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Marching Band Trumpets

世界中から称賛の嵐。京都橘高校吹奏楽部の演奏に感動するワケ

京都橘高校吹奏楽部をご存知でしょうか? メディアにも多く取り上げられる彼女たちの演技は、動画サイトにもアップされ高く評価されています。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、京都橘高校吹奏楽部の動画はなぜ感動するのか、その理由を探っています。

1.京都橘高校吹奏楽部の動画に感動する理由

最近、京都橘高校吹奏楽部の“SING! SING! SING!”の動画を見続けています。何度観ても素晴らしいし、あれだけ激しいダンスをしながら笑顔で演奏するのは生半可なことではありません。しかも音の質がとても高い。

海外からの反応だけをまとめた動画も何本もあり、世界中から驚愕の声が届いています。

「どうしたら、あんな演奏ができるんだ」
「彼女たちが高校生だというのが信じられない、プロではないのか」

等々です。

彼女たちの凄さについて、日本人の私が考察してみたいと思います。

2.中学時代からの憧れ

まず、彼女たちは高校生です。高校生活は3年間しかありません。3年間で完璧に仕上げています。普通ならば演奏するだけで精一杯で、ダンスしながら演奏する段階まで行かないでしょう。それでも、毎年超難関プログラムを完成させ、その伝統を守っています。しかも、一人や二人の天才の話ではなく、100人以上の部員のレベルを上げているのです。

伝統の力というのは非常に大きいと思います。なぜなら、橘高校吹奏楽部に入部してくる新入生はほとんどが中学時代は吹奏楽部に所属しており、優秀な学生たちが集まってきます。彼女たちは、もちろん過去の橘高校吹奏楽部のパフォーマンスを見て、自分もやってみたいと思っているのです。もちろん、全員が経験者というわけでもないでしょう。それでも、強い憧れを持って入部してくることに変わりはありません。

つまり、彼女たちは中学校の3年間と高校の3年間の6年間で世界を驚愕させるレベルに達しているのです。

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3.泣きながら練習し、泣きながら笑う

しかし、いくら強い憧れと動機を持っていたとしても、練習は過酷を究めます。中学校から楽器の演奏に慣れている部員も行進しながらの演奏は未経験です。最初は列の間隔も歩く速度もバラバラです。楽器を持ってターンをすると周囲とぶつかってしまいます。

海外からは「規律の高さ」を評価する声が多いのですが、あの規律の高さは「強制」からは生れません。自発的にやりたいと思ってやっているからできるのです。

練習風景のテレビ番組を見ましたが、多分全員が一度は泣いていると思います。どんなに頑張ってもうまくできない自分が悔しいのです。

そんな時に、先輩に相談に行きます。先輩たちも同様の経験をしています。だから、後輩の立場に立って親身になって教えます。後輩にうまく指導できないことで、先輩も泣きます。部員がまとまらないと部長が泣きます。

その中で、「マーチングは何のためにやるんだ」と先生に問われます。軍隊ならば、威厳を見せるためです。でも、高校生のマーチングは、「観客に喜んでもらうため」「観客の笑顔を引き出すため」だと教えます。練習段階では、泣きながら笑っています。それが最終的には本当の笑顔になっています。

行進しながら、周囲に手を振ったり、観客に近づいて握手をするのも、観客に喜んでもらうためです。あの笑顔や行為はマニュアル化されているわけではなく、部員たちの自発的な行為です。だから、尊いのです。

4.成長期の高校生だから克服できる

最初はできない困難な課題も継続しているうちにできるようになります。一つ一つ階段を昇って、最終的にはダンスをしながら演奏できようになるのです。

なぜでしょう。それは、高校生だからです。最も身長が伸び、体力が向上し、精神も頭脳も成長する時期です。その時期に、モチベーションを高く維持し、一つのことに集中して努力することで、課題は克服されます。

そして、伝統というのは、その蓄積です。先輩ができたんだから、私にもできる。仲間にできたんだから私にもできる。後輩ができているんだから、私にもできる。そういう成功事例に囲まれて、毎日厳しい練習を継続することはとても大変ですが、同時に課題を一つずつ克服していった成功体験の積み重ねでもあります。

多分、大人が実現不可能な課題を与えられても実現できないと思います。そういう意味ではプロにはできないレベルです。プロは生活のため、お金のために努力しますが、高校生の努力はもっと純粋な努力です。

逆に言うと、世界レベルのプロは、高校生のような純粋な努力ができる人であり、それができるのも才能の一つだと思います。

5.「カワイイ」のパワー

高校生には規律の高さや技術の高さだけではない魅力があります。それは「カワイイ」です。

「カワイイ」という価値観は女子高生では最強です。過酷な練習に耐えられるのも「カワイイ」があるからです。泣いてる時にも、「そんな顔してたらカワイクないよ」と言われると、「本当だね」と納得できます。「カワイイ」を保つことは人間らしさを保つことでもあり、髪振り乱して努力するのはカワイクない。辛い練習の時にも、前髪に気を使うことで正気を保っているのかもしれません。

女子高生が冬でも素足にミニスカートを履いているのは、「カワイイ」を保つためです。実際には凍えるほど寒いのに、根性でカワイイを保っています。

重い楽器を抱えながら、マーチングするのも同じ原理です。体中の筋肉は悲鳴を上げていても、根性で「カワイイ」を保って、笑顔を維持している。

大人になると、カワイイはビジネスに取り込まれてしまいます。カワイイをお金で売るか、あるいは、カワイイから卒業してしまいます。カワイイパワーは失われるのです。

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6.目標と練習と発表

なぜ、彼女たちは精神的にも肉体的にも限界に挑戦するようなトレーニングを継続できるのでしょうか。

彼女たちには、常に克服すべき課題があります。譜面通りに演奏できるようになること。歩きながら楽器を演奏できること。コンクールのメンバーになること。ソロのパートを担当すること。

個人の目標と共に、部全体の目標もあります。コンクールの地区予選を勝ち上がり、全国大会で金賞を取ること。

その他にも、学校の授業に遅れず、試験で及第点を取り、大学進学を目指すという普通の高校生の活動もあります。

アメリカや台湾に出かけて、パレードに参加することは、ある意味でオプションの一つです。あまりにもルーティンが過酷なので、大きな舞台に立っても緊張する余裕はないでしょう。とにかく、目の前の課題を達成し、周囲の人に喜んでもらうこと。そして自分も楽しむこと。自分が楽しめないようでは、周囲の観衆も楽しめないからです。

彼女たちは、誰一人として、自分だけ目立とうとは考えていません。完全なるチームとして機能しています。そういう意味では、個人主義の欧米人には難しいかもしれません。

演奏者としてのチームと高校生としてのカワイイチーム。それが共存し、彼女たちの心が伝わってくるからこそ、観客もさわやかで清々しく、かつパワフルなエネルギーを感じることができるのだと思います。

編集後記「締めの都々逸」

「歳はとっても 涙は出るさ オレンジ染まる マーチング」

最近は、やたらにAIが話題ですが、AIには絶対できないこと。それが橘高校吹奏楽部のマーチングです。もちろん、橘高校だけが凄いのではなく、他にも演奏が上手な高校はあります。でも、踊りながら演奏するというのはオンリーワンです。その動画を観て感動する海外の人も多く、海外の声を集めている動画も沢山存在します。しかし、そこで語られる感想はやはり浅い。ということで、自分の考えをまとめてみました。

規律が凄いとか、指導者が良いのだろうとか。確かに指導者は立派な人ですが、強制されたのでは、あのレベルには達しません。彼女たちは、「もう一度やらせてください」と先生に頼みに行くのです。

練習の涙を乗り越えて、本番の笑顔が生れます。それが伝わってきて、何ともいえない感動をもたらすんですね。尊いことです。日本のJK最強です。(坂口昌章)

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