際情勢のバランサーとしての役目を極めていただきたいと願います。

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経ちます。これからの国際情勢はどうなっていくのか?

その中でいろいろな役割を果たす身として、とても懸念を抱くと同時に、なぜかとてもワクワクしています。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

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