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ホンマでっか池田教授が説く「コオロギ食バッシング」デマの構造

SNSで噴出した「コオロギ食」バッシングの背景として、前回記事で、昆虫食どころか昆虫そのものが身近でなくなったことによる嫌悪感を指摘したのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、「コオロギ食」に関するデマを具体的に取り上げて検証し、SNSが作り出す「現代版オカルト」の構造をあぶり出しています。

現代版オカルトのデマの構造

前回は、科学が発達してきて、ごく一部の専門家しか、ある科学理論の当否を判断できなくなった現代社会では、少なからぬ人がSNSというおもちゃを駆使して、その感性はだんだん中世の迷信社会に近づいていると述べたが、中・近世の迷信と現代社会のオカルトは、エビデンスも再現可能性もないという点では同じだが、社会的な存在様式が異なるのだ。

中・近世の迷信は、信じるか信じないかはともかくとして、地域社会のほぼ全員に共有されていた言説であり、長い伝承性を持つが、現代のオカルトの多くは、SNS上で、一部の人たちに一瞬で広がり、線香花火のように消えていくことが多い。

中・近世の迷信には科学的エビデンスという概念はもちろん存在しないが、現代のオカルトは、科学的なエビデンスらしきものやごく常識的な主張が言説の一部に含まれていることが多く、なんとなく正しそうに見えるように装っているので、論理的思考力がない人が騙され易くできている。

これは、現代版オカルトに見られるデマの特徴で、このメルマガではコオロギ食バッシングと、新型コロナワクチン接種に対するバッシングについて、いくつかの事例を紹介したい。コオロギを食って死んだ人はいないが(日本では聞かないが、外国では、甲殻類アレルギーの人で、コオロギを食って死んだ人がいるかもしれない)、新型コロナのワクチンを打って死んだ人がいるという違いはあるが、デマの構造は良く似ている。

まず、前回でも述べたコオロギ食バッシングについて、いくつかの事例をこの観点から説明したい。最初に紹介するのは、日本では伝統的にイナゴは食べられていたが、コオロギを食べる習慣はなかったので、コオロギを食べると不都合が起きるという言説である。

確かに日本では、イナゴは伝統食として、日本各地で良く食べられていたし、コオロギはあまり食べられていなかったのは事実である。オカルトのオカルトたる所以は、ここから非論理的な飛躍をして、日本人が食べなかったのは、コオロギは日本人には毒だからだ、あるいは、日本人はコオロギを分解する消化酵素を持っていないからだ、という結論にもっていったことだ。

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日本人は伝統的にコオロギをあまり食べなかったというのは事実であるが、上記の言説で正しいのはそこだけで、後は全くエビデンスがないホラ話である。生物学の知識がほんの僅かでもあれば、人体の構造と機能は、基本的に人類共通なのは、わかりそうなそうなもので、コオロギを消化する酵素を日本人だけ持っていないなんてありえないし、東南アジアで、常食されているコオロギが日本人にだけ毒ということもあり得ないのは、当たり前だと思うのだけれども、常識はSNSで「いいね」が付く快感には勝てないのだろうか。

付言すれば、かつて、日本ではコオロギが食べられていなかったというのもウソで、武田徳雄が1931年に出版した論考(信州安曇野地方に於ける食用昆虫『博物同志会会報』)によれば、コオロギは山形県や長野県では、良く食べられていたようだ。長野県では、焼いて食べるほか、コオロギの脚をすり潰して味噌と合わせたコオロギ味噌も作られていたという。

コオロギ食バッシングに係るデマ言説の事例をあと2件挙げたい。いずれも、メインの主張はごく常識的なものなのだが、その主張を裏付ける事実に根本的な誤謬があって、メインの主張が破綻するというものだ。

最初の事例は、原材料の表示を正確にしないと、知らないうちにコオロギを食べさせられる、という主張で、これは真に尤もなのだが、あたかも、コオロギを使った食品の原材料名表示にコオロギを入れなくてもいいかのような言説で、これは意図的な誤解である。私が原材料名は必ず記されるはずだとの指摘をした際のレスポンスの一つは、名前はドライクリケット、グリラスパウダー、シートリア、サーキュラーフードとどんどん変えることができるので、何が入っているかわからなくなるというものであった。

これは、食品表示法を理解していないか、意図的に誤解して、コオロギを食いたくない人の嫌悪を煽る言説である。上記した4つの名前が実際にあるかどうかは知らないが、あるとしても商品の名前で、原材料名ではないので、これらの名前を原材料として表示すると、食品表示法違反になる。原材料名をコオロギ粉末もしくはコオロギパウダーとする代りに、グリラスパウダーと表示すると販売できないのだから、企業がそんな表示をするはずがない。

もう一つの事例は、徳島県の高校で、給食にコオロギパウダーを使ったカボチャコロッケ、コオロギエキスを使った大学イモが出されたというニュースを受けて、給食という形で全員にコオロギを食べさせるのは問題だ、との意見に賛同する人たちが、高校をバッシングしたという事件である。

本人の意思を考慮せずに、給食という形で全員にコオロギを食べさせるのは問題だ、という意見は真に正論である。しかし、事実をよく調べてみると、これは生徒たちが、コオロギの食品化を推進しているグリラス(徳島大学発のベンチャー企業)の協力を受けて、自主的にコオロギ入りの食品を作り、甲殻類アレルギーの人には注意を促して、生徒や職員の希望者に試食してもらったという話で、試食者にはおおむね好評だったようである。(一部抜粋)

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image by:Shutterstock.com

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