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自民党内から「岸田を羽交い締めにしてでも解散させるな」の声。それでも狙う“6月解散総選挙”で手を切る相手、組む相手

4月28日に行われた衆院3補選で全敗を喫し、ほぼ消えたとされる「6月解散総選挙」の可能性。しかし岸田首相はまだ「諦めてはいない」ようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野さんが、3つの補選が浮き彫りにした5つの注目すべきポイントを挙げ各々について解説。さらに首相が「6月解散総選挙」の際にぶち上げかねない「公明抜きの自維連立という構想」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:衆院補選全敗で吹き飛んだ「6月解散→9月総裁再選」シナリオ/いよいよ行き詰まる岸田政権

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

衆院補選3戦全敗で「6月解散総選挙」の線は消えたのか。岸田首相がやりかねないビッグサプライズ

4月28日投開票の衆院3補選は、予想通り自民党の全敗に終わったが、注目すべき第1は驚くべき投票率の低さ、第2は当選者と第2位との票差の大きさである。

投票率は……

▼東京15区=40.70%(21年衆院選と比べ18.03p減)
▼島根1区=54.62%(同6.61p減)
▼長崎3区=35.45%(同25.48p減)

と、いずれも過去最低を記録した。マスコミは、自民党が本当に全敗するのか、せめて島根だけは勝って全敗は免れるのか、そこが岸田政権の命運を決める「天王山」だなどと言って興奮状態なので、すぐに結果だけを論じようとする。しかし、長崎で3人に1人強、東京でも5人に2人ほどしか投票所に足を運ばないというこの現実は、誰が勝ったか負けたかという以前に、裏金問題をどうすることも出来ずに膿を垂れ流す自民党に対する怒りのみならず、それを目の当たりにして政権交代の見通しを示すことの出来ない野党への失望も含めた、政界全体への不信がかつてなく深まっていることを表している。

これを立憲民主党の側から見れば「3戦全勝」であり、しかも(次に見るように)いずれも第2位に大差をつけての当選であるけれども、所詮は「敵失」の余りの酷さゆえの得点増にすぎず、とうてい万歳を三唱できる状況ではない。

保守王国・島根での自民の負け方の激しさ

得票数は……

東京15区
酒井菜摘 立憲 49,476
須藤元気 無  29,669
金沢結衣 維新 28,461
飯山陽  保守 24,264
乙武洋匡 ファ 19,655(以下略)

島根1区
亀井亜紀子 立憲 82,691
錦織功政  自公 57,897

長崎3区
山田勝彦  立憲 53,381
井上祥一朗 維新 24,709

これらの数字がいろいろなことを物語る。第1に、確かに立憲はダントツ1位で勝利を収めたが、上述のように、それは主に「敵失」が大きかったためで、必ずしも立憲自身の実力の増大を示すものではない。

第2に、保守王国と言われてきた島根での自民の負け方の激しさである。衆院2区は竹下登、弟の竹下亘、秘書の青木幹雄らが固めてきた「竹下王国」であったのに対し、1区は細田吉藏(元運輸相=福田派)、その長男=博之(前衆院議長)の「細田王国」。2区の方では05年と09年に亀井久興が国民新党から竹下亘に挑んで一度は比例復活、二度目はそれも成らずに落選したが、その長女が亀井亜紀子。彼女自身は17年以降、立憲公認で細田に挑み、一度は比例復活、二度目は成らずに落選した。

いずれにしても、「自民党以外に投票したことがない」という人が圧倒的多数を占める同県で、選挙区でこれだけの差をつけて勝ったのは画期的で、さてこれを大局的な自民党退潮の前触れと見るか、それとも岸田政権の余りの不様さにたまりかねて長年の支持者でさえも「今回だけは自民党にお灸を据えないと」と動いた一時的な現象と見るか。

失敗に終わった維新の「立憲をぶっ潰す」という戦術

第3に、東京と長崎での維新の負け方が哀れである。維新の馬場伸幸代表は昨年来、事あるごとに「立憲をぶっ潰す」と、主要打撃の方向を自民にではなく立憲に向けて野党第一党の座を奪取する意図を露わにしてきたが、その戦術は失敗に終わった。前回21年の総選挙で11議席から41議席に躍進し、「全国政党に飛躍した」とまで言われた維新だが、当時から本誌は、同党の本質が、大阪府民以外に誰も興味を持たない「大阪都構想」へのしがみ付きに象徴される徹底的な大阪ローカル性にあって、全国政党になって何をしたいのかを明らかにしなければこれ以上伸びることはないだろうとの見通しを述べてきた。それが今回は、「関西万博」計画の破綻寸前という大失態でますます大阪エゴイズムが剥き出しになって失速した。

第4に、小池百合子は今回の結果で、ほぼ終わった。事前には、彼女自身が東京15区に出て当選後、自民党入りし、一気に「初の女性総理」を目指すつもりであるかの噂も流れたが、それをすれば、もしも補選で落ちた場合には7月都知事選にも出られなくなる「虻蜂取らず」に陥ると思ったのだろう。乙武洋匡という著名人をカードに使って都民ファーストと自公との連携を演出し、自民に「半ば1勝」で3戦全敗を避けるチャンスを与えて恩を売り、国政復帰の予約券を手に入れる。となると当然、都知事選に自民が対抗馬を立てることはなくなるので彼女の3選は確実になる。任期途中で(多分来年7月ダブル選挙?という形で)衆院選があれば、その時都知事を途中辞任、東京のどこかで立候補――と考えたに違いない。

が、小池のおもちゃにされることを嫌った乙武自身の自民推薦拒否でたちまち彼女の小賢しい計算が崩れ、また彼の過去の女性醜聞への反発が公明党だけでなく有権者の間でも予想以上に強かったこともあり、何と5位というほとんど泡沫候補寸前という絶望的な結果となった。

他方、前々から指摘されていた、アラビア語も喋れないのにカイロ大学首席卒業?という学歴詐称問題の偽装工作の詳細が、他ならぬ都民ファの元事務総長で弁護士の小島敏郎によって文春誌上で告発されたことの打撃は大きい。小池としては、都知事選立候補に当たってまさか「カイロ大卒」の記述を引っ込める訳には行かず、かと言って4年前と同様に「もう終わった話でしょ」という調子で突っ切って行けば今度は小島による本格的な刑事訴訟が待ち受けている。にっちもさっちも行かなくなったというのが本当のところだろう。

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日本保守党は次期衆院選で議席を獲得できるのか

第5に、作家の百田尚樹が23年9月に結成したばかりの日本保守党が、イスラム研究家の飯山陽(あかり)を擁立し、乙武を4,600票余り上回って4位に入ったのはやや驚きだった。

この陣営の内情に詳しい評論家の古谷経衡によれば、安倍晋三元首相を熱烈に崇拝してきた人たちは、彼の死をきっかけに、百田や有本香を中心とし月刊『HANADA』を事実上の機関誌とする百田派と、上念司、渡瀬裕哉らの反百田派とに分裂しており、日本保守党が岩盤保守勢力全体をまとめきれているわけではないらしい。

ネットだけの人気に限界も…一枚岩ではない日本保守党の将来-岩盤保守の内情【衆院東京15区補選】(Yahoo!ニュース4月29日付)

飯山は2万4,000票余りを得たが、そのうち岩盤保守層の7割を固めたとして1万~1万2,000票。自民候補者が不在だったことでそこから流れてきたのが6,700票程度、残りは無党派から。そのような分析から、古谷は「少なくとも来たる衆院選での日本保守党の議席獲得は難しいであろう」と結論している。

確定した「岸田の顔で選挙をやっても負ける」という見通し

さて、この結果を踏まえて岸田文雄首相は「6月会期末解散→何とか連立で過半数維持→9月自民党総裁選で再選」という、考えうる最善シナリオに突き進むことができるのかどうか。

あらゆる政界常識はNOと結論づけるだろう。この補選結果で、「岸田の顔で選挙をやっても負ける」という見通しがいよいよ確定した。外から論評する者は「70議席くらい減るだろう」「いや、50減あたりで歩留まるんじゃないか」などと面白がって予測するが、現在257名いる自民の衆院議員1人1人にしてみれば、自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に追い詰められているわけで、選挙がなければ来年10月まで議員でいられるというのに自ら進んで岸田と心中覚悟の勝負に出ようとする者はいない。「岸田を羽交締めにしてでも解散などやらせない」という声が党内のあちこちから漏れ伝わるのはそのためである。

解散は首相の「専権事項」と言われ、それは憲法第7条に天皇の国事行為の1つとして「天皇は内閣の助言と承認により……衆議院を解散すること」とされているのに基づいて、首相がそのように天皇に「助言」すれば可能だという憲法解釈を根拠としているが、これはどう考えても詭弁的な捻じ曲げで、天皇の政治的悪用に当たる。そのため、自民党内でもこの「7条解散」を不当とする考え方が根強く存在する。

それでも無理やり強行しようとする場合、「助言」するのは首相1人ではなく「内閣」だから、全閣僚の署名が要る。小泉純一郎が2005年に「郵政解散」に打って出た時には、島村宜伸農水相が最後まで反対したため、彼を罷免して首相が同相を兼任することにして強行突破した。が、1976年に三木武夫が「ロッキード事件解明」を理由に解散しようとした際には何と15人の閣僚が署名を拒否し、頓挫した。あるいは1991年の海部俊樹や2021年の菅義偉の場合は、党内の力関係で事前に解散権を封じられ、総裁選不出馬を表明して退陣に追い込まれた。

岸田が軽々に6月解散に出ようとすれば、そのような目に遭う公算大で、だから常識的にはあり得ない。

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「6月解散総選挙」なら自民はどれだけ議席を減らすのか

しかし岸田は「サプライズ好き」と言われる。それに、ここで大博打を打たなければ結局、9月に不出馬=引退となる可能性大なので、玉砕覚悟の一か八かの勝負に出る道筋を最後まで追求するのだろう。

本当に「6月解散」をやった場合、どういう結果になるかを、『週刊ポスト』4月27日号や『週刊文春』4月18日号が報じている。ポストは、政治ジャーナリストの角谷浩一と青山和弘の予測、同誌編集部による自民が前回選挙より得票数を10%減らした場合のシミュレーションを示しているので、それらをABCとした。文春は同誌による分析と現地取材でまとめていて、これをDとした。結論はこうなる。

        《週刊ポスト》     《週刊文春
    前回 A角谷 B青山 C本誌    D 
自民  261  92   198  184    186
公明    32  30   22   29      22
与党計 293  222   220  213    208

立憲    96  157   149  166    147
維新    41  47   59   50     62
国民    11  13   10   11     16
共産    10  12   12   10     10
社民   1    1    1   1     1
その他(略)

公明を切って維新連立で長期政権化も視野に

過半数は233である。

  1. A~Dいずれでも自公は過半数割れする。
  2. Aの場合、自公+国民=235で辛うじて過半数に達するが、他の場合は国民だけを巻き込んでも達しない。
  3. 自公+維新の連立となった場合、3党合計はA~D=269、279、263、270で楽々過半数維持できる。
  4. しかし公明が維新に反発して与党離脱、自維のみ連立となった場合、自民+維新=239、257、234、248で何とか過半数を超える。

従って、補選で振るわず気落ちしている維新に裏から働きかけて、「自維連立で行きたい。公明や国民がそれでも付いてくると言うなら尚更結構だが、基軸を自維に移したい」というようなことを言えば、乗ってくるのではないか……と岸田は踏んでいるのかもしれない。そうすれば、自公で過半数割れでも政権は維持、9月総裁再選を果たし、それからは憲法改正を含め大胆な政策を掲げて来年7月の衆参同日選で勝利、長期政権へ、と。

ただし、公明抜きの自維連立という構想の致命的欠陥は、公明が都道府県議員206人+市町村議員2,667人を擁しそれを支える創価学会の組織を(衰えたとはいえ)全国隈なく維持しているのに対して、維新は74人+406人で支持団体もなく、自民が今や創価学会を最大の選挙協力団体としているのに取って代わることなど到底出来ないというところにある。

さてこの与党状況に対し立憲はじめ野党はどう戦いを構築すべきなのか。それはまた来週に考えることにしよう。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年5月6日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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