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文章チェックのプロが教える「旅の行程」と「旅の思い出」の大きな違いとは?

文章を書くのがどうも苦手で、テーマが決まっていてもなかなか書けず、自分で書いたものを読んでも面白くない。そんな悩みを抱える人は多いようです。朝日新聞の校閲センター長を長く務め、ライティングセミナーを主宰する前田安正さんのメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では今回、「旅の思い出」を書くつもりが、「旅の行程」を書いてしまっている例を紹介しながら、楽しかったはずの思い出をどう書けばいいのか? ヒントを伝えています。

「旅の思い出」が書けない、どう発想すればいいのかに悩むあなたへ

僕が主宰しているライティングセミナー「マジ文アカデミー」の受講生から、文章のテーマは決まっているのだが、どこから何を書いていいのかがわからない、どう発想すればいいのか、という声をよく聞くのです。例えば「旅」をテーマに書くことにしても、何をどう書けばいいのかわからない、という類いの悩みなのです。

「旅」というと、それまでに出かけた内容を書こうとします。すると、どこどこに行って楽しかったとか、初めて一人旅をしたとき感じた思いなどを書き始めるのです。これも悪くはないのです。ところが、往々にして面白くない。とりわけ書いている本人が、頭の中に疑問符をたくさん抱えはじめて、途中で筆が進まなくなってしまうことが多いのです。

「楽しかった思い出を書いているはずなのに、なぜ書き進められないのか」。本人が一番戸惑うのです。今回はこの謎について、考えてみたいと思います。

「旅」というテーマを出されると、「旅の思い出」を書こうとするからです。いえいえ、これ自体は間違っていないのです。ところが、本人は「旅の思い出」を書いているはずでしょうが、どっこい「旅の行程」を書いていることが多いのです。この違い、わかりますか?

旅の思い出を書けているだろうか

「旅の思い出」は旅に出て、そこで経験したなかにあります。本来、その経験を書いていかなければならないのです。ところが知らず知らずの間に、「旅の行程」をエピソードのごとく書いてしまっているのです。たとえばこうです。

1)アイドルオタクにとって、アイドルの地方公演に行くのは、遠征でもあり旅行でもあるのだ。

2)最寄りの駅に着くと、友人と2人でタクシー乗り場に並ぶ。列の後ろに向かい、2人組で目的地が同じ人を探す。良い感じの2人組がいたら、「よかったら相乗りしませんか?」と持ちかける。これで失敗したことがほぼない。私たちはタクシー代が半分浮くし、相手方は早くタクシーに乗れる上にタクシー代も浮く。Win-Winだ。会場で「お互い楽しもう!」と別れ、ライブに向かう。

3)楽しいライブが終わると余韻を噛み締めつつ会場前のタクシー乗り場を通り越し、少し離れた車通りの多い道まで出る。会場の手前でタクシーを捕まえるのだ。タクシーに乗り込み、気のいい運転手さんだと思えば、おすすめのお店を教えてもらう。そうすると大抵は、ホテル近くのおすすめの店まで乗せていってくれる。何も調べずに現地の美味しいものに辿り着く方法は絶対これだと確信している。

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「遠征」と「旅行」の違いってなに?

大まかに段落を三つに分けて、番号を振りました。確かに「旅の思い出」に違いないのですが、体験したことが列挙されているに過ぎません。

1)では「アイドルオタクにとって、アイドルの地方公演に行くのは、遠征でもあり旅行でもあるのだ」と書いています。「遠征でもあり旅行でもある」という切り口は、大いに読み手に期待を持たせます。しかし、それについて言及がありません。アイドルの地方公演に行くことを「遠征」というのだそうです。一方で、「旅行でもある」と言っています。この対比で何が展開されるのだろう、という期待に答えられていないのです。

そして、2)は会場に行くために乗るタクシーの話に話題が移ります。これも、相乗りという合理的な方法を取る面白さはあるのですが、会場に着いて、「『お互い楽しもう!』と別れ」て、それきりです。

3)では、帰りのタクシーの話になるのですが、「運転手さんおすすめのお店」を紹介してもらった話だけが書かれています。そこで食べてどうだったか、という感想もないのです。それって、旅の行程じゃありませんか?

1)アイドルオタクの「遠征と旅」→2)タクシーの相乗り→3)タクシー運転手さんのおすすめの店という「旅の行程」を紹介しただけで、肝心な「旅の思い出」を伝えたことにはならないのです。書いている本人も、何か面白くないと思っているのです。ところが、何が面白くないのかが見えていないのです。

「旅」というタイトルで、旅そのものを書く必要はないのです。「旅」が、出会いであったり、決断であったり、喜びであったり、悲しみであったりします。「旅」ということばの広がりのなかから、「旅」が意味するものを読み手に伝えられればいいのです──(メルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Shutterstock.com

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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【著者】 前田安正 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 5日・15日・25日

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