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「寝た子を起こすな」衆院解散前に統一教会問題の再燃を警戒する岸田文雄の本音

一部のワイドショーを除いては、ほとんど報じられることがなくなった自民党と旧統一教会を巡る問題。一時期は時間の問題とまで言われた同教会への解散命令請求も未だ出されぬままとなっています。その裏にはどのような力学が働いているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、解散・総選挙を目指す岸田首相の旧統一教会問題に対する本音を考察。さらに「再びの沈黙」を始めたメディアに対して厳しい言葉を投げかけています。

統一教会問題はどうなった。岸田首相が解散・総選挙前につけるべき決着

電撃的ウクライナ訪問を無事すませ、G7広島サミットを前にアフリカ4か国も歴訪して、岸田首相は解散・総選挙への準備に余念がないようだ。

朝日新聞によると、敵基地攻撃能力の保有や原発運転期間の延長など政策の大転換を決めたことをもって「安倍さんもやれなかったことをやった」という“高揚感”に包まれているそうである。

自分がやりたいというより、安倍政権がやり残したことを、国民に丁寧に説明することなく、官僚作成の答弁を繰り返すだけで進めただけなのだが、それでもアンチ岸田の多い右派勢力をなだめる一定の効果はあったと考えているのだろう。

内閣支持率の上昇、衆参補選の4勝1敗に気をよくして、6月解散へまっしぐらなのだと観測するメディアもある。

だが、そうすんなりいくだろうか。筆者はいささか懐疑的だ。長期政権をねらう岸田首相が乗り切るべき来秋の自民党総裁選まではあと1年以上もある。急いで総選挙をやって、たとえ思い通りの勝利が転がり込んできたとしても、支持率を維持できるとは限らない。

総選挙後に岸田首相が描くシナリオがある。2023年度から5年間の防衛費を従来の1.5倍超の43兆円に増やすための増税と、少子化対策の財源を捻出するための社会保険料上乗せ。つまり、国民に負担を強いる政策の実行だ。それでも支持率を維持できるとしたら、日本国民はよほどお気楽だ。

なにしろ所得に占める税金や社会保険料などの負担割合を示す「国民負担率」は47.5%にもおよんでいるのだ。すでに半分近くも持っていかれているというのに、さらなる召し上げを許すことになる。

ふつうなら、内閣支持率は落ちるだろう。そうなれば自民党のことだ、党内に岸田おろしの嵐が吹き荒れ、これまでは党三役として政権を支えてきた茂木幹事長や萩生田政調会長らが権力欲をたぎらせて動き始めるだろう。総選挙で国民の信任を得たからという理由で総裁再任を勝ち取るには、もっと先の、できるだけ総裁選に近い時期をねらうべしという判断もできるはずだ。

ともあれ、躍進目覚ましい日本維新の会から受ける強迫観念もあり、岸田首相が、野党陣営の選挙態勢が整わない今のうちがチャンスと前のめりになるのも分からぬではない。

だが、そうだとすれば、ちょっと待ってほしい。あれは一体どうなったのか。国会、地方議会を問わず自民党の議員たちが統一教会と癒着し、秘書を派遣してもらったり、選挙の手伝いや、教団票の割り振りをしてもらってきた件だ。

不安心理に乗じて日本国民から莫大なカネを収奪し、せっせと韓国に送ってきた統一教会の活動に加担した政治家たちが今もなお、よりによって愛国心の強い自民党のなかで、のうのうと生きているのは、いかにも不思議なことだ。

自民党としての調査や説明はおざなりにして、抜け穴だらけの被害者救済法を成立させただけでよしとするつもりなのか。この由々しき問題に決着をつけないまま、国民の信を問う総選挙などできないはずである。

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実効性に疑問。的中してしまった「質問権行使」への不安

自民党本部は表向き、統一教会との縁切りを宣言しているが、今回の統一地方選では、多くの首長や議員が十分な説明責任を果たさないまま出馬した。メディアが掘り返さないのをいいことに、岸田首相は素知らぬ顔だ。

昨年10月17日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、宗教法人法に基づく質問権を行使して統一教会の実態調査を進め、その結果をもとに教団への「解散命令」を裁判所に請求する方針を示した。

担当の文化庁宗務課は昨年11月22日以来、5回にわたり質問権を行使し、教団から大量の回答書を受け取ったが、実は、この調査が一向に進展していない。

週刊文春5月4・11日合併号には、質問権行使にあたり、担当の文科省から諮問を受ける「宗教法人審議会」関係者の以下のようなコメントが掲載されている。

「教団側の損害賠償額約14億円は他の宗教団体でもあり得る金額で、これだけで解散請求するのは難しい。そこで、韓国の教団本部へのカネの流れを調査し、外為法に抵触する例がないかどうかを探しているようです。ただ、それもなかなか上手くいっていない。政府内では解散請求は相当難しいとの見方が強まっています」

裁判の積み重ねによって、統一教会の不法行為の数々や、反社会性は明らかになっている。そのうえでの調査なのだが、結局のところ、22件の民事裁判で認定された約14億円の損害賠償分の事実しかつかめず、それでは解散請求するのに不足しているということなのだろうか。

文春の記者の「なぜこれだけ時間がかかっているのか」という質問に対し、文化庁次長や宗務課長らは次のように答えている。

「仮に今後、解散請求命令をするとなれば、説得する相手は東京地裁の裁判官です。彼らを納得させるには、証拠を積み上げていくしかない。証拠もないのに請求しても、裁判所に棄却されるだけです」

もともと、質問権行使には警察や検察の捜査のような強制力はなく、当初から実効性が疑問視されていた。全国霊感商法対策弁護士連絡会は「宗教法人法に基づく要件は既に満たされており、今から質問権行使を行うことは、いたずらに時間を費消するだけだ」と指摘していた。

まさにその不安が的中した感じなのだ。文春の記事は、岸田首相の“やる気の無さ”を指摘する。

首相が本気にさえなれば、ともすれば“できない”理由を探して過剰に慎重になりがちな官僚の尻を叩いて、前に進め得るはずなのだが、今回は文化庁に対して官邸は何も指示をしていないという。

1995年、地下鉄サリンなどオウム真理教の一連の事件を受け、当時の与謝野馨文相は「宗教界をすべて敵に回す」と尻込みする役人を抑えて、政治主導で宗教法人法を改正し、解散命令請求を断行した。事実、宗教界はこぞって大反対だったという。だからこそ、そのような既得権を打破するには、政治主導しかないのである。

そもそも前出の宗教法人審議会関係者が言う「損害賠償額約14億円は他の宗教団体でもあり得る金額」というのにも疑問がある。過去に解散命令が出されたオウム真理教と明覚寺はともかく、現存する宗教法人でそんな規模の損害賠償をかかえている宗教法人は筆者が調べた限りでは存在しない。

宗教法人法81条1項は、解散命令できるケースについて、こう定めている。

法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと

岸田首相は昨年10月18日の衆院予算委員会で、この「違法行為」について、いったんは刑事だけで民事は含まれないという趣旨の答弁をしたが、調査の実効性への疑問が噴出したため、翌19日の参議院予算委員会では「民事も含まれる」と修正している。

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岸田のやる気の無さを招いているメディアの横並び意識

むろん、政府・与党内には「信教の自由を侵しかねない」との意見も根強い。しかし、これについても問題はないはずだ。

オウム真理教への解散命令に対する教団側の抗告を棄却した最高裁(1996年1月30日)は、「宗教法人の世俗的側面を対象とし、精神的・宗教的側面に容喙する意図によるものではない」と、解散命令が「信教の自由」に反しない根拠を示している。宗教法人格を失い、税制優遇などが受けられなくなっても、宗教活動はできるのだ。

当然、法を厳しく適用すればするほど宗教界の反発は強くなるだろう。連立政権を組む公明党への遠慮という呪縛から逃れるのも大変だ。衆院小選挙区で公明の関西6議席を食ってしまいそうな勢いの日本維新の会に乗り換えるというなら話は別だが、それでも創価学会や統一教会のみならず、諸々の宗教団体と自民党との関係は深く、一筋縄ではいかない。

できることならそっとしておいて問題の再燃を避けたいというのが岸田首相の本音であろう。支持率低下に歯止めをかけるため統一教会の解散をちらつかせて強い姿勢を示したが、この問題についてのメディアの報道が鎮静化したのを幸いに、様子見を決め込んでいるのではないか。

5月7日に教団の本拠地・韓国で開かれた合同結婚式には日本からの約550人を含め56カ国約2,600人が参加。総工費500億円をかけて建設された巨大かつ豪華絢爛な教団施設「天苑宮」でイベントも行われたという。

どこか及び腰の岸田政権と、変わらず派手な活動を続ける教団本部。メディアの責任は重大だ。「宗教を敵に回すと面倒なことになる」という意識は霞が関だけではなく、メディア界にも蔓延している。みんなで批判するのはいいが、一社だけは御免だという横並び意識が、報道の“沈黙”につながり、岸田首相の“やる気の無さ”を招いているといえないだろうか。

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image by: Sun Myung Moon, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

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