聞く力を看板に総裁選を勝ち抜くも、政権の長となるや国民の声などには聞く耳も持たずアメリカの言いなりとなり、ひたすら軍事化路線をひた走る岸田首相。「平和国家」を捨て去りつつある我が国にはこの先、どのような未来が待っているのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、著者で『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作でも知られる辻野晃一郎さんが、田中角栄氏が残した言葉を引きつつ軍拡に進む政権を強く批判。さらに国民に対しては、政治家たちへの警戒心を持ち続ける重要性を訴えています。
現実となる田中角栄の危惧。日本を軍事国家にする戦争を知らない議員
5月3日は憲法記念日でしたが、日本は今、国の形を大きく変えつつあります。しかし、果たしてどれだけの人がそのことに切実な危機意識を感じて向き合っているのかと思うと、やや心もとない気がします。政治腐敗を物語る具体事例は数多くありますので、今後もおいおい取り上げて行きたいと思いますが、今最も深刻なのは、戦後80年近く積み上げてきた「平和国家日本」という大切なアイデンティティを、日本政府が憲法を無視し、国民との明確な合意なしに捨て去りつつあることです。まず今号では、特にそのことにフォーカスして論じます。
私が日本の政治に強い違和感を覚え始めたのは、第二次安倍政権下で安保法制が強行採決された2015年頃、正確には、その前年の2014年4月1日の閣議決定で武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に置き換えられた頃からです。戦争を放棄し平和を誓った国が、にわかに変節し始めたような恐怖感を覚えました。それまでは、もともと政治にさして関心があるわけではありませんでしたし、日本の戦後政治はそのほとんどを自民党政権が担ってきたこともありますので、一経済人の立場からも、自民党政治にそこまで大きな違和感を抱くことはありませんでした。
ただ、大学生の時、当時の田中角栄首相の金権政治をジャーナリストの立花隆さんが糾弾していた時代に、田中角栄の金権体質を批判する小論文を書いて文藝春秋に投稿し、月刊文藝春秋に掲載されたことがあります。理系の学生でありながら、何故そんな投稿をしたのかはよく覚えていません(笑)。今から思えば、若い正義感をひけらかしたようなつたない内容でお恥ずかしい限りなのですが、同時に掲載されていた他の投稿を読むと、田中角栄と一度でも面識のある人の投稿には、その人間力に魅了されたような内容の投稿が多かったのが印象的でした。
豪快な政治家として数々のエピソードを残す田中角栄は、金権政治で「巨悪」と指弾されながらも、多くの政治家たちから「オヤジ」と慕われ、ロッキード事件で有罪が確定してからも、地元を始め多くの支持者に慕われ続けました。
後年、その田中角栄が通産大臣時代や首相時代に秘書官として仕えた元通産省事務次官で、「日本列島改造論」を実質的に取りまとめた小長啓一さんとご縁ができ、田中角栄の思い出話を直接伺う機会がありました。小長さんによると、田中角栄のリーダーとしての資質は抜群で、彼の「構想力」「決断力」「実行力」「交渉力」「説得力」「人間力」は群を抜いて圧倒的であったと回想されていました。
その田中角栄が残したといわれる言葉の中に、以下のようなものがあります。
戦争を知っている奴が世の中の中心である限り日本は安全だ。しかし戦争を知らない奴が出てきて日本の中核になったときは怖い。
将来、憲法改定があったとしても9条だけには触ってはならない、とも断言していたそうです。
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「戦争を知らない政治家」安倍晋三の大暴走
おそらくそれは、田中角栄自身が二等兵として満州の戦場に赴むき、砲弾や銃弾が飛び交う戦地の体験があり、戦争の悲惨さや虚しさを誰よりも痛感していたからでしょう。1970年代に、米国から泥沼化するベトナム戦争への自衛隊派遣の圧力をかけられたときにも、憲法9条を盾に断固拒否したと言われています。
先人たちが、戦争の反省の上に二度と同じ過ちを繰り返さない、との強い思いで忍耐強く築き上げてきた平和国家日本ですが、今、残念ながら田中角栄の予言通りになりつつあるようです。そして、先頭に立って別の新たな道を歩もうとした「戦争を知らない政治家」の代表格が、昨年7月に銃撃で亡くなった安倍晋三元首相であり、日本の政治腐敗を一気に加速させた張本人もこの安倍さんに他なりません。そう断じると、 安倍さんや安倍さんの路線を支持する人たちからは猛反発を受けるかもしれませんが、戦後世代の政治家として長期政権を築いた安倍さんがたどった道筋を冷静に検証することは、これからの日本の行く末を考える上でも避けて通ることはできません。そして安倍さんは、亡くなった今もなお、岸田政権や日本社会にその影響力を色濃く残しています。
安倍政権下では、前述した防衛装備移転三原則で実質的な武器輸出が解禁され、その後の安保法制の強行採決によって、結局憲法を改定することなく、俗に言う解釈改憲で9条違反にもあたる「集団的自衛権」があっさり容認されてしまいました。しかも、解釈を180度転換させるために、法の番人ともされる内閣法制局長官の首をすげ替えています。安倍さんや菅義偉さんが得意とした禁じ手的な手法ですね。この一連の流れについては、日本弁護士連合会(日弁連)も「我が国の歴史に大きな汚点を残すもの」と抗議をしています。
● 安保法は立憲主義に反し憲法違反です(日弁連ホームページ)
安倍さんは、首相を引退してからも亡くなる直前まで、声高に防衛費倍増を訴えて岸田政権に圧力をかけていましたが、さらに岸田政権では、敵基地攻撃能力だの、GDP比2%の防衛費倍増だの、防衛3文書の策定だのと、完全に歯止めが外れてしまいました。いつの間にか、国会でのまともな議論や国民への詳しい説明もないままに、国是とされてきた「戦争放棄」と「専守防衛」は実質的に破棄されたのも同然となり、我が国は、軽武装・経済優先の国から、重武装・軍事優先の国へと、国の形を大きく変えつつあります。武器輸出については、殺傷能力のある武器にまでその適用範囲が拡大されようとしています。
これらのシナリオは米国が強く望むものであり、米国防総省のFMS(Foreign Military Sales、対外有償軍事援助)という仕組みによる、言い値での米国製武器の浪費的爆買いにも繋がっています。これも大問題ですが、最も恐ろしいのは、集団的自衛権の容認により、米国の戦争に日本が巻き込まれることになるリスクが高まった、という点にあります。政府は、集団的自衛権の行使には、国家の存亡に関わる場合などの厳しい制約条件が付くとしているものの、今の弱腰な対米追従路線を続ける限り、米国からの支援要請を断れるとはとても思えません。そうなると、実質的には自衛隊が米軍の指揮命令系統に入って他国のために戦わねばならなくなる恐れもあります。
イラク戦争でも証明された通り、米国は戦争を起こすためなら同盟国にも平気でウソをつく国です。さらに言えば、世界で唯一人類に対して核攻撃を仕掛けた国は北朝鮮でもロシアでもなく米国です。そしてその標的となったのは日本です。米国は、私自身も若い時から大変お世話になっている国ですし、友人もたくさんいる国ですが、日本人が何故いとも簡単に米国に対しての警戒感を解いてしまうのかについてはかねてからの謎でもあります。
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「ゼレンスキーは英雄でプーチンは極悪人」という短絡
第二次安倍政権以降、対米追従を旨とする政府は、中国を必要以上に敵視して、ことあるごとに「台湾有事は日本有事」とか、「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方」という表現を好んで使います。ロシアのウクライナ侵攻が始まってからは「今日のウクライナは明日の東アジア」という表現も加わりました。しかし、これら国民の不安を煽るスローガンのような表現には十分な注意が必要です。
もちろん断言することはできないものの、現実論として、ロシア、中国、北朝鮮が、この先一方的に他国に侵攻する脅威がそれほど高いとは到底思えません。ウクライナで手一杯のロシアには、もはやそんな余力は残っていませんし、中国の習近平体制や北朝鮮の金正恩体制も、彼らが外向きにアピールしているほど盤石ではありません。中国の台湾有事や北朝鮮のミサイルにしても、ひとたび戦争を引き起こせば、戦争被害のみならず各国からの経済制裁など、とてつもない代償を支払わされることになりますが、それは彼等もよくわかっています。まあ、だからこそ戦争は軍事ビジネスとしてだけでなく、戦後復興ビジネスとしても儲かるのだよ、という一部の人たちがいるのは事実で、常に戦争を望み煽るのは、むしろ米英側の武器商人たちである、ということもよく言われるところです。実際、米英の軍需産業が政治に対して大きな力を持っていることは言うまでもありません。
われわれ日本人が特に注意しなければならないのは、どんなことにも必ず両面ある、という当たり前のことです。しかし、西側の価値観や正義感に染まっている日本人や日本のメディアは、西側からの一面的な色眼鏡で物事を単純に捉えがちです。ウクライナへのロシアの侵攻一つとっても、ゼレンスキーは英雄でプーチンは極悪人だと決めつけるのは、あまりにも短絡的過ぎます。ゼレンスキーは外交に失敗して他国の軍事侵攻を許した大統領です。また、ウクライナ政府ではもともと汚職が横行してきたことも広く知られています。
昨年3月にゼレンスキーが日本の国会議員たちにもオンラインで演説しましたが、その時に、れいわ新選組を除く与野党議員全員がスタンディングオベーションで彼を讃えました。ウクライナカラーに身を包んだ山東昭子参議院議長(当時)が「閣下が先頭に立ち、貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見し、勇気に感動している」と答礼した姿には、テレビドラマなどで目にする、戦前の国防婦人会の婦人たちが出征兵士を送り出す姿が重なり、何とも言えない後味の悪さが残りました。
ピュリッツァー賞の受賞歴もある米国の有名ジャーナリスト シーモア・ハーシュ氏は、「昨年9月のバルト海でのノルド・ストリーム爆破事件は、バイデン政権によるものであった」と今年2月にスクープしてバイデン大統領を慌てさせました。その彼が、先月発行した Trading with the Enemy という独自取材に基づく記事で、「ゼレンスキーは、米国から援助された資金で、ロシアからディーゼル燃料を格安で仕入れ、差額を着服している」という驚くべき話を新たにスクープしています。詳細は省きますが、ウクライナ軍がロシアと戦うために必要なディーゼル燃料をロシアから仕入れている、という笑えない話で、しかも多額の援助資金をゼレンスキーと取り巻きが着服している、というのです。別のソースからの情報でも、ゼレンスキーは大統領に就任してからの2年間で、8億5000万ドルもの蓄財をなし、戦争が始まってからは、毎月1億ドルずつ個人資産を増やしているとも言われています。ゼレンスキーは個人資産の開示要求に応じていません。
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日本国民に足りない「対米追従型の政治家達」への警戒心
プーチンを正当化することは一切できないものの、プーチンだけを一方的に悪者扱いすれば済むような単純な話ではないのです。プーチンにはプーチンの言い分もあるでしょう。岸田首相はキーウを訪問してゼレンスキーに会うのであれば、同時に「モスクワも訪問」してプーチンにも会わねばなりません。習近平はそれをやってのけました。いわゆるグローバルサウスの国々が力をつけて大きく変わりゆく国際情勢の中、いつまでもG7や西側一辺倒の視点に偏っていると針路を大きく見誤ってしまいます。
日本にとって大切なことは、絶対に戦争をしない国、戦争に加担したり巻き込まれたりしない国、としての立場を堅持し続けること以外にありません。いたずらに不安を煽ってやみくもに軍拡に走る前に、日々変わりゆく複雑な国際情勢の中で、現実論として日本が有事に巻き込まれるようなケースは具体的にどのようなケースなのか、そしてそれが起きる時期はいつ頃か、その確率はどの程度なのか、などを詳細に分析し、 そのようなことが起きないように先回りして外交努力を仕掛けていくのが本筋でしょう。選挙に勝ったとはいえ、米国の一方的な圧力に屈した対米追従型の政治家達による、憲法を無視し、国会を軽視した国の方向転換については、どんなに警戒してもし過ぎることはありません。後になって、しまった!と思っても遅いのです。
長くなったので今回はここまでにしますが、政治に関わる話題は今後も引き続き取り上げて行きます。
※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年5月5日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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image by: Salma Bashir Motiwala / shutterstock.com