WBCでその手腕を存分に発揮した日本代表・栗山英樹監督。彼のような優れた指導者になるには、何を学ぶべきなのでしょうか。今回、無料メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』で土井英司さんが紹介するのは、 栗山監督の愛読書として紹介されたマネジメント本です。
栗山監督の愛読書⇒『人の用い方』
『人の用い方』
井原隆一・著 日本経営合理化協会
こんにちは、土井英司です。
本日ご紹介する一冊は、週刊文春3月16日号で、WBC栗山監督の愛読書として紹介された注目のマネジメント本。
現状、在庫がなくてネットで価格が高騰していますが、4月中旬に増刷分が上がるそうなので、賢明なBBM読者は、その頃を狙って買いましょう。
WBC(ワールド・ベースボール・クラシックス)の期間中、栗山監督の采配にはいろいろ謎なところがありましたが、最後、ずっと不調だった村上選手が同点弾を放ち、チームが世界一に輝いた時、「優れた指導者というのは、周囲がそれに報いようとして、頑張るものなんだな」と理解しました。
合理性で割り切っては理解できない、マネジメントの奥深さを見た気がしました。
その栗山監督がマネジメントを学んだ愛読書、ということになれば、これが食指が動かぬはずはありません。
著者の井原隆一さんは、14歳で埼玉銀行(現りそな銀行)に入行し、18歳で夜間中学を卒業、父の死後背負った莫大な借金を、銀行から帰った後、家業を手伝いながら完済した人物です(育てた祖父は、「学問すればものぐさになる。詩を作るより田を作れ」という老農だったそうです)。
銀行では、最年少で課長に抜擢され、証券課長時代にはスターリン暴落を予測し、直後に保有株式証券をすべて整理、経理部長時代には日本で初めてコンピュータオンライン化するなど、その先見性が広く注目され、筆頭専務にまで上りつめました。
60歳の時には、大赤字と労働争議で危機に陥った会社を独自の再建策で救い、短期間で大幅黒字・無借金の優良会社に蘇らせた、名経営者として知られる人物だそうです(2009年逝去)。
本書は、そんな著者が中国の故事を引きながら、マネジメントの要諦を説く内容。
身につまされる話ばかりで、数十ページ読んでみて、何でもっと早く出合わなかったんだろう、と本気で後悔した一冊です。
さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。
「人に事うるを知る者にして、然る後に以て人を使うべし」
『孟子』は、「呼び捨てできない部下をもて」とも説いている。師に足るほどの部下をもてということであるが、よく人を用いる者の共通点の一つでもある
「では、一言で国を亡ぼさせる言葉はあるだろうか」というつづいての質問に、「やはり、質問の主旨に近い言葉があります。諺に“われは君たるを楽しまず。ただ物言いてわれに逆らう者なきを楽しむ”とあります。もし、良いことをいったために逆らわれないのならいうことはありませんが、悪いことをいっても君主たるがゆえに下が逆らわないということになりますと、この諺は国を滅亡させる言葉ともなりましょう」(『論語』のくだり)
「近き者説べば、遠き者来たらん」
「経営とは近き者を喜ばせるにあり」
年少者がトップを慕うのは、思いやりがあり、自分を成長させるための手本と考えるからである。人間とは、年若いときからより立派な人間になろうと考えているものである。そのため、それを助けるような人物に魅力を感じる
「林深ければ則ち鳥棲み、水広ければ則ち魚游ぶ。仁義積めば則ち物自ら之に帰す」(『貞観政要』の言葉)
人の長所が見えて自分の短所が見えるようであれば進歩するが、人の短所だけが見えるようでは進歩の芽を自ら摘むことになる
真に喜びを与えようとするなら、本性を伸ばし、人材に育てあげること
高弟の子貢が、政治の目標についてきいたとき孔子はこう答えている。「食糧の充実、軍備の充実、人民の間の信義の三つだ」と。子貢が再びきいた。「その三つのうち一つ外すとしたら、どれにすべきでしょうか」「それは軍備だ」「残り二つのうち一つ外すとしたら、どれでしょうか」「もちろん食糧だ。信義が失われては、生きていてもその甲斐がないではないか」
「寄らば大樹の陰」という気風を残している間は、真の組織の活性化は望むべくもない。寄るべき樹を切り倒してしまえば、死地に涼を求めることになる
「財を望んで財に頼らず」
名言ばかりで、どこを取り上げるのか迷うほどの名著です。
過去の自分の至らなさと、栗山監督の見事な采配と照らし合わせながら読むと、なるほど人を用いるとはこういうことなのかと、腑に落ちることだらけでした。
ある程度歳を重ね、人の上に立つ経験をしてから読むと、さらに味わい深い一冊だと思います。
ぜひ、読んでみてください。
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