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ChatGPTの普及でキャバクラ消滅?Windows生みの親・中島聡が「AIとオタク文化の融合が日本を救う」と考えるワケ

AI時代到来を予感させるChatGPTが、世界中で大きな話題となっています。4月10日には、ChatGPTを運営するOpenAI社のCEO、サム・アルトマン氏が来日し、岸田首相と電撃面会しました。なぜサム・アルトマン氏は、日本を最初の訪問国に選んだのか?また、ChatGPTはGAFAMなどプラットフォーマーの勢力図をどのように塗り替えるのか?マイクロソフトでWindowsやインターネットエクスプローラーの開発を指揮した伝説のプログラマーでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者である中島聡さんに、ChatGPTが世界に与える衝撃について聞きました。(取材・文・撮影/ゴン川野)

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

ChatGPTの利用率が世界一の日本人

──Windows95やIEなど、世界を変えるプログラムを開発した中島さんから見て、ChatGPTはどんな存在なのでしょうか?

ChatGPTを使ってみたときに、初めてプログラミングに出会った感動に近いものを覚えました。データサイエンティストが作った生の素材、生肉を料理できることが嬉しいんですよ。いまは私も含め、みんなで「あんな料理ができる、こんな料理もできる」と、色々と試しているところですが、間違いなくアプリ開発に革命を起こしますよ。今までなら、スマホアプリを作るのにコツコツと作業していた部分が必要なくなるんですから。ChatGPTの波に乗れないアプリ開発企業は、淘汰されていくでしょうね。

──ChatGPTを運営するOpenAIのサム・アルトマンCEOは、4月10日、岸田首相を電撃訪問しました。なぜ、OpenAIは日本を第一の訪問先として選択したのでしょうか?

おそらく、ChatGPTの利用率を諸外国と比較した場合に、日本人ユーザーの占める割合が異常に高かったのではないでしょうか? ChatGPTは、1日に100万人が利用していると言われていますが、人口対比で見た場合の利用率が、日本は飛び抜けていたのかもしれません。

アメリカの場合、ユーザー数は確かに多いのですが、ChatGPTを利用している人は、大部分が専門家です。日本のように一般ユーザーが関心を持っているわけではありません。日本人は元々、新しいものに飛びつく傾向がありますよね。Twitterもそうでしたが、一般の人まで普通に面白がってChatGPTを使っている。こういう国は非常に珍しかったんだと思います。

また、日本に訪問したもうひとつの目的として考えられるのは、ChatGPTの多言語化戦略にマッチしていたということです。OpenAIが貯めている言語データは、もちろん英語が一番多い。諸外国の論文、たとえばドイツなど欧州の論文なども、最終的には英語で発表されているので、英語のデータは豊富に持っているはずです。でも、日本の場合は、論文などは日本語で発表されていますよね。これからChatGPTは多言語化を狙っていくと思うので、その第一歩として日本語を利用して多言語習得の知見を得たいと考え、最初の国として日本を選んだのかもしれません。言語を使う人口の多さでは、中国語の方がいいのかもしれませんが、現在の米中関係を考えたら、それを進めていくのも難しい。日本が最適だったのでしょう。

岸田首相も日本政府も、OpenAIの意図やChatGPTの内容は何もわかっていないでしょうが、ChatGPT4の発表後に、アルトマンCEOが最初に来た国で首相と会談までしたという意味は大きい。誰かが裏でセッティングしたのでしょうが、その人には先見の明があるなと思いますね。

追い詰められたGoogle。GAFAM“AI戦争”で各社が打つ手とは

──ChatGPTに注目が集まり、OpenAIのパートナーであるマイクロソフトが、GAFAMの中で一歩リードしたと考えていいのでしょうか?

多少の差はあるかもしれませんが、最終的に勝負を決めるのは技術力です。AIの技術力をもっているのはGAFAMなどの巨大企業です。技術開発にはものすごいお金がかかるので、小さな会社が戦える領域では、すでになくなってしまいました。現在のクラウドサービスと同じように、AIでも最終的に生き残るのは、GAFAMなどの巨大企業であることに変わりないでしょう。

ただ、現状だけをみると、Googleは追い込まれていますね。これからはChatGPTのせいでGoogle広告収入は減っていくはずです。というのも、Googleは検索結果をリンク表示することで広告費を稼いでいましたが、ChatGPTは文章で答えるので、リンクは表示されません。Googleは広告収入が得られなくなります。

また、現在、Googleは検索プラットフォーマーとして他社を圧倒していますが、今後はGoogleの代わりにChatGPTを検索に使う人が増えていくはずです。そうなると、Googleの広告売上は増々下がり、OpenAIの売上は上がることになる。ChatGPTに対抗するためにGoogleも、さらに進化した検索機能を開発する必要性に迫られています。

でも、こうやって相手の力をどんどんと削いでいくのはマイクロソフトの常套手段なので、その作戦が現在では見事にハマった形になっていますね。

AppleはSiriを進化させる必要性に迫られるでしょう。iPhoneのSiriは、今度のOSのアップデートで大きな成果を見せないと間に合わないと思います。後追いの立場は苦しいですよ。完成度の高いものを出さないと評価されないし、新機能がないと評価されない。今のSiriは、ChatGPT3のレベルにも追いついていない。この段階から進化させるのは大変です。

あとはAIのトレーニングの面をどうするかですね。何万台ものスーパーコンピュータを何日間も動かし続けてビッグデータを取り込むのは、インフラとしてやればいい話ですが、ランタイムをサーバーに置くのか、端末に実装するのかという問題はあります。たとえばOpenAIは全てサーバーで処理していますが、重くなるという難点があります。いまは赤字を垂れ流している状態でしょう。もしも私がAppleの担当者だったら、ランタイムはiPhoneに実装させて、バックエンドにChatGPT4のようなものを置く方法を選びます。性能的には多少劣るかもしれませんが、手元に置けるAIとしてiPhoneを活用するという形にします。

Amazonのアレクサにも同様のことが言えます。同じ対話型の機器として、ChatGPTのような性能が要求されるでしょう。これにMetaとMicrosoftを加えた5社、そして中国の百度あたりで勝負していくのが、今後のAI戦争の構図になるのではないでしょうか。

聞く側が賢くないと、ChatGPTは使いこなせない

──ChatGPTを中島さんご自身はどのように活用していますか?

ChatGPT3から4では驚くべき進化を遂げています。職業によっては人間よりもChatGPT4の方が優れているのでは?とすら思います。たとえば、特許を取る作業などは、ChatGPT4に書類を作ってもらって、私はサインするだけということにしています。そういった書面を作る作業は、もうChatGPTに任せられるレベルにあります。

また、言いたいことをわかりやすく解説し、直してもらうことにとても役に立ちますね。先日、あるアルゴリズムをZoomを使って言葉で説明しようとしたのですが、うまく理解してもらえないということがありました。そこで、そのアルゴリズムをうまく説明するための相談をChatGPTにしてみました。アルゴリズムの説明を文章化するときにChatGPT4に投げかけて、理解してもらって、その上でお前が文章書けよと言うと、キッチリとした文章を書いてくれます。

ここから分かることは、ChatGPTは創造性はそんなにないが、理解力は凄い。きちんと説明できれば、それを整理整頓して分かりやすくまとめてくれるという能力が高い。論文にするとか、特許申請するということが得意なんです。漠然とした質問には、ありきたりの答えや、時には間違った答えが返ってきます。しかし、正確なデータを与えれば、的確な答えが返ってくるんです。

ブレスト(brainstorming)相手としても有効に活用できますね。人と会話するときは、こちらの意図が相手に伝わっているかどうか、相手の反応を見ながら普通は対話をするじゃないですか。人間が相手の場合は、相手の理解力によっては、8出しても3しか理解してくれないことがありますが、ChatGPTならば、8出したら8伝わる。素直に理解してくれるので、作業の速度と精度が上がります。

新人教育の機会を奪うChatGPT

──もはやChatGPTがない世界は考えられなくなりそうですね。

複雑な計算するのに電卓を使わないのがナンセンスのように、論文を書く、特許申請書を書く、アルゴリズムを説明するといったようなときに、ChatGPTが必要不可欠になると思います。教育ではChatGPTが今問題になっていますが、ChatGPTを大学で学生に使わせないというのはおかしい。これからは論文を書くときに、ChatGPTを使うのを前提に、出題する側が考える必要があります。

たとえば、英語の課題を評価するときに、昔ならスペルミスで減点ということがありましたが、これからはそこに盛り込まれたアイデアや内容で評価されるようになるでしょう。何かについて調べるという課題ではなく、生徒のクリエイティビティが発揮できる課題作りが求められるわけですね。

今やプログラミングもChatGPTに書かせるプログラマーもいますが、こうなると新人のエンジニアに求められるスキルが高くなる可能性があります。ChatGPTが書いたプログラムが正しいかどうかを判断するスキルが求められてくるからです。それに全部のプログラムをChatGPTに書かせればいいかと言えば、そうでもないと僕は思います。

でも、ChatGPTが誤っているのかどうかが判断できるレベルまで、どのタイミングでエンジニアは学ぶことができるのかという問題があります。社会の階段を登るのが難しくなってくるんです。これまではエンジニアは新卒で採用されると、つまらない仕事を最初はやらされます。いわゆる下積み時代ですね。この作業をChatGPTがやってしまうと、若い人の仕事はなくなります。新人なのに、ある時、突然「お前ChatGPTを使ってプログラム書け」と言われる。すると出てきたプログラムがいいのか悪いのかを判断できない。そんな新人が出てくるのが心配です。まあ、そうなれば、そんな新人を教育するためのChatGPTのプロンプトが出てくるのかもしれませんが。

AIならば完全犯罪も可能。各国が規制に走る理由

──このように進化するAIに対して各国で規制すべき、という考え方が出てきています。中島さんはどのようにお考えですか?

AIの普及を止めることは誰にもできません。でも、政府が何らかの規制を加えなければカオス状態になってしまいます。まず、日本政府は有識者会議を開いて、AIの問題点について検討することです。問題点を洗い出したら、政府としてそれにどう対処するか。開発している会社に対して何らかの規制をする必要があるのかを検討すべきです。失業者が増える可能性があるだけならば、規制の必要はありません。でも、たとえばChatGPTに「毒殺と分からないように人を殺すための薬を市販薬だけで作るにはどうしたらいいか?」という質問に答えられては困るわけです。このようなことも、現在はあくまで自主規制に頼っているだけなんです。

インターネットが誕生したときも核爆弾の作り方が公開されたり、3Dプリンターが出来たときには拳銃が作れるようになったりと問題は起こりましたが、同様の危険性がAIには潜んでいます。

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AIとオタク文化は相性抜群。スナックやキャバクラは消滅も?

──AIがどんどんと進化していくなかで、日本だけが置いてきぼりになるという懸念はないのでしょうか?

以前、バーチャル彼女が作れるような商品が、日本で発売されたというニュースを見たことがあります。3Dホログラムのキャラクターが、朝起こしてくれて、お見送り、お迎え、外出中もスマホでチャットしたり、着替えや食事なども一緒にできるというものでした。

このバーチャル彼女のようなものを、ChatGPTに対応させていけば、何でもできるようになりますね。セラピストとして活用できますし、スマホ対応にしてLINEでチャットもできます。僕が考えていたのは、その日のニュースで自分に興味がありそうなものだけを、彼女が選んで読んでくれるような機能です。一緒に家でNetflixを見て感想を聞いてくれるとか……スナックに行くよりも、バーチャル彼女と家で飲んでいた方がいいということになりますよ。キャラクター設定もできて、今日の運勢や天気予報も読んでくれる。バーチャル彼女は英語を教えるとか家庭教師もできますよね。こういうものを生み出せるのは日本ならではと思います。ただ、さらに少子化は進むかもしれませんけどね。

参考:Gatebox、ChatGPTによる新型AIキャラクター開発でクラウドファンディングを開始

AmazonのAWSのように、AI時代となってもGAFAMは巨大なインフラとして存在し続けるはずです。日本も、すでにあるオタク的な独自カルチャーをAIを利用すれば、面白いものを作れるのではないでしょうか。

(取材・文・撮影/ゴン川野)

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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